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芸術と虚飾の国のお食事事情~お昼は生チーズとトマトのバゲットサンドでした
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「やはり彩りが少ないと売れ行きが悪いわね」
マリオンを連れて郊外にお野菜モンスター討伐に出かけていた姉妹の姉、藍色の髪と水色の瞳の知的な美女ガブリエラ。
夕方前に戻ってきた、冒険者ギルドの食堂の軽食コーナーに残ったカップケーキを前に、考え込んでいた。
同じマンドラゴラもどきで作ったキャロットケーキのうち、半分はクリームチーズ入りのクリームを絞って銀色のアラザンを散らしたもの。
もう半分はチョコレート風味のバタークリームを絞ったのみ。
飾りのないチョコクリームのカップケーキがほとんど残ってしまっている。
タイアド王国は芸術と虚飾の国と言われている。
何でも見た目第一なので、野菜も少しでも歪んでいたり、傷が付いていたりするとすぐ廃棄だ。
そういう野菜をガブリエラは早朝、市場で安く仕入れてきて、宿泊室の簡易キッチンで安く食費を抑えていたのだが。
妹のハスミンに任せていると好きなものしか食べない上に外食がちになるので、姉のガブリエラが管理しないと出費が嵩むこと嵩むこと。
「余ったケーキはどうするの? 廃棄?」
「ピュイ?」
「まさか」
カップケーキも、飾りがあると無しとで売れ行きが全然違う。
手持ちの収納バッグから、カラフルなアイシングでデコレーションした小さなクッキーをチョコクリームに挿していく。お野菜モンスターを模した顔のあるカボチャやトマトなど。
クッキーの周囲にはこれまたカラフルなチョコスプレーを散らして出来上がり。
「まあ見てなさい。夜には売り切れてるわ」
夕食はそのまま冒険者ギルドの食堂で三人で取った。
マリオンは一番安い日替わり定食のポークソテーと付け合わせのピクルス、パン、スープ。
姉妹はカラフルなサラダやパスタ、ローストチキンなどを単品で注文してシェアしている。
「あら、多く頼み過ぎちゃった。お野菜ちょっと食べてくれない?」
「……ありがと」
「ピュイッ」
最初からマリオンに分ける気満々のチョイスだ。それに野菜サラダなら草食の綿毛竜のルミナスもドレッシングがかかっていないところを食べられる。
「お昼のバゲットサンドは美味しかったなあ」
姉妹がマリオンの故郷の祖母から預かって、時間経過なしの収納袋で持ってきてくれた生チーズ。
いわゆる真っ白なモッツァレラチーズはブルー男爵領の名産のひとつだ。百年ほど前、一族の男子が当時の王族と同時期に学園生だった縁から王家に献上するようになって、ブルー男爵家とブルー商会の発展に寄与した出世品のひとつ。
午前中、冒険者ギルドを出て街のパン屋でバゲットを買って、討伐先でひと段落ついたとき皆で食べた。
三分割したバゲットを縦に半分に切れ目を入れて、オリーブオイルを思う存分垂らす。
そこに分厚めにスライスした生チーズと、やはりスライスしたトマトを挟んで岩塩をぱらり。マリオンは塩はちょっと多めが好きだ。
あとは思う存分、かぶりつく!
生チーズとトマト、バジルなどを乗せたカプレーゼも美味だが、マリオンはこのバゲットサンドが一番好きだ。
素材が新鮮だと工夫も何もいらない。いつ食べても美味しい。
それは、ここタイアド王国でも変わらなかった。
タイアド王国でも当然、酪農業はあるから生チーズは販売されているのだが物価の高い王都ではマリオンの故郷の3倍、下手すると4倍だ。手が出なかった。
ちなみにパンやライスなど主食は他国とそう変わらない水準である。
などとあれこれ思い出しているうちに、軽食コーナーのガブリエラのカップケーキは見事に完売していた。
味より見た目。タイアド王国で生き延びるコツである。
「ほらね」
というわけで本日の宿代と食事代がペイしたわけだ。
「あたしたちの故郷だと、パイやタルトは包み焼きで簡単に作ることが多いんだけどね。この国だと、型抜きしてない包み焼きは見栄えが悪いし手抜きだからって敬遠されちゃうのよねえ……」
ハスミンがサラダのアボカドをフォークに刺しながら嘆息している。
包み焼きは、広げて伸ばしたタルト生地の上に具材を乗せ、その具材を包むように端を少々折り畳んで作る手法だ。
ちなみに完全に具材を包み込むわけではない。端を数センチほどだ。
一般的なタルトや生地の土台を空焼きする工程が不要で、具を支えるように生地の端を折り畳んだ後はそのままオーブンで焼けるので時短できる。
「僕んちも家で普段食べるタルトやキッシュは包み焼きが多かったなあ。ベリーの美味しい時期はばあちゃんがよく作ってくれたっけ」
空焼きしないので、具を乗せた部分がちょっとだけしっとりしてしまうのだが、それもまた良きかな。
マリオンは祖母の得意な、新鮮な牛乳で作るカスタードクリーム入りのタルトが好きだ。
家が商会なので、バニラエッセンスでなく取り扱い商品でもあるバニラビーンズのような高価なスパイスが入っていて、こればかりは町のお店のものより風味が良くて美味しかった。
「そう言うと思って。じゃーん! こちらもおばあさまから預かってきました!」
ハスミンが手持ちの収納バッグから取り出したのは、まさに包み焼きの田舎タルトだ。
中にカスタードクリーム、上にブルーベリーをどっさり乗せて焼いた故郷のあの!
ちょっとだけ生地が茶色いのは、これまた領地で採れる蕎麦粉を混ぜているからだ。
「ルミナスくんにもお土産あるのよーう」
「ピュアーッ!?」
とこちらは生のままのブルーベリーが盛られた小さなカゴ。草食の綿毛竜のルミナスは果物が大好物なのだ。
さっそくカゴに駆け寄って、白いふわふわのお手々でブルーベリーを掴んでいる。
「食後のデザートにしましょ」
研究学園から逃げてきてまだ一日。
だが、美味しい一日はまだ終わらない。
マリオンを連れて郊外にお野菜モンスター討伐に出かけていた姉妹の姉、藍色の髪と水色の瞳の知的な美女ガブリエラ。
夕方前に戻ってきた、冒険者ギルドの食堂の軽食コーナーに残ったカップケーキを前に、考え込んでいた。
同じマンドラゴラもどきで作ったキャロットケーキのうち、半分はクリームチーズ入りのクリームを絞って銀色のアラザンを散らしたもの。
もう半分はチョコレート風味のバタークリームを絞ったのみ。
飾りのないチョコクリームのカップケーキがほとんど残ってしまっている。
タイアド王国は芸術と虚飾の国と言われている。
何でも見た目第一なので、野菜も少しでも歪んでいたり、傷が付いていたりするとすぐ廃棄だ。
そういう野菜をガブリエラは早朝、市場で安く仕入れてきて、宿泊室の簡易キッチンで安く食費を抑えていたのだが。
妹のハスミンに任せていると好きなものしか食べない上に外食がちになるので、姉のガブリエラが管理しないと出費が嵩むこと嵩むこと。
「余ったケーキはどうするの? 廃棄?」
「ピュイ?」
「まさか」
カップケーキも、飾りがあると無しとで売れ行きが全然違う。
手持ちの収納バッグから、カラフルなアイシングでデコレーションした小さなクッキーをチョコクリームに挿していく。お野菜モンスターを模した顔のあるカボチャやトマトなど。
クッキーの周囲にはこれまたカラフルなチョコスプレーを散らして出来上がり。
「まあ見てなさい。夜には売り切れてるわ」
夕食はそのまま冒険者ギルドの食堂で三人で取った。
マリオンは一番安い日替わり定食のポークソテーと付け合わせのピクルス、パン、スープ。
姉妹はカラフルなサラダやパスタ、ローストチキンなどを単品で注文してシェアしている。
「あら、多く頼み過ぎちゃった。お野菜ちょっと食べてくれない?」
「……ありがと」
「ピュイッ」
最初からマリオンに分ける気満々のチョイスだ。それに野菜サラダなら草食の綿毛竜のルミナスもドレッシングがかかっていないところを食べられる。
「お昼のバゲットサンドは美味しかったなあ」
姉妹がマリオンの故郷の祖母から預かって、時間経過なしの収納袋で持ってきてくれた生チーズ。
いわゆる真っ白なモッツァレラチーズはブルー男爵領の名産のひとつだ。百年ほど前、一族の男子が当時の王族と同時期に学園生だった縁から王家に献上するようになって、ブルー男爵家とブルー商会の発展に寄与した出世品のひとつ。
午前中、冒険者ギルドを出て街のパン屋でバゲットを買って、討伐先でひと段落ついたとき皆で食べた。
三分割したバゲットを縦に半分に切れ目を入れて、オリーブオイルを思う存分垂らす。
そこに分厚めにスライスした生チーズと、やはりスライスしたトマトを挟んで岩塩をぱらり。マリオンは塩はちょっと多めが好きだ。
あとは思う存分、かぶりつく!
生チーズとトマト、バジルなどを乗せたカプレーゼも美味だが、マリオンはこのバゲットサンドが一番好きだ。
素材が新鮮だと工夫も何もいらない。いつ食べても美味しい。
それは、ここタイアド王国でも変わらなかった。
タイアド王国でも当然、酪農業はあるから生チーズは販売されているのだが物価の高い王都ではマリオンの故郷の3倍、下手すると4倍だ。手が出なかった。
ちなみにパンやライスなど主食は他国とそう変わらない水準である。
などとあれこれ思い出しているうちに、軽食コーナーのガブリエラのカップケーキは見事に完売していた。
味より見た目。タイアド王国で生き延びるコツである。
「ほらね」
というわけで本日の宿代と食事代がペイしたわけだ。
「あたしたちの故郷だと、パイやタルトは包み焼きで簡単に作ることが多いんだけどね。この国だと、型抜きしてない包み焼きは見栄えが悪いし手抜きだからって敬遠されちゃうのよねえ……」
ハスミンがサラダのアボカドをフォークに刺しながら嘆息している。
包み焼きは、広げて伸ばしたタルト生地の上に具材を乗せ、その具材を包むように端を少々折り畳んで作る手法だ。
ちなみに完全に具材を包み込むわけではない。端を数センチほどだ。
一般的なタルトや生地の土台を空焼きする工程が不要で、具を支えるように生地の端を折り畳んだ後はそのままオーブンで焼けるので時短できる。
「僕んちも家で普段食べるタルトやキッシュは包み焼きが多かったなあ。ベリーの美味しい時期はばあちゃんがよく作ってくれたっけ」
空焼きしないので、具を乗せた部分がちょっとだけしっとりしてしまうのだが、それもまた良きかな。
マリオンは祖母の得意な、新鮮な牛乳で作るカスタードクリーム入りのタルトが好きだ。
家が商会なので、バニラエッセンスでなく取り扱い商品でもあるバニラビーンズのような高価なスパイスが入っていて、こればかりは町のお店のものより風味が良くて美味しかった。
「そう言うと思って。じゃーん! こちらもおばあさまから預かってきました!」
ハスミンが手持ちの収納バッグから取り出したのは、まさに包み焼きの田舎タルトだ。
中にカスタードクリーム、上にブルーベリーをどっさり乗せて焼いた故郷のあの!
ちょっとだけ生地が茶色いのは、これまた領地で採れる蕎麦粉を混ぜているからだ。
「ルミナスくんにもお土産あるのよーう」
「ピュアーッ!?」
とこちらは生のままのブルーベリーが盛られた小さなカゴ。草食の綿毛竜のルミナスは果物が大好物なのだ。
さっそくカゴに駆け寄って、白いふわふわのお手々でブルーベリーを掴んでいる。
「食後のデザートにしましょ」
研究学園から逃げてきてまだ一日。
だが、美味しい一日はまだ終わらない。
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