上 下
49 / 129
そうだ、留学しよう~アケロニア王国編

アケロニア王族の人物鑑定スキル

しおりを挟む
「そうか、アケロニア王族の特有スキルは人物鑑定スキルだったか!」
「その通り。政治の絡む政略結婚ならともかく、自分が好きで選んだ相手を間違うことはそうない」

 グレイシア王女のアケロニア王族は、堕落した前王家を現王家の始祖が打ち倒してから800年ほどの歴史の、円環大陸の中では比較的若い王朝になる。
 マーゴットのカレイド王国で3千年の歴史があることを考えると、国の格は落ちる。

 ただ、アケロニア王族は人柄が良く、代々賢王が立つことで知られていた。

 その根拠として、王族が特有スキルとして代々血筋に受け継いでいる『人物鑑定スキル』がある。
 人の性格や気質を見るスキルを持っているから、結果として善政を敷いていると思われる。

「ランクは?」
「中級プラスだ。生きているうちに上級まで上げたいものだが」

 言って、グレイシア王女は黒い瞳でじーっと、マーゴットの鮮やかなネオングリーンの瞳を見つめてきた。
 圧が強い。

「な、なあに?」
「ここまで聞いた話だと、すべてのループでわたくしはお前に会ってカレイド王国に留学しているな? バルカス王子が親友のお前を蔑ろにしているところを見て、わたくしが手出し口出しをしないわけがない」
「………………」
「ループの記憶がありながら、懲りずに同じことを繰り返したお前に、わたくしは何か言わなかったか?」
「………………」

 マーゴットはティーカップに視線を落とした。

「この馬鹿女、って怒られたわ」
「だと思った! こんな話聞かされて、現場を見たわたくしが言わぬわけがない……」

 カップをソーサーに置いて項垂れてしまったマーゴットに、グレイシア王女は笑って、スイーツスタンドのショコラを積み上げてやった。

「何度となく殺されて、まだ相手が好きという感覚はわたくしにはわからん。次期女王として、バルカス王子が王配では駄目だともわかっているのだろう?」
「………………ええ」

 マーゴットは肯定したが、口にするのがとても辛い。

「ならば、わたくしがダメ押しをしてやろう。マーゴット、お前は留学期間を半分で切り上げるんだ。残りの期間はわたくしがカレイド王国へ行く」
「えっ!?」

 何やら意外な展開になってきた。
 マーゴットのアケロニア王国での留学は短期の一ヶ月。主にグレイシア王女と同じ学園に通い、休日は行ける範囲で国内視察をさせてもらう予定だった。

「それは良いかもしれない。オレに乗れば隣町に行くのと変わらない時間で着くしね」
「よし、決まりだ!」
「ち、ちょっと待って! どういうこと? なぜ、グレイシアがカレイド王国に来ると? ダメ押しってなに!?」

 慌てるマーゴットに、グレイシア王女とカーナは示し合わせたように顔を見合わせた。
 そしてマーゴットを残念なものを見るような目で見てきた。

「わからないの? マーゴット。グレイシア王女は、君とバルカスの相性を人物鑑定で見に行ってやるって言ってくれてるんだ」
「あ!」

 そういうこと!? とやっとマーゴットも理解した。

「女王と王配としてやっていける相性なのか見てやろう。可能性のある数値なら良し。だが、反目する数値ならば、お前は次期女王として己の情を切り捨てねばならない」
「………………」
「ちなみに、わたくしはやると言ったらやるぞ。お前が拒否してもカレイド王国に行く」

 だからわかったな? と黒い瞳で念押しされた。

 マーゴットは皿の小さなショコラを口に運んだ。
 甘酸っぱいラズベリーのソース入りだ。鮮やかな赤い色と、華麗な風味は何だか目の前の剛毅な王女を彷彿とさせる。

 結局、マーゴットはこれまで何十回と繰り返したループ人生の中で、一度もまともに女王として国を統治していない。

 女王に即位する前にバルカスに学園の卒業式で殺されるか、結婚後の初夜やその後の僅かな期間のうちに別の形で殺されるかの違いがあるだけだった。



 グレイシア王女の問いかけにマーゴットは返事をしなかった。できなかったのだ。

「ま、まあ、その辺はおいおい相談していこう。そろそろ帰ろう! 晩餐はローストドラゴンなんだろう? これ以上ショコラを食べたら入らなくなってしまう!」

 何とかカーナが場を保たせてくれたが、マーゴットとグレイシア王女の間の雰囲気はちょっと悪くなった。




しおりを挟む
感想 305

あなたにおすすめの小説

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】身代わり令嬢の華麗なる復讐

仲村 嘉高
恋愛
「お前を愛する事は無い」 婚約者としての初顔合わせで、フェデリーカ・ティツィアーノは開口一番にそう告げられた。 相手は侯爵家令息であり、フェデリーカは伯爵家令嬢である。 この場で異を唱える事など出来ようか。 無言のフェデリーカを見て了承と受け取ったのか、婚約者のスティーグ・ベッラノーヴァは満足気に笑い、立ち去った。 「一応政略結婚だけど、断れない程じゃないのよね」 フェデリーカが首を傾げ、愚かな婚約者を眺める。 「せっかくなので、慰謝料たんまり貰いましょうか」 とてもとても美しい笑みを浮かべた。

あなたを忘れる魔法があれば

七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...