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南方大国の暗殺者
眼鏡ではなく
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一方こちらは、邸宅内の一室に連れ込まれたオネストだ。
何かの作業部屋のように見える。リースト伯爵家のお家芸である〝魔法樹脂〟で作られたと思しき武器や防具がそこかしこに置かれていた。
「オネスト君。君の目の診断書を見せてもらったが、視神経や眼球自体の機能低下だそうだ。普通の眼鏡で視力回復は難しいと思う」
おもむろにカイル伯爵に切り出されて、オネストはわかっていたと頷いた。
「失明してないだけマシです。……あの、それで伯爵様たちはいったい……?」
オネストの視力の低い目からは、二人は魔力を帯びてぼんやりした人の形に見える。
当主のカイル伯爵は青色、その父のメガエリス前伯爵は紫みを帯びた青色。
宰相の父親からは、リースト一族は寒色系の色味を持つ魔力の持ち主が多いと聞いていた。
「そうだな、説明を図解……してもほとんど見えないのだったか。口頭で説明するからよく聞いてくれ」
それからカイル伯爵、メガエリス前伯爵に一通り説明された内容は、オネストにとって望むところだった。
「眼球に直接カバーグラスを作って覆う、ですか。なるほど、合理的な手法だと思います」
「異世界人が持ち込んだ技術でな。コンタクトレンズという。魔法樹脂での作り方を伝授するから、自分で毎日着脱するといい」
高位貴族で宰相の息子でもあるグロリオーサ侯爵家、本家のオネストの魔力量は多かった。
術式さえ学べば、高度な魔法樹脂を覚えることはそう難しくない。
まずはポーション薬の一種でもある目薬で目の表面を洗ってから、カイル伯爵が平たい半円状の薄い、魔法樹脂の透明なカバーを作った。
そのまま、そっとオネストの眼球の、アイスブルーの虹彩の上にカバーを被せた。
多少、違和感はあったけれども。
「どうだ? 痛みはあるか?」
「いえ、……大丈夫です」
「数時間で魔力に戻って消失する設定にしてあるから、外し忘れの害もない。ただし眼球の安全のために就寝時は必ず解除しなさい」
「はい」
カバーグラスが目に馴染むよう瞬きをしていると、傍らで処置を見守っていたメガエリス前伯爵が悪戯を思いついたような顔になった。
作業場にあった清潔な手拭いを手に取り、素早くオネストの目元を覆って視界を隠してしまった。
「えっ、な、何ですか!?」
「ははは、これから君は人生で初めて鮮明な世界を見るのだ。最初に見るのは我らではなく、友であるルシウスのほうが良かろう?」
「そ、それは確かに!」
ちょうど陽も暮れて、そろそろ晩餐の時間だ。
「今宵は我がリースト伯爵家自慢の名物料理を用意している。ぜひ楽しんでくれ」
「は、はい」
と優しげな声で言ってくれたのはカイル伯爵か、その父メガエリス前伯爵どちらだったか。
この父と息子は声質がよく似ていて、周囲の環境に敏感だったオネストにも判別が付きにくかった。
「どれ、視界が暗いと歩きにくかろう。食堂まで抱えて行くぞ」
これはどちらかわかった。体格の良いメガエリス前伯爵のほうだ。
自分で歩ける、と遠慮しようとして、オネストは横抱きに抱かれた腕や胸元の暖かさに陥落してしまった。
(あんまり、人と、スキンシップ……取ったことがなかったから)
最近はルシウスやボナンザらと親しくなって、人に触れられることにも慣れてきていたところだった。
(あ。ルシウス君のお父様、いいにおい)
これは明日、自宅に帰ったら父宰相に自慢せねばなるまい。
何かの作業部屋のように見える。リースト伯爵家のお家芸である〝魔法樹脂〟で作られたと思しき武器や防具がそこかしこに置かれていた。
「オネスト君。君の目の診断書を見せてもらったが、視神経や眼球自体の機能低下だそうだ。普通の眼鏡で視力回復は難しいと思う」
おもむろにカイル伯爵に切り出されて、オネストはわかっていたと頷いた。
「失明してないだけマシです。……あの、それで伯爵様たちはいったい……?」
オネストの視力の低い目からは、二人は魔力を帯びてぼんやりした人の形に見える。
当主のカイル伯爵は青色、その父のメガエリス前伯爵は紫みを帯びた青色。
宰相の父親からは、リースト一族は寒色系の色味を持つ魔力の持ち主が多いと聞いていた。
「そうだな、説明を図解……してもほとんど見えないのだったか。口頭で説明するからよく聞いてくれ」
それからカイル伯爵、メガエリス前伯爵に一通り説明された内容は、オネストにとって望むところだった。
「眼球に直接カバーグラスを作って覆う、ですか。なるほど、合理的な手法だと思います」
「異世界人が持ち込んだ技術でな。コンタクトレンズという。魔法樹脂での作り方を伝授するから、自分で毎日着脱するといい」
高位貴族で宰相の息子でもあるグロリオーサ侯爵家、本家のオネストの魔力量は多かった。
術式さえ学べば、高度な魔法樹脂を覚えることはそう難しくない。
まずはポーション薬の一種でもある目薬で目の表面を洗ってから、カイル伯爵が平たい半円状の薄い、魔法樹脂の透明なカバーを作った。
そのまま、そっとオネストの眼球の、アイスブルーの虹彩の上にカバーを被せた。
多少、違和感はあったけれども。
「どうだ? 痛みはあるか?」
「いえ、……大丈夫です」
「数時間で魔力に戻って消失する設定にしてあるから、外し忘れの害もない。ただし眼球の安全のために就寝時は必ず解除しなさい」
「はい」
カバーグラスが目に馴染むよう瞬きをしていると、傍らで処置を見守っていたメガエリス前伯爵が悪戯を思いついたような顔になった。
作業場にあった清潔な手拭いを手に取り、素早くオネストの目元を覆って視界を隠してしまった。
「えっ、な、何ですか!?」
「ははは、これから君は人生で初めて鮮明な世界を見るのだ。最初に見るのは我らではなく、友であるルシウスのほうが良かろう?」
「そ、それは確かに!」
ちょうど陽も暮れて、そろそろ晩餐の時間だ。
「今宵は我がリースト伯爵家自慢の名物料理を用意している。ぜひ楽しんでくれ」
「は、はい」
と優しげな声で言ってくれたのはカイル伯爵か、その父メガエリス前伯爵どちらだったか。
この父と息子は声質がよく似ていて、周囲の環境に敏感だったオネストにも判別が付きにくかった。
「どれ、視界が暗いと歩きにくかろう。食堂まで抱えて行くぞ」
これはどちらかわかった。体格の良いメガエリス前伯爵のほうだ。
自分で歩ける、と遠慮しようとして、オネストは横抱きに抱かれた腕や胸元の暖かさに陥落してしまった。
(あんまり、人と、スキンシップ……取ったことがなかったから)
最近はルシウスやボナンザらと親しくなって、人に触れられることにも慣れてきていたところだった。
(あ。ルシウス君のお父様、いいにおい)
これは明日、自宅に帰ったら父宰相に自慢せねばなるまい。
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