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子守りドラゴンは決意する
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「ピュッピュイー?」(マリオン、発情期ー?)
「!??」
何だか夢うつつで身体が熱いな? と思ったらルミナスの鳴き声で目が覚めた。
ハッとなってルミナスの柔らかいもふもふ羽毛から身体を起こすと、下半身の間で生理現象だ。寝巻き代わりの薄手のズボンの股間が盛り上がっている。
「ち、違うよ! ……ちょっと抜いてくる」
何やら良い夢を見ていた気がする。でもちょっと切ない感覚も残っている。
部屋のトイレにこもって手早く熱を発散してから台所のルミナスの元に戻ると、まだ夜明け前だ。
「やっぱり簡易でもいいから工房が欲しいな」
実家の領地に開いたマリオンの工房は小規模だったが、こうして目が覚めたらすぐ実現に取り掛かれるようになっていて夢中だったのだけど。
「ピュイ?」(マリオン、もうおきる?)
「ううん。朝まで寝る」
前脚を広げてくれたルミナスのふわふわの胸の中へ飛び込んで、ぽふっと受け止めてもらう。
暖かい。台所の暖房はもう切っていたが、ルミナスの羽毛には魔力が通っていてほんわか心地良い温度なのだ。
何なら防寒具のない外でだってルミナスに包まれていれば凍死の危険もなく快適に過ごせる。
「僕はルミナスがいてくれればそれだけでいいなあ……」
「ピュッピュアッ」(うれしい! マリオン、すき!)
「僕もルミナス、大好き~」
この国で自分を虐げた連中に仕返ししたら、とっとと故郷に帰ろう。そうしたらもう二度と国から出ないで研究三昧の日々を送ってやる。
(そういえば“先輩”。今回は先回りしてないんですね……)
再び夢の中に入りつつある中で、夢と現実がごちゃ混ぜになった頭の中でそんなことを思った。
(まあ、街中で偶然会ったとしても僕は知らんぷりするけどね。先輩……エド君……)
会いたい、と建前と裏腹の小さな呟きはルミナスの竜種の鋭い聴覚に拾われた。
「ピュウ……」(マリオン……)
ぽふ、ぽふっと優しく抱き込んだマリオンの背中を宥めるように、もふもふ羽毛の手で叩いてやった。
「ピュワン……」(こんなきみを置いていけないよね。マリオン)
ルミナスはずっと大好きなマリオンと一緒にいるつもりだが、綿毛竜は成竜になるとすぐ、子孫を残すため番を探す旅に出る習性がある。
番はすぐ見つかることもあれば、何年、何十年とかかることもある。
「ピュアア……」(ぼくの種族、数少ないからね。お嫁さんに卵みっつは産んでもらわないと絶滅しちゃう)
ルミナスの本来の大きさは、研究学園を飛び出たときの2メートル半ほどの大きさだ。普段は小回りのきく仔犬サイズに魔法で変化してマリオンの懐や服のフードの中に入っている。
そろそろ仔竜の時代が終わり、本格的な大人の竜へと成長する頃だった。
ルミナスがマリオンと出会ったのは、マリオンが両親を亡くした4歳の頃。
そのときルミナスは孵化寸前の卵で、孵化してからは13年ほどの付き合いになる。
いまマリオンは17歳。祖国ではあと一年で成人になる。ルミナスが成竜になる時期とほぼ同じ。
その頃にはルミナスの子守りドラゴン役もお役御免になるかなー? と思っていたけれど、この調子だとまだまだマリオンから離れることに不安がある。
「ピュイー……」(マリオン。エドくんと再会して仲良く楽しく暮らすはずだったのにね)
そうしたらルミナスはマリオンをエドアルド王子に預けて、その間に番を探してくるつもりだったのだが。
「ピュイッ」
ルミナスは綿毛竜の種族全体のご主人様のハイヒューマンから、マリオンやエドアルド王子の前世のことを教えられている。
彼らは恋人同士だったが、不幸なすれ違いで関係が破綻したまま人生を終えてしまった。
特にマリオンの前世の人物は、たくさんの人に、たくさんの嘘をついて逃げ回った人物だったと。
その嘘をついた相手の中に、エドアルド王子の前世だった剣聖と、ルミナスたち綿毛竜のご主人様である聖剣の聖者、ふたりの聖なる魔力持ちがいたのが良くなかった。
本来なら聖なる魔力持ちを害すると、その者の末路は悲惨になることが多い。
ただ、前世のマリオンは自分の嘘が良くないことも、嘘をついた人々を傷つけていることも知っていた。ちゃんと、いけないことだとわかっていた。
でも、わかっていてもどうしても自分が過去に受けた性的被害が苦しくて、逃げるしかできなかったのだ。
そんな彼を、剣聖も、聖剣の聖者も罰することも呪詛で反省を促すこともしなかった。
それどころか、彼の幸せを願う家族や友人たちと一緒に祝福を与えたぐらいだ。
残念ながら彼らの祈りや祝福は前世のうちに実を結ぶことはなく、マリオンとして生まれ変わった現世に引き継がれている。
前世と同じブルー男爵家の男子として生まれたのは、多分前世の妹の祈りと願いの反映だ。
優れた魔導具師の適性を持ち、錬金術スキルまで持っていたのは友人や先輩たちの祝福だろう。
恋人だった剣聖は生まれ変わっても再会できる縁を願った。
来世で必ず自分と結ばれるように、との私欲を満たす願いを発することがなかったのはさすがというべきか。
ハイヒューマンの聖剣の聖者は、この現代でもまだ健在だ。
彼は後にルミナスになる綿毛竜の卵をマリオンに授け、生涯心を許せる友を与えている。
「ピュイ……」(みんなで幸せになれたらいいのにね。マリオン)
ルミナスが孵化したとき、ちょうどブルー男爵領に遊びにきていた王子の滞在中だったので、ルミナスも彼を知ってはいるのだ。
短い間だったけど、マリオンと一緒に世話をしたり遊んでくれたりして、タイアド王国に帰ってしまう日は本当に寂しかった。
だが、それはそれ、これはこれ。
とりあえずルミナスはエドアルド王子に会ったら頭から丸齧りしてお仕置きすると決めていた。
「ピュイッ!」(大事な友達を泣かすやつ、友達でもダメ絶対!)
「!??」
何だか夢うつつで身体が熱いな? と思ったらルミナスの鳴き声で目が覚めた。
ハッとなってルミナスの柔らかいもふもふ羽毛から身体を起こすと、下半身の間で生理現象だ。寝巻き代わりの薄手のズボンの股間が盛り上がっている。
「ち、違うよ! ……ちょっと抜いてくる」
何やら良い夢を見ていた気がする。でもちょっと切ない感覚も残っている。
部屋のトイレにこもって手早く熱を発散してから台所のルミナスの元に戻ると、まだ夜明け前だ。
「やっぱり簡易でもいいから工房が欲しいな」
実家の領地に開いたマリオンの工房は小規模だったが、こうして目が覚めたらすぐ実現に取り掛かれるようになっていて夢中だったのだけど。
「ピュイ?」(マリオン、もうおきる?)
「ううん。朝まで寝る」
前脚を広げてくれたルミナスのふわふわの胸の中へ飛び込んで、ぽふっと受け止めてもらう。
暖かい。台所の暖房はもう切っていたが、ルミナスの羽毛には魔力が通っていてほんわか心地良い温度なのだ。
何なら防寒具のない外でだってルミナスに包まれていれば凍死の危険もなく快適に過ごせる。
「僕はルミナスがいてくれればそれだけでいいなあ……」
「ピュッピュアッ」(うれしい! マリオン、すき!)
「僕もルミナス、大好き~」
この国で自分を虐げた連中に仕返ししたら、とっとと故郷に帰ろう。そうしたらもう二度と国から出ないで研究三昧の日々を送ってやる。
(そういえば“先輩”。今回は先回りしてないんですね……)
再び夢の中に入りつつある中で、夢と現実がごちゃ混ぜになった頭の中でそんなことを思った。
(まあ、街中で偶然会ったとしても僕は知らんぷりするけどね。先輩……エド君……)
会いたい、と建前と裏腹の小さな呟きはルミナスの竜種の鋭い聴覚に拾われた。
「ピュウ……」(マリオン……)
ぽふ、ぽふっと優しく抱き込んだマリオンの背中を宥めるように、もふもふ羽毛の手で叩いてやった。
「ピュワン……」(こんなきみを置いていけないよね。マリオン)
ルミナスはずっと大好きなマリオンと一緒にいるつもりだが、綿毛竜は成竜になるとすぐ、子孫を残すため番を探す旅に出る習性がある。
番はすぐ見つかることもあれば、何年、何十年とかかることもある。
「ピュアア……」(ぼくの種族、数少ないからね。お嫁さんに卵みっつは産んでもらわないと絶滅しちゃう)
ルミナスの本来の大きさは、研究学園を飛び出たときの2メートル半ほどの大きさだ。普段は小回りのきく仔犬サイズに魔法で変化してマリオンの懐や服のフードの中に入っている。
そろそろ仔竜の時代が終わり、本格的な大人の竜へと成長する頃だった。
ルミナスがマリオンと出会ったのは、マリオンが両親を亡くした4歳の頃。
そのときルミナスは孵化寸前の卵で、孵化してからは13年ほどの付き合いになる。
いまマリオンは17歳。祖国ではあと一年で成人になる。ルミナスが成竜になる時期とほぼ同じ。
その頃にはルミナスの子守りドラゴン役もお役御免になるかなー? と思っていたけれど、この調子だとまだまだマリオンから離れることに不安がある。
「ピュイー……」(マリオン。エドくんと再会して仲良く楽しく暮らすはずだったのにね)
そうしたらルミナスはマリオンをエドアルド王子に預けて、その間に番を探してくるつもりだったのだが。
「ピュイッ」
ルミナスは綿毛竜の種族全体のご主人様のハイヒューマンから、マリオンやエドアルド王子の前世のことを教えられている。
彼らは恋人同士だったが、不幸なすれ違いで関係が破綻したまま人生を終えてしまった。
特にマリオンの前世の人物は、たくさんの人に、たくさんの嘘をついて逃げ回った人物だったと。
その嘘をついた相手の中に、エドアルド王子の前世だった剣聖と、ルミナスたち綿毛竜のご主人様である聖剣の聖者、ふたりの聖なる魔力持ちがいたのが良くなかった。
本来なら聖なる魔力持ちを害すると、その者の末路は悲惨になることが多い。
ただ、前世のマリオンは自分の嘘が良くないことも、嘘をついた人々を傷つけていることも知っていた。ちゃんと、いけないことだとわかっていた。
でも、わかっていてもどうしても自分が過去に受けた性的被害が苦しくて、逃げるしかできなかったのだ。
そんな彼を、剣聖も、聖剣の聖者も罰することも呪詛で反省を促すこともしなかった。
それどころか、彼の幸せを願う家族や友人たちと一緒に祝福を与えたぐらいだ。
残念ながら彼らの祈りや祝福は前世のうちに実を結ぶことはなく、マリオンとして生まれ変わった現世に引き継がれている。
前世と同じブルー男爵家の男子として生まれたのは、多分前世の妹の祈りと願いの反映だ。
優れた魔導具師の適性を持ち、錬金術スキルまで持っていたのは友人や先輩たちの祝福だろう。
恋人だった剣聖は生まれ変わっても再会できる縁を願った。
来世で必ず自分と結ばれるように、との私欲を満たす願いを発することがなかったのはさすがというべきか。
ハイヒューマンの聖剣の聖者は、この現代でもまだ健在だ。
彼は後にルミナスになる綿毛竜の卵をマリオンに授け、生涯心を許せる友を与えている。
「ピュイ……」(みんなで幸せになれたらいいのにね。マリオン)
ルミナスが孵化したとき、ちょうどブルー男爵領に遊びにきていた王子の滞在中だったので、ルミナスも彼を知ってはいるのだ。
短い間だったけど、マリオンと一緒に世話をしたり遊んでくれたりして、タイアド王国に帰ってしまう日は本当に寂しかった。
だが、それはそれ、これはこれ。
とりあえずルミナスはエドアルド王子に会ったら頭から丸齧りしてお仕置きすると決めていた。
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