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守護者と立ち向かう新ループ
(マーゴットは復讐をしないと決めた)
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ところが、それからどれだけ待っても、神殿に王家からの回答が来ない。
その後、音沙汰がないのでどうなったかと思い神殿を訪れたマーゴットは事態に驚かされた。
調べてみると、神殿からの書状が国王の手に渡っていないというのだ。
「途中で何者かに書状を止められているようです」
神官が嘆息している。
更に詳しい調査と対応を行うには、少し時間がかかるとのこと。
神殿は権力とは遠いが、真理とも呼ばれる世界の理を研究し、成果を国や人々に還元する機関だ。
世俗の野心や野望と無関係だからこそ、カーナのようなハイヒューマンを召喚し、利害なく託宣を得る儀式が可能となっている。
似たような機能を持つ機関には教会があるが、あちらは人々へ生活に必要な倫理道徳を教え、病院や孤児院、救貧院など福祉施設の運営が主で、根本的な役割が違う。
運営に必要な資金は寄付金で賄っていて、多額の金貨が集まる場所でもある。
抱える金貨と財宝の分だけ権力との距離も近い。
国によって、神殿と教会、どちらが強い影響力を持つかはまちまちだった。
カレイド王国は神殿とともに歩んできた国である。
「バルカスが王太子ではない、と知られることで最も困る者は誰だい?」
カーナの問いかけに、マーゴットと神官は顔を見合わせた。
「それはやはり、バルカス本人でしょうね。あとはご両親の国王夫妻よ」
「国の中枢、特に外交担当者も困るはずです。国外にはマーゴット様が王太女として公示されておりますし」
「ふうん……知ってはいたけど、面倒くさいことをやったものだよね」
カーナは良いとも悪いとも言わない。
カレイド王国の守護者ではあっても、政治にはノータッチだった。
「カーナ。確かに私は何度も何度もバルカスに殺されたわ。でもね、復讐したいとか、残酷な気持ちを抱いてるわけではないのよ」
何十回とループを繰り返して、そのすべてでバルカス王子に殺されている。
だが、再び時を戻った今の人生でバルカスに殺されたわけではないし、以前のループと今の人生を混同もしていなかった。
「でも、ならどうする?」
「バルカスが道を外れないよう、サポートしようと思うの」
「マーゴット……」
カーナが神官と顔を見合わせて、それぞれ両肩をすくめた。
「マーゴット様。貴女がループとやらで繰り返した人生の出来事のことはカーナ様から伺っております。ですがもはや、貴女一人が頑張ってどうなるものではないのでは?」
神官から、真正面から正論で諭された。
マーゴットは彼を、始祖と同じ鮮やかな緑の瞳で見つめる。
「王太女として、次期女王の私が、神殿と雑草会に協力を求めます。それでも駄目かしら?」
「……それを言われてしまうと。致し方ありませぬ。できる限りのことをしましょう」
やっぱり駄目な女だなあ、と親友の王女の声が聞こえた気がした。
そもそも、これまで何十回と繰り返してきたループで、少なくとも学園の卒業式に婚約破棄されるまでに起こる出来事はほぼ把握できているのだ。
あらかじめ準備と覚悟をしながら対応していけば、悲劇的な最期を避けることは難しくないのではないか。
ループしている人生の1回目、2回目ともに大筋は同じでも、具体的には異なった現象となった出来事も多かった。
今回は、マーゴット自身の行動や、カーナの干渉、他者の協力を得て展開を変えていけないか模索してみることにした。
「マーゴット。バルカスへの恨みはないのかい?」
「恨み……そうね。不思議とバルカスを恨んだりって、ないわ。子供の頃からの仲だからなのか、どうしても見捨てられなくって」
「本当に、バルカスに復讐もしないと?」
思慮深い声音でカーナが語りかけてくる。
それは大丈夫だ、とマーゴットは思った。今回、あるいはまた次以降のループで少しずつでも行動を改めていけば、バルカスとの破綻は避けられる。
マーゴットが上手く立ち回りさえすれば。きっと。
(前回は寝室で不用意なことを言ってしまった。あんなこと、思っていても絶対に言ってはならないことだった)
『他の女と婚前交渉した不潔な男を娶ってやったのよ。種馬の役目ぐらい果たしたらどうなの』
(誰を愛していてもいい。あなたは私の元に帰ってくるしかないのだから)
「バルカスを憎むことのないよう、頑張りたいわ」
「そうか……。より良い選択をしたいと願うのも、強さの証拠だ。もちろん、オレにできることなら喜んでやらせてもらうよ」
そしてマーゴットは、学園の最終学年に進学した。
バルカス王子は良くない取り巻きを引き連れて、相変わらず素行が良くない。
そうこうしているうちに、平民の女生徒ポルテと出逢い、親しくなって関係を深めていった。
ここまでは、これまでのどのループでも共通の展開だった。
その後、音沙汰がないのでどうなったかと思い神殿を訪れたマーゴットは事態に驚かされた。
調べてみると、神殿からの書状が国王の手に渡っていないというのだ。
「途中で何者かに書状を止められているようです」
神官が嘆息している。
更に詳しい調査と対応を行うには、少し時間がかかるとのこと。
神殿は権力とは遠いが、真理とも呼ばれる世界の理を研究し、成果を国や人々に還元する機関だ。
世俗の野心や野望と無関係だからこそ、カーナのようなハイヒューマンを召喚し、利害なく託宣を得る儀式が可能となっている。
似たような機能を持つ機関には教会があるが、あちらは人々へ生活に必要な倫理道徳を教え、病院や孤児院、救貧院など福祉施設の運営が主で、根本的な役割が違う。
運営に必要な資金は寄付金で賄っていて、多額の金貨が集まる場所でもある。
抱える金貨と財宝の分だけ権力との距離も近い。
国によって、神殿と教会、どちらが強い影響力を持つかはまちまちだった。
カレイド王国は神殿とともに歩んできた国である。
「バルカスが王太子ではない、と知られることで最も困る者は誰だい?」
カーナの問いかけに、マーゴットと神官は顔を見合わせた。
「それはやはり、バルカス本人でしょうね。あとはご両親の国王夫妻よ」
「国の中枢、特に外交担当者も困るはずです。国外にはマーゴット様が王太女として公示されておりますし」
「ふうん……知ってはいたけど、面倒くさいことをやったものだよね」
カーナは良いとも悪いとも言わない。
カレイド王国の守護者ではあっても、政治にはノータッチだった。
「カーナ。確かに私は何度も何度もバルカスに殺されたわ。でもね、復讐したいとか、残酷な気持ちを抱いてるわけではないのよ」
何十回とループを繰り返して、そのすべてでバルカス王子に殺されている。
だが、再び時を戻った今の人生でバルカスに殺されたわけではないし、以前のループと今の人生を混同もしていなかった。
「でも、ならどうする?」
「バルカスが道を外れないよう、サポートしようと思うの」
「マーゴット……」
カーナが神官と顔を見合わせて、それぞれ両肩をすくめた。
「マーゴット様。貴女がループとやらで繰り返した人生の出来事のことはカーナ様から伺っております。ですがもはや、貴女一人が頑張ってどうなるものではないのでは?」
神官から、真正面から正論で諭された。
マーゴットは彼を、始祖と同じ鮮やかな緑の瞳で見つめる。
「王太女として、次期女王の私が、神殿と雑草会に協力を求めます。それでも駄目かしら?」
「……それを言われてしまうと。致し方ありませぬ。できる限りのことをしましょう」
やっぱり駄目な女だなあ、と親友の王女の声が聞こえた気がした。
そもそも、これまで何十回と繰り返してきたループで、少なくとも学園の卒業式に婚約破棄されるまでに起こる出来事はほぼ把握できているのだ。
あらかじめ準備と覚悟をしながら対応していけば、悲劇的な最期を避けることは難しくないのではないか。
ループしている人生の1回目、2回目ともに大筋は同じでも、具体的には異なった現象となった出来事も多かった。
今回は、マーゴット自身の行動や、カーナの干渉、他者の協力を得て展開を変えていけないか模索してみることにした。
「マーゴット。バルカスへの恨みはないのかい?」
「恨み……そうね。不思議とバルカスを恨んだりって、ないわ。子供の頃からの仲だからなのか、どうしても見捨てられなくって」
「本当に、バルカスに復讐もしないと?」
思慮深い声音でカーナが語りかけてくる。
それは大丈夫だ、とマーゴットは思った。今回、あるいはまた次以降のループで少しずつでも行動を改めていけば、バルカスとの破綻は避けられる。
マーゴットが上手く立ち回りさえすれば。きっと。
(前回は寝室で不用意なことを言ってしまった。あんなこと、思っていても絶対に言ってはならないことだった)
『他の女と婚前交渉した不潔な男を娶ってやったのよ。種馬の役目ぐらい果たしたらどうなの』
(誰を愛していてもいい。あなたは私の元に帰ってくるしかないのだから)
「バルカスを憎むことのないよう、頑張りたいわ」
「そうか……。より良い選択をしたいと願うのも、強さの証拠だ。もちろん、オレにできることなら喜んでやらせてもらうよ」
そしてマーゴットは、学園の最終学年に進学した。
バルカス王子は良くない取り巻きを引き連れて、相変わらず素行が良くない。
そうこうしているうちに、平民の女生徒ポルテと出逢い、親しくなって関係を深めていった。
ここまでは、これまでのどのループでも共通の展開だった。
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