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side マリオンの前世~前世の妹と錬金スキル

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 マリオンの前世の名前はグレンという。

 前世でも同じアケロニア王国の国民で、当時何歳か年上で、通っていた学園の先輩でもあった王子様の名前の一部を貰って名付けられたと亡くなった母から聞いていた。

 何の因果か、マリオンはグレンと同じブルー男爵家に生まれている。
 可憐な顔立ちも水色の瞳も、グレンとよく似ていた。違うのは前世はピンクブロンド、今世はピンクブラウンと髪色が違うことだろうか。

 グレンは庶子だったが、実母の死後に引き取られた実父のブルー男爵家では暖かく迎えられ、義母や異母妹との関係者も良好だった。
 マリオンはその異母妹カレンの子孫にあたる。

 ブルー男爵家は商会経営の貴族だったが、この異母妹カレンが子供の頃から魔導具師として活躍していた。
 とはいえ天才といえるほどではなく、アイデアばかり先走るカレンは魔導具師としては平均よりちょっと上程度の腕でしかなかった。



 ところがこの前世の妹カレンは、魔導具師の歴史に名を残した人物なのである。

 彼女の価値は、魔導具師以外のところにあった。
 カレンはいわゆる『異世界転生者』で、違う世界で生きていた人物がこの世界に記憶を持ったまま転生してきた女性だったのだ。

 ただ、それだけなら同じ異世界転生者は他にもいたし、珍しいとまでは言えなかった。

 彼女だけがこの世界に持ち込んだ叡智があった。
 『フリーエネルギー』の概念だ。

 この世界でエネルギーといえば人間や魔石などが持つ魔力だ。
 だがカレンは「前世の知識がこの世界でも応用できるなら、魔力はありとあらゆるところから自由自在に調達し生み出すことが可能なはず」と言い出して世界を震撼させた。

 その上、人間はそうして調達した無尽蔵の魔力を素材にして、己の意図によって望む現実を創り出せるとまで言った。

 もしそれが本当なら、世界を生み出した創造主にも等しい叡智だとして、カレンの話を聞いた者たちは戦慄することになった。

 この世界には人類の上位種ハイヒューマンや、ハイヒューマンが更に進化した神人と呼ばれる存在がごく少数いて、支配していると言われている。
 カレンの言うことが真実なら、人間はハイヒューマンに進化するためのチケットを手に入れたことになるからだ。



 実際は、カレンの知識はあくまでも一情報の可能性に過ぎず、物事を自由自在に生み出す創造スキルになることもなかった。

 しかしそこで、彼女の話が単なる与太話と切り捨てるにはまだ早かったのだ。

 フリーエネルギー理論を魔導具師カレンが世界に向けて発表した同時期に、彼女にはひとつのあるスキルが生えた。

 錬金スキルといって、種別は魔法。
 この世界では古代に失われたはずの超レアスキルだった。

 自分の魔力を通じて、魔石や鉱物、金属、魔導具などの魔力なじみの良い素材や道具に、術者の意図次第でどんな属性や付与も可能にするスキルだ。

 魔導具師カレンの子孫であるマリオンも、彼女と同じ錬金スキルを持っている。
 ランクは上級。理論上ならどんな属性付与も可能だった。

 マリオンがただの魔導具師だったなら、いくら幼馴染みだからといってエドアルド王子がタイアド王国の研究学園に招聘することはなかっただろう。

 錬金魔導具師という、魔導具師の上位称号持ちだからこそ、高い報酬と待遇で招かれたのだ。
 そのマリオンを王家の継承者争いに巻き込んで虐げ、研究学園から追放してしまったタイアド王国の魔導具部門は、今後長い期間、停滞することになるだろう。



「まあ金だけは唸るほど持ってる国だからな。自国で開発できなくても、他国から輸入すればいいとでも思ってるんだろ」

 ちょうど王家と王都の魔導具師ギルドとの交渉がひと段落ついて、マリオンの祖父ダリオンが冒険者ギルドの孫へ報告に来た。

「研究学園の教師や生徒たちの中には有望な人たち、わりといたんだけどね。彼らに錬金スキルを伝授しそびれちゃったな」
「そいつら、タイアド王国にいる限り先がねえだろ」
「本気で研究を続けたいなら他国に行くでしょ。僕が戻った後ならアケロニア王国まで来てくれてもいいし」
「うちの孫ちゃんはどうしてこうも甘いんだろうなァ……」

(わしの可愛いマリオンちゃんを助けもしなかった奴らなど、アケロニア入りさせるわけないじゃろが!)

 結局、王家とも魔導具師ギルドとも話し合いした結果、マリオンへの慰謝料や治療費(過酷な環境で何ヶ月も過ごして激痩せ状態のため)、賠償金などは搾り取れるだけ取った。
 ただ、やはり黒幕が王妃なのでタイアド国王は王妃本人の断罪には難色を示している。

(クソ王妃め、わしのマリオンちゃんに謝罪すら拒否してやがる!)

 マルガレータ王妃曰く、「エドアルド第二王子と親しい者に謝罪する言葉などない」とのこと。
 ダリオンはしみじみ、この国滅んでくれねえかなと思ったものである。


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