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第一章 初回ループ~卒業式の婚約破棄

カレイド王国の血筋順位

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 カレイド王国の王位継承権の決め方は、他国にはない特殊な方法が用いられている。

 まず重要なのは、始祖のハイエルフか、中興の祖の女勇者、あるいは両方の血筋を受け継いでいること。

 中興の祖の女勇者は多産だったので、多くの子供を産んだ。
 子孫はそれぞれ王族、貴族、平民のいずれにも広がっている。
 このため、カレイド王国は王侯貴族制の国でありながら、平民差別の少ない国として知られていた。
 特に女勇者の血を引いた者は、彼女と同じ燃えるような赤毛を持つことが多かったので、末裔だと一目瞭然だったからだ。



 今からおよそ500年ほど前、老朽化していた王家の墓を新しく作り直すとき。

 当時王家に仕えていた魔導具師が始祖や女勇者の遺骸の一部を用いて、彼らの末裔かどうかを判別する魔導具を作成した。

 単純に、始祖や女勇者の子孫であれば、持つだけで身体のどこかに、どれだけ祖先に近い血筋の者かを表す数字が浮き出る魔導具だ。

 その魔導具は単純に“血筋チェッカー”と呼ばれている。
 魔力で作られた透明な多角形の魔石で、チェック機能を使うには血筋の者が手に持つだけでいい。

 現在では改良が進んで、およそ千番まで順位が出るようになっている。

 この魔導具が開発されて以降、カレイド王国の国王には必ず血筋順位で百番内の者が即位するよう定められている。

 百番以内ならば、王族でも貴族でも平民でも、極端なことをいえば賎民でもいい。

 王位継承権は、一位から百位までの者に機械的に与えられ、死亡すると次の順位の者が自動的に繰り上がるようになっている。



 マーゴットたちの親世代では、バルカスの父親である現国王が血筋順位の一位だった。

 現在は現国王の弟公爵の娘、マーゴットが一位である。
 マーゴットの父は現国王と同じ両親の間に生まれた弟だったし、母も王家の親戚だったから当然、娘のマーゴットに血は凝縮される。

 王子のバルカスには、血筋チェッカーを持たせても数字が表れなかった。
 よって彼には王位継承権はない。
 厳密に言えばあるのだが、千番以降の欄外なのでないも同然なのだ。

 これではマーゴットが女王として即位したとき、バルカスは王族として王家に残れない。国民が認めない。
 せめて末番に近くてもいいから数字があれば良かったがバルカスは千番内にも入れなかったのだ。

 だから国王はバルカスの後、弟公爵のもとにマーゴットが生まれたことを知って、二人の婚約を結ぶことで息子バルカスの身を守ることにした。

 まだマーゴットもバルカスも物心つく前の話だった。



 本来ならオズ公爵令嬢マーゴットは次期女王として、不必要な苦労をすることのない境遇のはずだった。

 やはり、王太女である本来の身分を名乗れない制限がネックだ。

 他国の平民出身の王妃の懇願で、本来ならただの一王子に過ぎないバルカスに王太子の称号を名乗らせたのは王家最大の誤りだったと言えよう。

 王統譜にはもちろん、バルカスが王太子などと記されていない。
 王家も王族たちも、そして一部の高位貴族らと、血筋順位の数字を持つ者たちはそれを知っている。

 ただ、公式でこそなかったが、王妃が積極的に広めてしまったので、国内でバルカスは王太子で通ってしまっている。

 このことを事情を知る者たちは異常事態と認識していたが、王妃を溺愛する国王が反対意見を抑えていた。



 バルカスは、他国の平民出身の王妃の血が混ざったことで、王位継承権を認められないほど始祖の血の薄い王子だ。

 彼に王太子を名乗らせてしまったことは、本来の王位継承権一位のマーゴットの地位と権利を大きく害した。

 加えて、まだマーゴットが思春期に入る前に両親の公爵夫妻が流行り病で亡くなってしまっている。

 その後、マーゴットたちが学園の高等部に進学する前後から、バルカス王子が横暴な態度を取るようになってきた。

「お前は俺の婚約者だ。婚約者の家の物は俺の物も同然だろう?」

 そんな理屈で、バルカスは王家からマーゴットのオズ公爵家への支援金を着服するようになった。
 その上、オズ公爵家の執事を兼ねた家令から金庫の鍵を強奪して、公爵家の金も持ち出すようになっていった。

 マーゴットの生活が貧しくなった最初のきっかけは、このバルカスの横領と窃盗行為のせいだった。


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