上 下
31 / 61

小料理屋ひまらや、ほや祭り

しおりを挟む
「まあ、そう何でもかんでも上手くいかないですよね」

 今日の小料理屋ひまらやでは、ほや祭りだった。
 店主のオヤジさんが小ぶりの安いほやを仕入れてきて、三杯酢用は注文ごとに捌いてくれる。

 今日の常連さんは団塊さんと院長さんだ。
 夜遅くにソースさんが来るらしいがカレンたちとは会えなさそうである。

「ほやってあたし、食べたことないです。ど、どんな感じ?」

 三杯酢のかかった薄いオレンジ色の身をひょいっと箸で摘んで、胡瓜のスライスごと恐る恐る口に運ぶ。

「!」

 不思議な食感と味だった。
 刺身でもない、貝とも違う柔らかい歯応えだ。
 味も、やはり魚や貝の刺身とは全然違う。
 ものすごい磯の香り、海の香りがする。
 オヤジさんの三杯酢の味付けがまた、ちょっと酢が強めにきいていて良い感じだ。

 次の瞬間、冷酒をきゅっと。

「ヤバいですね、これ。日本酒に合う!」
「カレンちゃん、日本酒飲める人だから好きかなって思ってたんだよね」

 オヤジさんがニコニコしながら、グラスにお代わりを注いでくれた。



 次は蒸しほやだ。
 今日は店内に入った途端、ちょっと生臭い? と思ったのだが、このほやを蒸していたせいらしい。

「ほやはね、足が速い(傷みやすい)から。でも今日のは夜明け前に三陸海岸で獲れたやつだから新鮮だよ」

 これは真っ赤な殻ごと半分にカットして、わたを取り除いた後で蒸したものだ。
 程よく水分が抜けていて、殻はぺろんと簡単に剥がれる。

「こ、これは!?」

 三杯酢で食べた生とはまるで違う。
 感触はちょっと火を通しすぎた海老の如く。
 だが味は、磯の香りのするカニっぽい!

 そのままでもほんのり塩気があったが、お醤油をちょんと付けてもまたいける。

「ヤバいですね。これも日本酒が進みます」
「だよな! 俺は子供の頃は宮城にいたんだけどさ、チューブ入りの剥き身をよくお袋が買って晩飯に出してくれてたよ。懐かしいなあ」

 常連さんの団塊さんが早くも酒で顔を赤く染めている。

「今もビニールのチューブ入りでスーパーで売ってますね。一本につき、1個半から2個くらいかな、入っているのは」
「えっ、本当ですか? 買ってきたらそのまま食べられる感じです?」
「内側のわたをできるだけ取ってからカットして、胡瓜と一緒に三杯酢が一般的だね。賞味期限を見て、加工日の翌日なら買いだね。生で食べられる。二日目だったら加熱したほうがいいね」
「なるほど~」

 この日、カレンはほやを知る。
 そのうち捌き方も教えてもらっちゃったりして。




--
大人になって覚えた珍味のひとつ。ほやうまー(*´ω`*)
こだわりの人は「朝獲れのほやでなければ食わぬ!」だそうで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雨宮課長に甘えたい

コハラ
恋愛
仕事大好きアラサーOLの中島奈々子(30)は映画会社の宣伝部エースだった。しかし、ある日突然、上司から花形部署の宣伝部からの異動を言い渡され、ショックのあまり映画館で一人泣いていた。偶然居合わせた同じ会社の総務部の雨宮課長(37)が奈々子にハンカチを貸してくれて、その日から雨宮課長は奈々子にとって特別な存在になっていき……。 簡単には行かない奈々子と雨宮課長の恋の行方は――? そして奈々子は再び宣伝部に戻れるのか? ※表紙イラストはミカスケ様のフリーイラストをお借りしました。 http://misoko.net/

絵本男と年上の私。

蝶野ともえ
恋愛
アラサーの保育士の栗花落しずくが3月の温かい日に、中学生の青年に告白される。 だが、その青年は中学生ではなかった。 彼は、昔のしずくに会っているようだがしずくは彼が誰なのか思い出せずにいた。そんな彼、羽衣石 白は毎日のように彼に会いに来るようになり、しずくは困ってしまう。 止めるよう白に伝えると、彼からある条件を出されてしまう。それは・・・・。 ☆タイトル変更しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】おひとりさま女子だった私が吸血鬼と死ぬまで一緒に暮らすはめに

仁来
恋愛
ある日、弱っているイヴェリスを助けようとしたのがきっかけで、蒼は “血を分け与える者”として選ばれてしまう。 「喜べ。俺に血を捧げることができるのだぞ?」 その日から、些細な幸せを噛みしめていたおひとりさま人生が一変。始まったのはイケメン吸血鬼との、甘くて刺激的な同居生活だった―― 柚木 蒼(ゆずき そう) 職業ライター。引きこもることが大好きで、一人時間も大好き。 おかげで34歳になっても、彼氏どころか好きな人もできたことが無い恋愛って何ですか? のアラサー女子。 イヴェリス (ナズナ) 吸血鬼の王。100年に一度、人間の生き血を飲まないと命が絶えてしまうため人間界に降臨。 甘い物が好きで、テレビを見るのも好き。いかに人間として溶け込めるかを日々探っている。恋愛という概念がない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生令嬢はやんちゃする

ナギ
恋愛
【完結しました!】 猫を助けてぐしゃっといって。 そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。 木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。 でも私は私、まいぺぇす。 2017年5月18日 完結しました。 わぁいながい! お付き合いいただきありがとうございました! でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。 いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。 【感謝】 感想ありがとうございます! 楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。 完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。 与太話、中身なくて、楽しい。 最近息子ちゃんをいじってます。 息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。 が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。 ひとくぎりがつくまでは。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...