上 下
1 / 61

アラサー女子、ブラック上司に副業疑惑をかけられる

しおりを挟む
 始まりは、社内のカフェスペースで後ろからいきなり怒鳴られたことだった。


「おい、副業なんて禁止に決まってるだろ! すぐ詳細を報告しろ!」

「ひっ!?」


 すぐ後ろ、息がかかるんじゃないか、ぐらい近くから大声を出されて、青山カレンは椅子から飛び上がりそうになった。

「えっ。あ、飴田課長!?」

 振り向くと、同じ庶務課の男上司、飴田課長が無表情で立っている。

「副業。我が社に就職していて副業なんて、ふざけるにも程がある」
「い、いやちょっと待ってください。副業なんて大袈裟なことはやってません、趣味で小物を作ってるだけなんです」
「は? 今さっき、売るだの何だのと話してたじゃないか」
「それは……」

 アラサー女子カレンの趣味は、レジンという透明な樹脂で作るアクセサリー作りだった。
 会社帰りに区民会館でサークルに参加して、去年から講師や先輩たちに教わっている。

 ちょうど最近、講師がこの手のハンドメイド(手作り)作品の出品販売アプリを紹介してくれたので、自信作を幾つか出品していたのだ。

(確かに売れたわ。ブローチが一個だけ。値段は500円。でも販売手数料のこと忘れてて、しかも送料無料にしちゃったもんだから、材料費まで入れると赤字よ赤字!)

 そんな失敗談を、お茶休憩のためカフェスペースでコーヒーを飲みながら他部署の同期たち数人と話していた。
 それだけだったのに。



 それは副業だ、とよりによって同じ部署の直属の上司から糾弾されて、居心地が悪い。

「いえ、本当に副業とかじゃないんです。趣味ですから材料費を考えると利益なんかも無いですし、……あの、お騒がせして済みませんでした」

 これで駄目なら、作ったアクセサリーの大半は同じ区民会館の学童や老人クラブに寄贈していることなどを告げるつもりのカレンだ。

 だがひとまず納得したのか、上司の課長がそこで引き下がってくれたのは幸いだった。

「び、ビックリした……」

 へなへなと椅子の背もたれに凭れ込んで、カレンは深い溜め息をついた。
 お茶休憩の時間はまだ残っている。
 温くなってしまったコーヒーを飲み飲み、また嘆息した。

「あれ、カレンのとこの上司でしょ? すごい剣幕だったね。いつもあんななの?」
「うーん……まあ、威圧的に感じることは多いかな」

 年齢は四十代半ば、独身。
 仕事はまあまあできるし身なりも良いが、無表情なことが多く、理不尽というより嫌味の多い意地悪な上司だ。

「まあでも、副業ってほどのことやってないのは本当だしね」
「気をつけてよ。カレン、結構可愛いから心配」
「もうー何言ってるのよー」

 青山カレンは今年28歳、アラサー。
 背は平均ぐらい、ショートボブで元から地毛が明るい茶色なのでカラーは入れていない。
 目がパッチリ二重でウサギのように大きいので、童顔で可愛らしく見える。らしい。

 だが同期たちの心配は、その後まさにドンピシャで的中してしまうのである。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

処理中です...