アラサー女子、人情頼りでブラック上司から逃げきります!

真義あさひ

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現地で出会ったミスター禅

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 翌月3月に入ってすぐ、不安を抱えながらもカレンはクラウドファンディング主催会社一向と渡米した。

「時間とか気にしなくていいから、何かあったらメッセージでも電話でもすぐ寄越してな?」

 成田空港まで見送りに来てくれた恋人セイジのお言葉である。



 まずは西海岸、カリフォルニアでのビジネス展示会だ。
 半日以上のフライトで時差ボケの頭で、到着日の午後にさっそく会場入りして壇上でスピーチすることになり、足は震える、手も震える、スピーチはつっかえつっかえ、と散々だった。

 だがスピーチ原稿だけは頭に叩き込んであったし、日本でセイジにも何回も聞いてもらって練習はしていた。
 そもそも自分のクラウドファンディング経験談を話すのだ。
 前職を解雇されてからの経緯から始まって、思いきってラスベガスに遊びに来て、ちょっとしたビギナーズラックを引き当てた話では聴衆の笑いを取れた。

 カレンに与えられたスピーチ時間は7分。
 まあまあ、上手くまとめて終われたと思う。
 他、会場によっては10分以上の持ち時間が設定されているところもあるので、スピーチ原稿はいくつかバリエーションを作ってある。



「おーい、青山さん。動画撮れたよ、バッチリ!」
「ありがとうございます! 彼氏や家族に送りたくって」

 今回の海外ツアーでカレンに声をかけてくれた、主催会社の担当者にスマホを預けてスピーチを撮影してもらっていたのだ。
 もちろん、撮影スタッフが同行しているので本格的な機材で撮影はしていたが、動画データを貰えるのは帰国後になってしまう。
 その前に自分でも確認したかったので、あらかじめ頼んでおいたやつだ。

 今日はまだツアー序盤。
 カリフォルニアには明日の閉会式までの滞在となる。



 緊張しながら壇上を降りると、現地の展示会の関係者から声をかけられた。

「青山サン? キミの記事を見ましたよ。レジンのアクセサリー作家なんですね」

 びっくりするぐらい流暢な日本語の、薄い金髪の坊主刈り、ブルーグレーの瞳の年配の紳士に声をかけられた。
 薄いグレーのスーツがよく似合っている。

「あ、はい。どの記事をご覧になられました?」
「オルゴナイトのものです。私もああいう物が好きなんです」

 と言うので、その場で速攻、Facebookの友達になった。

 薄っすら毛が生えた坊主頭のせいか、禅僧みたいな印象の男性だった。
 聞いてみると、ここ西海岸のまさに禅センターでもう20年ぐらい講師をやっているそうだ。
 実際、本人のニックネームもミスター禅らしい。

「ええ、オルゴナイトを知ってから量子物理学の記事が目につくようになってて。オルゴンエネルギーとかよくわからないんですけど、面白い世界だなって思いましたね」
「ワタシの親友がカリフォルニア大学のロサンゼルス校で量子工学の講義をやっているんです。聴講が可能ですから滞在中に一度参加してみませんか?」

 そしてミスター禅はカレンのツアー主催会社の担当者に話をつけて、現在地のカリフォルニアから次の目的地ロサンゼルスでの一日の時間を確保してくれた。

 主催会社からは、大学への見学もレポにまとめるように担当者から言われた。

「現地の展示会参加が結んだ縁とか、そんな感じで。あ、スマホ撮影でもいいんで、大学や関係者の写真もあるといいですね」

 担当者はカレンがカリフォルニア大学に誘われたと聞いてビックリしていた。

(ですよね、何と言ったって東大よりランク高い大学ですものね)

 だが、カレンを誘ったのがここカリフォルニアの展示会関係者だと知って、彼も安堵していた。
 これが全然無関係の人からの誘いだったら、さすがにカレンも頷いていない。

 カレンたちツアー参加者は、明日のここカリフォルニアのビジネス展示会の閉会式後、打ち上げパーティーに参加したら当日中にバスでロサンゼルスまで移動する。

 各滞在地では参加者は基本、まとまって行動しているが、自分のスピーチも取材もない時間なら自由行動が可能だった。
 ちょうど3日後、丸一日フリーになる日がある。
 その空き時間を利用して、ミスター禅に誘われるまま現地の大学へ見学に行くことにした。



 3日後、ロサンゼルスで朝のうちにホテルまで迎えに来てくれたミスター禅の車でカリフォルニア大学ロサンゼルス校へ向かった。

「おお……アメリカが車社会って本当だったんですねえ」

 エクスプローラーというSUVの黒のフォード車だ。いわゆるスポーツトラックで、日本ならキャンプなどに行くのに便利な車種だろう。
 もっともフォード社はとっくに日本撤退してしまっているのだが。

 道路が広い。しかし郊外に出ると道が荒いのには辟易とした。

 そして車に乗ること一時間、カリフォルニア大学は広かった。
 カレンが卒業した日本の二流大学のキャンパスとはあらゆる面で格が違った。

「……あれ?」

 駐車場から出て、ミスター禅の友人の研究室のある棟への道を歩いていると、不思議な感覚を覚えた。

「どうしました?」
「え、ええ。懐かしい……じゃなくて、あたし、またここに来るような気がしたんです」
精霊スピリットの導きかもしれませんよ」
「精霊、ですか?」

 歩きながらミスター禅が、かつてこのロサンゼルス校にいたシャーマンの弟子の話をしてくれた。

「シャーマン……ですか?」

 もしや海外版のカルト勧誘か、と身構えたカレンだったが、幸いなことにそういうアングラな話ではなかった。

「文化人類学の生徒で、フィールドワークに出かけたメキシコで、ネイティブアメリカンのシャーマンに取材するつもりが弟子になってしまった人物がいたんです」

 80年代に亡くなってなお、現在でもアメリカのベストセラーリストに載る、自分のシャーマン修行録を書いた作家がいた。
 彼は最初に出版した60年代から熱烈な支持を得て、いわゆるヒッピー文化生みの親となった人物でもある。

「その彼もこのキャンパスを始めて訪れたとき、不思議な気持ちになったそうですよ」

 実際、その作家は後にベストセラー作家になったし、母校の講師としても有名になったそうな。

「良かったら記念に彼の著書を買われてはどうでしょう?」

 世界屈指の大学だけあって、本の著者の数も多いそうで。
 構内のショップの書籍コーナーに行けば、教授や有名な卒業生たちの著作が並んでいるという。


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