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オヤジさんが行方不明に!?
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帰国して数日は、時差ボケも抜けず、疲労でダウンしてしまったカレンだった。
「うう……アラサー女子、体力の限界だったあ……っ」
心配した恋人のセイジは朝晩様子を見に来てくれたし、カレンのアパートのすぐ近くに実家のあるセイジの母親もレンジでチンですぐ食べられる煮物などの差し入れに来てくれた。
しかも容器は洗って返す必要のない使い捨てパックだ。気遣いが身に染みた。
数日経って疲れがまあまあ抜けてきて、友人知人に土産を渡しに行こうとして。
まず小料理屋ひまらやに行こうと思って恋人のセイジに声をかけたところ、セイジの顔色が悪い。
「実はさ、ひまらやがカレンが出立した翌週辺りから閉店したまんまなんだよ」
心配させたくなくて、ツアー中のカレンには知らせなかったのだそうだ。
「え。確か息子さん夫婦にお孫さんが産まれるって言ってたわよね」
「店のシャッターに特に休みのお知らせなんかは貼ってないんだけど……」
孫が産まれる予定は聞いていたし、年末にも店の休日には男だてらに息子夫婦の家まで家事の手伝いに行っていると聞いていたから、用事が長引いているのかも知れない。
だが結局、その後カレンたちは小料理屋ひまらやの店主のオヤジさんに再会することはなかった。
翌月4月に入って下旬頃には小料理屋ひまらやの小さな店舗付き住宅は取り壊されて、跡地では一般住宅の工事が始まってしまったのだ。
現場の作業員に聞いてみると、新しい家を建てている施工主はあのオヤジさんや家族ではない別の人だった。
「息子さん夫婦と一緒に住むことにしたのかな。せめて連絡先がわかれば良かったんだけど」
「事故や病気じゃないといいんだけどね……」
オヤジさんの大学の同級生だった、某上場企業の会長ソースさんの連絡先なら、セイジがケータイ番号を知っていた。
だが連絡してみると、ソースさんもオヤジさんの消息がわからず困っているのだそうだ。
「もうオヤジさんのごはんが食べられないなんて……」
こんなに別れが唐突で呆気ないなんて、カレンは思いもしなかった。
久し振りに訪れた地元のスーパー銭湯内のレストランで、仕事帰りのセイジとふたりで落ち込んでしまった。
「他の常連さんたちは別の店に行くようになったみたいだ。団塊さんや院長さんは自宅近く、和尚さんはお寺さんと懇意の寿司屋、ソースさんはまあお偉いさんだからね。オヤジさんがいなければこっちまで来ることもないらしい」
「そっかあ……」
カレンより彼らとの付き合いが長かったセイジは常連さんたちの連絡先も知っていたが、別の店はまた別の常連がいるわけで。
新しい店を開拓するのもなかなか大変だそうだ。
大きな海老とカニカマの入った天丼を肴に日本酒をちびちび啜っていたカレンは、世の中の無常を感じて悲しくなった。
「他のお店で食事するとオヤジさんのありがたみがしみじみわかるのよね。あんなに美味しい料理をあの値段でお酒と一緒にって、ほんと有り得なかったわ……」
価格帯はファミレスとチェーンの居酒屋の中間くらい。
店主のオヤジさん自体が元料亭の板長。上場企業の会長のソースさんやゴルフ仲間たちが寄るだけあって、料理はどれも一流の味だった。
何より、今どきあんなふうにアットホームで年上のおじさんたちと、ほっこりした同じ空間を堪能できる場所はそうはなかった。
「俺たちも新しい店、開拓しようぜ」
「そうね……はあ、つらいわ」
と言ってもカレンたちの自宅近くだとファミレスや回転寿司などチェーン店ばかり。
個人経営の店があったかと思えば、流行ってない地元民すら入るのを躊躇する店だったりで。
あとはクラブやバーだが、そういう店の食事は乾き物か揚げ物の軽食が多いのでつまらない。
「あたしもまだ再就職先決まらないし。しばらく自炊を頑張ってみるわー」
だから食べに来てね、と言って、カレンは天丼の大海老にかぶりついた。
※どっか別の世界に行ってしまいましたね……(´・ω・`)ショボン…
「うう……アラサー女子、体力の限界だったあ……っ」
心配した恋人のセイジは朝晩様子を見に来てくれたし、カレンのアパートのすぐ近くに実家のあるセイジの母親もレンジでチンですぐ食べられる煮物などの差し入れに来てくれた。
しかも容器は洗って返す必要のない使い捨てパックだ。気遣いが身に染みた。
数日経って疲れがまあまあ抜けてきて、友人知人に土産を渡しに行こうとして。
まず小料理屋ひまらやに行こうと思って恋人のセイジに声をかけたところ、セイジの顔色が悪い。
「実はさ、ひまらやがカレンが出立した翌週辺りから閉店したまんまなんだよ」
心配させたくなくて、ツアー中のカレンには知らせなかったのだそうだ。
「え。確か息子さん夫婦にお孫さんが産まれるって言ってたわよね」
「店のシャッターに特に休みのお知らせなんかは貼ってないんだけど……」
孫が産まれる予定は聞いていたし、年末にも店の休日には男だてらに息子夫婦の家まで家事の手伝いに行っていると聞いていたから、用事が長引いているのかも知れない。
だが結局、その後カレンたちは小料理屋ひまらやの店主のオヤジさんに再会することはなかった。
翌月4月に入って下旬頃には小料理屋ひまらやの小さな店舗付き住宅は取り壊されて、跡地では一般住宅の工事が始まってしまったのだ。
現場の作業員に聞いてみると、新しい家を建てている施工主はあのオヤジさんや家族ではない別の人だった。
「息子さん夫婦と一緒に住むことにしたのかな。せめて連絡先がわかれば良かったんだけど」
「事故や病気じゃないといいんだけどね……」
オヤジさんの大学の同級生だった、某上場企業の会長ソースさんの連絡先なら、セイジがケータイ番号を知っていた。
だが連絡してみると、ソースさんもオヤジさんの消息がわからず困っているのだそうだ。
「もうオヤジさんのごはんが食べられないなんて……」
こんなに別れが唐突で呆気ないなんて、カレンは思いもしなかった。
久し振りに訪れた地元のスーパー銭湯内のレストランで、仕事帰りのセイジとふたりで落ち込んでしまった。
「他の常連さんたちは別の店に行くようになったみたいだ。団塊さんや院長さんは自宅近く、和尚さんはお寺さんと懇意の寿司屋、ソースさんはまあお偉いさんだからね。オヤジさんがいなければこっちまで来ることもないらしい」
「そっかあ……」
カレンより彼らとの付き合いが長かったセイジは常連さんたちの連絡先も知っていたが、別の店はまた別の常連がいるわけで。
新しい店を開拓するのもなかなか大変だそうだ。
大きな海老とカニカマの入った天丼を肴に日本酒をちびちび啜っていたカレンは、世の中の無常を感じて悲しくなった。
「他のお店で食事するとオヤジさんのありがたみがしみじみわかるのよね。あんなに美味しい料理をあの値段でお酒と一緒にって、ほんと有り得なかったわ……」
価格帯はファミレスとチェーンの居酒屋の中間くらい。
店主のオヤジさん自体が元料亭の板長。上場企業の会長のソースさんやゴルフ仲間たちが寄るだけあって、料理はどれも一流の味だった。
何より、今どきあんなふうにアットホームで年上のおじさんたちと、ほっこりした同じ空間を堪能できる場所はそうはなかった。
「俺たちも新しい店、開拓しようぜ」
「そうね……はあ、つらいわ」
と言ってもカレンたちの自宅近くだとファミレスや回転寿司などチェーン店ばかり。
個人経営の店があったかと思えば、流行ってない地元民すら入るのを躊躇する店だったりで。
あとはクラブやバーだが、そういう店の食事は乾き物か揚げ物の軽食が多いのでつまらない。
「あたしもまだ再就職先決まらないし。しばらく自炊を頑張ってみるわー」
だから食べに来てね、と言って、カレンは天丼の大海老にかぶりついた。
※どっか別の世界に行ってしまいましたね……(´・ω・`)ショボン…
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