アラサー女子、人情頼りでブラック上司から逃げきります!

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
10 / 61

小料理屋ひまらや

しおりを挟む
 その日の退勤後、地元の最寄駅まで戻ってくると、駅の改札口で同級生セイジが待っていた。
 紺色のスーツ姿でビジネスバッグを持った姿で手を振られ、しみじみ「大人になったなあ」と思う。
 カレンの記憶にある最後の彼の姿は、中学の卒業式の日、学ラン姿で「高校行ってもお互い頑張ろうな!」と手を振ってくれた姿だったので。

 セイジのオススメの小料理屋は国道沿いにあるとのことで、歩けない距離ではなかったがバスで十分かからないとのことなので利用することにした。

 着いてみれば、カレンの自宅方向とは真逆。帰りもバスを使うことになりそうだった。

「こっちのほう、あんまり来たことないなあ」
「俺たちの中学があった地域は新興住宅地なんだよね。こっちは古い家が多いね」

 ほとんど絶滅しかかっている銭湯があったり。

 小料理屋は国道側から路地をひとつ入ったところにある小さな建物で、2階は民家になっている。
 入口に電光の看板があって、藍染の暖簾とそれぞれに『ひまらや』と筆一筆描きで店名が。

「わあ~これはあたし一人じゃ来れないとこだわー」
「穴場だよ。食べログにレビューもないぐらい」

 中に入ると、あ、昭和の雰囲気だなあと咄嗟に思った。
 檜の明るいカウンターがあって、席もカウンター席だけ。
 ぱっと見は、寿司屋みたいな印象だった。



「どうだった?」
「ダメだった。なんか余計悪化したっていうか」

 同級生セイジのオススメの、地元の小さな小料理屋のカウンター。店主の料理人のオヤジさん一人で切り盛りしてる店だ。

 まずは、とお通しで出されたほうれん草の胡麻和えがヤバかった。
 砂糖ちょっと多めの甘じょっぱい胡麻和えは、カレンが自炊して作るときのような水っぽさもなく、よく馴染んでいておいしい。

「オヤジさん、俺はビール。こっちは胃をいためてるらしいんで……」
「じゃあ、お白湯でも」

 ささっとヤカンに水を入れて白湯を準備してくれる。

「料理はお任せしてもいいですか。青山、嫌いなものあったっけ?」
「匂いのキツいものじゃなきゃ大丈夫!」

 それから生物は大丈夫かなどいくつか聞かれて、次に出てきたのは貝料理だった。
 北寄貝が生で手に入ったとかで、生から捌いてひもは湯通しして胡瓜スライスと海藻と合わせて酢の物へ。
 身のほうはそのまま細切りにして刺身でいただいた。

「いきなり粋な料理が出てきてビックリですー」

 しかもこの店、メニューがない。
 安くて美味い店とセイジが言っていたからぼったくりではないだろうが、ちょっとだけ心臓に悪い。

 その後もわりとお腹いっぱい食べて、お酒を飲まないカレンは二千円ほどだったので、確かに安かった。

「古い店だけど、自分の家だからね。家賃がないから案外やっていけるもんだよ」

 とは店主のオヤジさん。

 この日、カレンたちがいる間は他のお客さんもいなかったので、結構長居してしまった。

 どれもハズレのない良いお店だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

処理中です...