【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
35 / 62

再会は裸の社交場でした

しおりを挟む
「あら、男湯のほう混んでるわねえ?」
「個室の湯もあるみたいだし、借りてきましょうか?」

 今日は出先の町で、近隣の農地を回っていたマリオンたちだ。
 土いじりなどはしなかったが、畑を歩いていたので全身が土埃でうっすら汚れてしまった。

 拠点にする町は大衆浴場があったので宿に戻る前に汗と汚れを落としていくことにした。

 マリオンは魔導具師として開発用の設計図を引くのが日常だから、地図にお野菜モンスター発生場所を記録して、次に現れる場所の予測計算などはお手のもの。姉妹たちには大いに感謝された。

 マリオンはあまり戦うためのスキルや手段を持っておらず、魔法が使える綿毛竜コットンドラゴンのルミナス頼りなので、役に立てるのは嬉しい。

「何だろ、騎士や冒険者たちが多いね。大丈夫だよ、身体と頭洗ってあったまったらすぐ出てくるから」
「ピュアッ」(おふろ! おふろ♪)



 マリオンたちが利用した大衆浴場は町の人たちが楽しみのために使う複合施設だ。
 大浴場の他に地熱を利用したサウナや岩盤浴コーナー、マッサージ、軽食やドリンク類を販売しているフードコートも建物内に併設されている。

 男湯の浴場内に入ると確かに混んでいる。
 ガタイの良い男たちの姿が目立った。

「ルミナス、軽くお湯で水浴びする?」
「ピュイッ」(する!)

 たらいにぬるま湯を満たしてやると、仔犬サイズのルミナスは嬉しそうに行水を始めた。

「ピューイッ」(マリオン。ぼく、あっちで遊んでるね!)

 軽く全身の羽毛をお湯にくぐらせると、すぐ浮き上がって魔法で水を払って、ふよふよと浮き上がる。

「うん。湯船のお湯は熱いらしいから気をつけて」

 マリオンが身体を洗っている隙にルミナスは浴場内を探索するつもりだった。



 が、しかし。

「え、何でこんなところに綿毛竜コットンドラゴンが?」
「あ、前脚にタグ付いてますね。利用客の使役獣みたいです」

 浴場内の奥の大型の湯船に、金髪碧眼の若い男と、その周囲に数人の体格の良い男たちがいた。身体つきからすると一般人ではない。今回利用しているという騎士や冒険者たちだろう。

 全員特に見覚えはなかったが、まだ十代後半だろう金髪碧眼くんのネオンオレンジ色の魔力には見覚えがあった。
 正確には波長だが。

「ピュイ?」(エドくん?)
「え、何で俺のこと……って、お前、ルミナスか!?」
「ピューイッ」(大当たり~)
「あたっ」

 とりあえず仔犬サイズのまま後ろ脚でその金髪頭にキックした。
 こいつはマリオンが辛い目に遭うことになった元凶!



 とりあえずエドアルド王子の頭の上にぽふっと着地して、洗い場にいるマリオンに聞こえないよう湯船の中で後ろ向きになり互いに小声になった。

「え、え、何でルミナスがここにいるの?」
「グアアアア!」(そんなことより言うことがあるでしょ! マリオンをあんなひどい目にあわせて! ばか! エドくんのあほ!)
「あ、やだ、痛いって、こらっ!」

 げしっ、げしっと後ろ脚に普段はマリオンを傷つけないよう羽毛の中に隠している爪を出して、エドアルド王子を引っ掻くように蹴った。

「君がいるってことは、もしかしてあそこで頭洗ってるのは……」
「ピュイッ」(マリオンに決まってるじゃん)

 湯気で曇ってるにも関わらず、瓶底のように分厚いレンズの眼鏡をかけたままの若い男の子が、少し離れた洗い場にいる。
 眼鏡が邪魔で、子供の頃の面影を確認できなかったが、澄んだ水色の魔力は間違えようがない。

「ま、マリオン……裸、初めて見た……」

 王子、鼻血、鼻血出てますー!
 という側近たちの声がどこか遠かった。







※エドアルド王子→タイアド王国の第二王子。18歳童貞。いきなり銭湯一緒は刺激が強過ぎたw
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

処理中です...