上 下
31 / 129
守護者と立ち向かう新ループ

神殿に来ないバルカス王子1

しおりを挟む
 カーナの言う通り、彼はマーゴットたちが10歳になる頃までは、年に数回は直接カレイド王国まで生身で訪れて、遊んでくれていた。

 現代国家の中でも、カレイド王国は親友グレイシア王女のアケロニア王国と並んで、ハイヒューマンが過ごしやすい良い魔力に満ちた国なのだそうで。

 ところがあるときを境にぴたりとカーナの来訪が止まった。

 代わりに、神殿で炎を焚いてもらって、守護者として曖昧な魔力の塊だけ召喚する形へと、いつの間にか変わってしまっていた。

「カーナ。この国に来てくれなくなったのは、どうして?」

 これまで聞いたことのなかった疑問をぶつけてみると、とっくに少女から青年の姿に戻っていたカーナに、琥珀の目を見開いて意外そうな顔をされた。

「ダイアン国王に頼まれたんだよ。メイ王妃は他国出身者で始祖たちの血を一滴も持ってないから、守護者のオレに謁見する資格がない。王妃を惨めな気持ちにさせてしまうから、自分の代の間は来ないでほしいって」
「伯父様がそんなことを言ったの!?」

 これは初めて知った。自国の守護者に対して何と無礼な物言いか。

「別に悪いことはない。ダイアン国王も自分が申し訳ないことを言ってるってちゃんとわかっていた。それに、神殿を通した召喚までは拒絶しなかった。だからオレは受け入れたんだ」
「そうだったの……」

 自分の知らないところで、国王とカーナの間にそんな対話があったとは。



「カーナ。なのにこの国に来てくれたってことは」

 マーゴットを助けてくれると言うことだろうか?
 恐る恐る尋ねると、カーナは頷いた。

「最初にマーゴットからループのことを相談された後、俺のほうでもハイヒューマン仲間たちに時戻りに詳しい者がいないか調べていたんだ」

 その結果、時間移動する能力は、カレイド王国の始祖のハイエルフ一族の特殊能力で間違いないそうだ。
 マーゴットの見立てと同じだ。

「ループは君の身が害されることで発生している。君を傷つけるのはバルカスだけかい?」
「……そうよ」

 これまでのループで、マーゴットは必ずバルカスの手で苦境と困窮に追い込まれ、殺害されている。

「そのバルカスもここに呼び出してもらっているんだけど、……来ないんだよね」

 カーナは一緒にお茶を飲んでいた神官を見た。神官は申し訳なさそうに首を振っている。

「呼び出しの手紙は王宮に届けてもらってある。読んだらすぐ来るようにと書いたけど、来ないね」

 神殿にカーナがいて、彼から手紙が来たことは王宮でも把握しているはずだった。

 なのに、バルカスは来ない。

 守護者との繋がりは、カーナ王族にとって欠かせないものだと、彼だって知っているはずなのに。


しおりを挟む
感想 305

あなたにおすすめの小説

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】身代わり令嬢の華麗なる復讐

仲村 嘉高
恋愛
「お前を愛する事は無い」 婚約者としての初顔合わせで、フェデリーカ・ティツィアーノは開口一番にそう告げられた。 相手は侯爵家令息であり、フェデリーカは伯爵家令嬢である。 この場で異を唱える事など出来ようか。 無言のフェデリーカを見て了承と受け取ったのか、婚約者のスティーグ・ベッラノーヴァは満足気に笑い、立ち去った。 「一応政略結婚だけど、断れない程じゃないのよね」 フェデリーカが首を傾げ、愚かな婚約者を眺める。 「せっかくなので、慰謝料たんまり貰いましょうか」 とてもとても美しい笑みを浮かべた。

あなたを忘れる魔法があれば

七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...