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泣き寝入りは致しません

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「昨日、ダリオン君と魔導具師ギルドに行ってたんでしょ? どうなったの?」

 冒険者ギルドの研究室にて。

 エドアルド王子がミスラル銀を持ってきたのだが、マリオンは祖父と一緒に出かけていて留守にしていた。
 預かったミスラル銀の塊を渡すと、マリオンはとても残念そうな顔でしょんぼりして、ルミナスに大型化してもらってもふもふに埋もれて癒されていた。

「僕から奪った設計図を使って、自分の発明品にして特許登録と販売までやったのは、魔導具師ギルドのサブギルマス。当然、その場でじいちゃんが拘束して衛兵に引き渡してた。でも牢屋に入れたはいいけどそいつ、王妃の親戚なんだって」
「「うわあ」」

 犯罪は、発生した場所の国が裁く。そう、このタイアド王国、退廃と享楽の王族の国がだ。

「王族、それも王妃の関係者だと、厳しい断罪は望めそうもないわね……」
「じいちゃんは潰す気満々みたいだけどね。でね、そのサブギルマスと、僕が見た偽王子の顔が一致してたんだ。つまり王妃が親戚のサブギルマスに命じて研究学園で偽王子に変装させてエドの評判を落としてた。しかも僕だけじゃなくて有望な他の生徒や講師たちの発明も盗んでたみたい」
「……これから大変ね」

 王家、研究学園、魔導具師ギルド、そしてマリオンの故郷アケロニア王国、祖父ダリオンの冒険者ギルド。
 巻き込まれたものが多すぎる。
 その上、マリオンは故郷に戻ると支援者層が厚いから彼らも乗り出してきかねなかった。

「王妃は発明品を盗めとまでは命令してなかったみたい。けど盗人は魔導具師ギルドのサブギルマスでしょ? 王都支部はもう信用ガタ落ちだよね」
「マリオンの設計図が盗まれて商品化までされちゃってること、証明はできたの?」

 こちらも心配そうにランチのパイ焼きを切り分けながら、心配そうに姉ガブリエラが聞いてきた。

「それは簡単。設計図なしで一から同じものが作れるかどうか実演するだけだから。僕は開発者本人だもの。設計図なんかなくたっていくらでも再現できるもんね」
「ピュイッ」(マリオンすごい! すごい!)

 テーブルの上でリンゴを齧っていたルミナスの賛辞が嬉しい。これは後で思う存分にもふらねば。

「そのサブギルマス、盗んだ発明品を生産ルートと流通ルートに乗せてしまってたのでしょ? その辺はどうなったの?」

 本来の発明の意図とズレたまま販売されてしまった調味料の小瓶を掴んで、ハスミンが確認してくる。

「そりゃあ、販売利権ごと全部、僕に返還だよ。売れた商品数に応じて慰謝料も増え増え。この数ヶ月で国内だけでも数万個単位で売れたらしいからね。ふふ、最終的にいくらになるかなあ」

 今、祖父のダリオンはそれらの契約書の締結手続きで魔導具師ギルド相手に強気の交渉に当たってくれている。

「泣き寝入りしないで済んだのは良かったけど、本来ならもっと高品質の魔導具になるはずだったのに。残念ね」
「既に販売されてる調味料ボトル専用に、交換用アタッチメントを販売することになると思う。それで僕が改めて全自動調理器を開発して販売したときセットできるようにね」

 マリオンもまさか、魔導具師の自分から設計図を盗まれ奪われる事態に陥るとまでは、さすがに思っていなかった。

 魔導具のメンテナンスは魔導具師にしかできない。魔導具開発は、メンテナンス方法の仕様書作成と必ずセットになるし、メンテナンスは魔導具の内部構造を熟知する開発者でなければ安全な解説もできなかった。



 マリオンが奪われた設計図は他にもいくつかあったが、意図的にマリオンが設計に歪みを加えていたため、まだ商品化まで進んでいなかった。
 そして魔導具師ギルドのサブギルマスの執務室からは、マリオンの手書きの設計図が数枚発見された。もう完全な黒だ。

 大柄な祖父ダリオンがちょっと詰め寄って脅すと、サブギルマスは簡単に黒幕の名前を吐いた。そう、タイアド王国の王妃の名前をだ。


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