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side王子 じいじの孫語りと王子の脅し
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「王家の争いなんぞ、どうでもええわい。王子だろうが王妃だろうが、わしの可愛い孫を虐げたことに変わりはないからな」
ハッと国王と王太子がダリオンを見る。
「わしは結婚が遅かったからの。娘が産まれて、結婚して孫まで生まれると聞いたときは嬉しさに咽び泣いたものよ。だが出産日になっても任務に出ていたわしは産まれた孫になかなか会えなんだ。だがそんな不甲斐ないジジイに、娘夫婦は孫の名付けを託してくれた。そう、マリオンとな」
あれっ、何か語り始めたぞ? と皆思ったが、口を挟める雰囲気ではない。
「冒険者ギルドのギルドマスターだったわしは、大陸北西部の支部長に就任したばっかりに、なかなか孫ちゃんに会えなかった。初めて歩いたときも、初めて家族を呼んだ瞬間にも立ち会えなかった。マリオンが最初に呼んだのは母であるわしの娘を『まー』。次はばあさん、わしの奥さんを『ばー』。娘の旦那は親戚の姉ちゃんふたりの後の五番目だ、ざまぁみろ!」
「「「………………」」」
この話、まだ続きます?
続くようだ。
「わしがマリオンに『じいじ』と呼んでもらえたのは近所の野良猫4匹の後だ……いや、順番などどうでもよい。孫ちゃんに呼んでもらえた、そのことに大金貨の山より尊い価値がある!」
「だ、ダリオン殿、不幸な行き違いでお孫殿を不遇に陥らせたことは謝る! できたら穏便に話し合いで解決できたらと思うのだが!」
ただの冒険者ギルドの一支部のギルドマスター相手ならば、国王のほうが権力が強い。
だがこの男、ダリオンは一国の統括支部長を更に超えて、大陸北西部をまとめた広域の統括支部長だ。
その影響力は世界屈指の大国タイアド王国の国王といえど無視できるものではなかった。
「……新聞によるとマリオンは既に研究学園を出ている。ダリオン殿は行き先をご存知ですか?」
「エドアルド王子様よう。知ってたとして、わしがお前さんに可愛い孫ちゃんのこと教えると思ってる? だとしたら相当、頭の中にお花咲いてんぞ?」
もう全然、取り付く島もなかった。
だが反論はできない。エドアルド王子は小さく溜め息をつくと、騎士服の腰に下げていた剣を鞘ごと引き抜いて、ドンっと謁見室の床、正確には捕らえてきた不届き者たちのすぐ横を突いた。
「!?」
鞘のままの剣が床にめり込んでいる。
いや、そんなことより、剣を持つエドアルド王子の全身から、ネオンオレンジの魔力が陽炎のように立ち昇っていた。
「兄上。俺はあなたが素晴らしい次期国王となられることを楽しみにしているのです! そのとき、王弟として側近の一人としてお役に立てることこそ我が喜び。……ですが」
ギロリ、と兄を見る。
びくりと震える王太子。
普段は愛嬌のある顔で朗らかに笑う顔しか見せない異母弟の顔が、キリリと引き締まっていた。
「この件について、的確に処断されることを望みます」
言外に「適切な処断ができなければ王太子としても次期国王としても認めない」と匂わせて、兄の王太子、父の国王、そして義母の王妃を最後に見た。
「俺はマリオンを探しに行きます。後のことはお任せしますね!」
そう言って元気よく謁見室を出て行った。
残されたのは国王と王太子、王妃、それに先に謁見していたダリオンなのだが。
「ここの第二王子様、聖なる魔力持ちかよ。確か剣士だったか? こりゃあ将来は剣聖様ですかねえ、王族の皆さん?」
この世界で、聖女や聖者など“聖なる魔力”を持つ者は、魔力がネオンカラー、即ち蛍光色に光る。
エドアルド王子はネオンオレンジの魔力を持っていた。
昔、ダリオンの家にまだ幼かったエドアルド王子が遊びに来ていた頃はただのオレンジ色だったから、成長するに従って覚醒したことになる。
「ろくな話し合いもできませんでしたが、わしも失礼しますよ。しばらくは王都の冒険者ギルドにおりますから連絡をお待ちしておりますぞ」
ハッと国王と王太子がダリオンを見る。
「わしは結婚が遅かったからの。娘が産まれて、結婚して孫まで生まれると聞いたときは嬉しさに咽び泣いたものよ。だが出産日になっても任務に出ていたわしは産まれた孫になかなか会えなんだ。だがそんな不甲斐ないジジイに、娘夫婦は孫の名付けを託してくれた。そう、マリオンとな」
あれっ、何か語り始めたぞ? と皆思ったが、口を挟める雰囲気ではない。
「冒険者ギルドのギルドマスターだったわしは、大陸北西部の支部長に就任したばっかりに、なかなか孫ちゃんに会えなかった。初めて歩いたときも、初めて家族を呼んだ瞬間にも立ち会えなかった。マリオンが最初に呼んだのは母であるわしの娘を『まー』。次はばあさん、わしの奥さんを『ばー』。娘の旦那は親戚の姉ちゃんふたりの後の五番目だ、ざまぁみろ!」
「「「………………」」」
この話、まだ続きます?
続くようだ。
「わしがマリオンに『じいじ』と呼んでもらえたのは近所の野良猫4匹の後だ……いや、順番などどうでもよい。孫ちゃんに呼んでもらえた、そのことに大金貨の山より尊い価値がある!」
「だ、ダリオン殿、不幸な行き違いでお孫殿を不遇に陥らせたことは謝る! できたら穏便に話し合いで解決できたらと思うのだが!」
ただの冒険者ギルドの一支部のギルドマスター相手ならば、国王のほうが権力が強い。
だがこの男、ダリオンは一国の統括支部長を更に超えて、大陸北西部をまとめた広域の統括支部長だ。
その影響力は世界屈指の大国タイアド王国の国王といえど無視できるものではなかった。
「……新聞によるとマリオンは既に研究学園を出ている。ダリオン殿は行き先をご存知ですか?」
「エドアルド王子様よう。知ってたとして、わしがお前さんに可愛い孫ちゃんのこと教えると思ってる? だとしたら相当、頭の中にお花咲いてんぞ?」
もう全然、取り付く島もなかった。
だが反論はできない。エドアルド王子は小さく溜め息をつくと、騎士服の腰に下げていた剣を鞘ごと引き抜いて、ドンっと謁見室の床、正確には捕らえてきた不届き者たちのすぐ横を突いた。
「!?」
鞘のままの剣が床にめり込んでいる。
いや、そんなことより、剣を持つエドアルド王子の全身から、ネオンオレンジの魔力が陽炎のように立ち昇っていた。
「兄上。俺はあなたが素晴らしい次期国王となられることを楽しみにしているのです! そのとき、王弟として側近の一人としてお役に立てることこそ我が喜び。……ですが」
ギロリ、と兄を見る。
びくりと震える王太子。
普段は愛嬌のある顔で朗らかに笑う顔しか見せない異母弟の顔が、キリリと引き締まっていた。
「この件について、的確に処断されることを望みます」
言外に「適切な処断ができなければ王太子としても次期国王としても認めない」と匂わせて、兄の王太子、父の国王、そして義母の王妃を最後に見た。
「俺はマリオンを探しに行きます。後のことはお任せしますね!」
そう言って元気よく謁見室を出て行った。
残されたのは国王と王太子、王妃、それに先に謁見していたダリオンなのだが。
「ここの第二王子様、聖なる魔力持ちかよ。確か剣士だったか? こりゃあ将来は剣聖様ですかねえ、王族の皆さん?」
この世界で、聖女や聖者など“聖なる魔力”を持つ者は、魔力がネオンカラー、即ち蛍光色に光る。
エドアルド王子はネオンオレンジの魔力を持っていた。
昔、ダリオンの家にまだ幼かったエドアルド王子が遊びに来ていた頃はただのオレンジ色だったから、成長するに従って覚醒したことになる。
「ろくな話し合いもできませんでしたが、わしも失礼しますよ。しばらくは王都の冒険者ギルドにおりますから連絡をお待ちしておりますぞ」
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