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そうだ、留学しよう~アケロニア王国編
リースト伯爵家のサーモンパイ
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リースト伯爵家のランチで饗されたのは、この家の名物料理だというサーモンパイだった。
アケロニア王国には主だった貴族の家には領地の特産品を使った代表料理があって、普段料理などしないはずの貴族でも、これだけは当主や夫人が手作りして家族や客人に饗する。
リースト伯爵家は兄弟の母親の夫人が数年前に亡くなっているそうなので、サーモンパイはメガエリス伯爵のお手製だ。
メインのサーモンパイは、一人前ずつ小型の三角形のパイ生地で鮭の切り身を包んで焼き上げられている。
それが一皿に4枚並んでいて、付け合わせに温野菜やポテトの素揚げ、ソースは赤ワインを煮詰めたソースがあらかじめ皿に敷かれている。
マーゴットが隣を見ると、グレイシア王女が黒い目を輝かせて皿を見せている。
向かいにいるルシウス少年や兄カイルも、お行儀は良かったがワクワクした表情だった。
「お待たせしました。召し上がれ」
と当主のメガエリス伯爵の挨拶でランチタイムは始まった。
「お、美味しいもので人は泣けるのですね……」
まだ成人前のマーゴットは薄化粧で、軽くおしろいをはたいて眉を描き、色付きのリップクリームを唇に塗っただけだった。
これがフルメイクで来ていたら、アイライナーなどアイメイクが涙で崩れて惨事になっていただろう。
鮭の味なら知っている。カレイド王国にだって鮭が帰還する河川があるし、秋に食べるベイクドサーモンや燻製鮭は国民の好物だ。
サーモンパイだって旬の季節になると必ず食卓に上がるものだ。
だがしかし、リースト伯爵家のサーモンパイは格が違った。
「たくさん焼きましたので、遠慮なくお代わりをどうぞ」
「あのね、お客さまがお代わりしやすいようにちっちゃいサイズなんだよ~」
「中の具にバリエーションがあるんです。ぜひ、いろいろ試してみてくださいね」
メガエリス伯爵、ルシウス少年、その兄の美少年カイル。三人に次々勧められてマーゴットは陥落した。
(わかってる。淑女はよそ様のおうちでお料理のお代わりなんて、はしたないことだって! でも、これは断れない……!)
ちら、と食堂に控えていた給仕を見ると、心得たと言わんばかりにサーモンパイを取り分けてくれる。
なお、マーゴットの隣の席のカーナや、更にその隣のグレイシア王女はサーモンパイをひたすら咀嚼している。
何ならカーナはお土産に持って帰りたいと交渉までしていた。
バターたっぷりのサクッとしたパイ生地の中に、塩胡椒で味付けされた鮭の切り身が入っている。
そのままだと素朴な味で、赤ワインソースと一緒だと鮭特有の風味がぐっと際立つ。
他にもマヨネーズが入っているものや、茹で野菜やクリームチーズのもの、ブイヨンのきいたリゾット入りのものなどあって、どれも大変な美味だった。
「カロリーの高いものほど美味いんだよなあ」
グレイシア王女がお代わり分を平らげながら、しみじみ呟いている。
「若いうちからそんなこと言ってるの? なら後でルシウス君たちと一緒に身体を動かすといいよ」
そう、ルシウス少年は作業場でじっと大人しく見学していられず、兄のカイルやカーナと庭のほうへ駆けっこしたり、一角獣になったカーナに乗って屋敷の敷地内を飛んだりとアクティブだった。
午後も同じ調子だと思うので、腹ごなしに散歩してもいいかもしれない。
アケロニア王国には主だった貴族の家には領地の特産品を使った代表料理があって、普段料理などしないはずの貴族でも、これだけは当主や夫人が手作りして家族や客人に饗する。
リースト伯爵家は兄弟の母親の夫人が数年前に亡くなっているそうなので、サーモンパイはメガエリス伯爵のお手製だ。
メインのサーモンパイは、一人前ずつ小型の三角形のパイ生地で鮭の切り身を包んで焼き上げられている。
それが一皿に4枚並んでいて、付け合わせに温野菜やポテトの素揚げ、ソースは赤ワインを煮詰めたソースがあらかじめ皿に敷かれている。
マーゴットが隣を見ると、グレイシア王女が黒い目を輝かせて皿を見せている。
向かいにいるルシウス少年や兄カイルも、お行儀は良かったがワクワクした表情だった。
「お待たせしました。召し上がれ」
と当主のメガエリス伯爵の挨拶でランチタイムは始まった。
「お、美味しいもので人は泣けるのですね……」
まだ成人前のマーゴットは薄化粧で、軽くおしろいをはたいて眉を描き、色付きのリップクリームを唇に塗っただけだった。
これがフルメイクで来ていたら、アイライナーなどアイメイクが涙で崩れて惨事になっていただろう。
鮭の味なら知っている。カレイド王国にだって鮭が帰還する河川があるし、秋に食べるベイクドサーモンや燻製鮭は国民の好物だ。
サーモンパイだって旬の季節になると必ず食卓に上がるものだ。
だがしかし、リースト伯爵家のサーモンパイは格が違った。
「たくさん焼きましたので、遠慮なくお代わりをどうぞ」
「あのね、お客さまがお代わりしやすいようにちっちゃいサイズなんだよ~」
「中の具にバリエーションがあるんです。ぜひ、いろいろ試してみてくださいね」
メガエリス伯爵、ルシウス少年、その兄の美少年カイル。三人に次々勧められてマーゴットは陥落した。
(わかってる。淑女はよそ様のおうちでお料理のお代わりなんて、はしたないことだって! でも、これは断れない……!)
ちら、と食堂に控えていた給仕を見ると、心得たと言わんばかりにサーモンパイを取り分けてくれる。
なお、マーゴットの隣の席のカーナや、更にその隣のグレイシア王女はサーモンパイをひたすら咀嚼している。
何ならカーナはお土産に持って帰りたいと交渉までしていた。
バターたっぷりのサクッとしたパイ生地の中に、塩胡椒で味付けされた鮭の切り身が入っている。
そのままだと素朴な味で、赤ワインソースと一緒だと鮭特有の風味がぐっと際立つ。
他にもマヨネーズが入っているものや、茹で野菜やクリームチーズのもの、ブイヨンのきいたリゾット入りのものなどあって、どれも大変な美味だった。
「カロリーの高いものほど美味いんだよなあ」
グレイシア王女がお代わり分を平らげながら、しみじみ呟いている。
「若いうちからそんなこと言ってるの? なら後でルシウス君たちと一緒に身体を動かすといいよ」
そう、ルシウス少年は作業場でじっと大人しく見学していられず、兄のカイルやカーナと庭のほうへ駆けっこしたり、一角獣になったカーナに乗って屋敷の敷地内を飛んだりとアクティブだった。
午後も同じ調子だと思うので、腹ごなしに散歩してもいいかもしれない。
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