207 / 216
【子爵少年ルシウスLEGEND】呪師の末裔
プリンの恨みを思い知れ
しおりを挟む
「って言ってたけど宰相のやつ、まだ来ないね」
学園内では、オネスト本人と親族子息たちの軋轢が悪化している。
親戚たちだけでなく、彼らに追随した者まで出始めてオネストを敵視するようになっていて、雰囲気は悪かった。
「ルシウス君。ボナンザ君も。……ぼくなんかと一緒にいちゃダメだよ」
オネストは訴えるが、小声で弱々しく訴えても、エネルギーの塊のようなルシウスやボナンザがはいそうですかと聞くわけもなかった。
「うん。とりあえず今日はプリンだからお昼は食堂に行くよ!」
「……ぜ、全然話を聞いてくれないね、君……」
あえてスルーしているともいう。
そんなわけで、どうしても今日のランチタイム限定のカレイド王国風かためプリンが食べたかったルシウスが、無理を言ってオネストとボナンザを連れて食堂に来ていた。
そこに絡んでくるグロリオーサ侯爵家の分家子息たち。
彼らにオネストがかけた呪術はまだ解けていない。
「調子に乗るなよ、この不義の子が! 宰相閣下のお情けでご本家様の籍を穢すのみならず、……クソッ、いい加減俺たちにかけた邪悪な術を解け!」
「………………」
詰め寄られても、オネストは暗い表情でじっと相手やその取り巻きたちを見るだけだった。
その態度に更に激昂して、子息の一人がオネストの前にあった定食の、料理の乗った皿を力任せに床に叩き落とした。
ガチャン、と立てられた大きな音に、食堂は静まり返った。
それどころか。
皿から飛び散った汁気が、隣の席のルシウスの、お目当てだったプリンにまで飛んだ。
よりによってミートボールに添えられていた濃厚な肉汁たっぷりのグレイビーソースが。甘くて濃厚なプリンに。
ズゴゴゴゴゴ……
地響きのような、あるいは雷の遠鳴りのような音がする。
反対側の席にいたボナンザは今日のおすすめの豚肉のミートボールにたっぷりグレイビーソースを付けて、もぐもぐしている。
決して共食いなどと言ってはならない。
一方こちらは週替わりメニューが発表された三日前から楽しみにしていたプリンを台無しにされたルシウス。
ソースが飛んでとても食べられたものではなかった。
プリンの陶器の容器を握りしめて、ぷるぷると震えている。
オネストの親戚子息たちはまだ騒いでいる。
「学園の有名人に守られて調子に乗るなよ!? 貴様なんていつでもこの学園から追い出せるんだからな!」
有名人って俺たち? とボナンザが首を傾げていると。
「ええい、ごちゃごちゃ面倒くさい!」
だんっ、とルシウスが人のいなかったテーブルに飛び乗った。
「注目! こちらにちゅうもーく!」
小柄でまだ子供体型の麗しの少年に、皆が言われるままに注目する。
だが目を見張ったのは、青銀の髪の少年が美しかったからだけではない。
彼が両手で持っているもの、透明な両手剣のほうだった。
「えっ、何あれ光って」
「ネオンブルーの魔力……」
「ね、ネオンカラーの魔力って!」
魔力で自在に物体を形作る魔法を〝魔法樹脂〟という。ルシウスの実家、魔法の大家と呼ばれるリースト伯爵家のお家芸だった。
ネオンブルーの魔力を帯びて光る魔法剣を両手で握り締めたルシウスが、オネストに笑いかける。
「オネスト君。僕は、君が自分がされた以上の報復をしてないって知って感銘を受けたんだ。ふつう、人を恨んだらとことん仕返しするものじゃない? そしたら人間なんて堕ちるのはあっという間なんだ。でも君はそこを耐えた」
だが、この状況は良くない。
「澱んだ空気を一掃するよ」
テーブルの上で踏ん張った。
そのとき食堂内に松の樹木の芳香が漂ったことに気づいた者は、どれだけいただろう。聖なる魔力をもつ者が生み出す聖なる芳香だった。
「我は聖剣の魔法剣士、リースト子爵ルシウスなり! 己が正義に自信あらば、我が聖剣の審判を受けよ! 邪悪は滅び、善なる者は祝福を得る!」
「ま、マジかよ」
ボナンザが光る剣を見て口元を引きつらせている。さすがに食事の手は一時止めた。
「聖剣の審判とやら、受けます。ぼくはもう塵になって消えてしまいたい……」
「おっけー。じゃあ、行っくよー!」
「ノリ軽いなルシウス君!?」
光る聖剣が大きく振りかぶられる。
「唸れ我が聖剣! 喰らえプリンの恨みー!!!」
食堂にいた誰もが思った。
「それ審判じゃなくて個人的な報復行為なんじゃねえの?」
自分の分は無事だった、かためプリンをもぐもぐしながらの、ボナンザのコメントだった。
食堂内に走った強い白光とネオンブルーの魔力の閃光は、オネストたちどころか利用していた生徒やスタッフたち全員を飲み込んでいった。
学園内では、オネスト本人と親族子息たちの軋轢が悪化している。
親戚たちだけでなく、彼らに追随した者まで出始めてオネストを敵視するようになっていて、雰囲気は悪かった。
「ルシウス君。ボナンザ君も。……ぼくなんかと一緒にいちゃダメだよ」
オネストは訴えるが、小声で弱々しく訴えても、エネルギーの塊のようなルシウスやボナンザがはいそうですかと聞くわけもなかった。
「うん。とりあえず今日はプリンだからお昼は食堂に行くよ!」
「……ぜ、全然話を聞いてくれないね、君……」
あえてスルーしているともいう。
そんなわけで、どうしても今日のランチタイム限定のカレイド王国風かためプリンが食べたかったルシウスが、無理を言ってオネストとボナンザを連れて食堂に来ていた。
そこに絡んでくるグロリオーサ侯爵家の分家子息たち。
彼らにオネストがかけた呪術はまだ解けていない。
「調子に乗るなよ、この不義の子が! 宰相閣下のお情けでご本家様の籍を穢すのみならず、……クソッ、いい加減俺たちにかけた邪悪な術を解け!」
「………………」
詰め寄られても、オネストは暗い表情でじっと相手やその取り巻きたちを見るだけだった。
その態度に更に激昂して、子息の一人がオネストの前にあった定食の、料理の乗った皿を力任せに床に叩き落とした。
ガチャン、と立てられた大きな音に、食堂は静まり返った。
それどころか。
皿から飛び散った汁気が、隣の席のルシウスの、お目当てだったプリンにまで飛んだ。
よりによってミートボールに添えられていた濃厚な肉汁たっぷりのグレイビーソースが。甘くて濃厚なプリンに。
ズゴゴゴゴゴ……
地響きのような、あるいは雷の遠鳴りのような音がする。
反対側の席にいたボナンザは今日のおすすめの豚肉のミートボールにたっぷりグレイビーソースを付けて、もぐもぐしている。
決して共食いなどと言ってはならない。
一方こちらは週替わりメニューが発表された三日前から楽しみにしていたプリンを台無しにされたルシウス。
ソースが飛んでとても食べられたものではなかった。
プリンの陶器の容器を握りしめて、ぷるぷると震えている。
オネストの親戚子息たちはまだ騒いでいる。
「学園の有名人に守られて調子に乗るなよ!? 貴様なんていつでもこの学園から追い出せるんだからな!」
有名人って俺たち? とボナンザが首を傾げていると。
「ええい、ごちゃごちゃ面倒くさい!」
だんっ、とルシウスが人のいなかったテーブルに飛び乗った。
「注目! こちらにちゅうもーく!」
小柄でまだ子供体型の麗しの少年に、皆が言われるままに注目する。
だが目を見張ったのは、青銀の髪の少年が美しかったからだけではない。
彼が両手で持っているもの、透明な両手剣のほうだった。
「えっ、何あれ光って」
「ネオンブルーの魔力……」
「ね、ネオンカラーの魔力って!」
魔力で自在に物体を形作る魔法を〝魔法樹脂〟という。ルシウスの実家、魔法の大家と呼ばれるリースト伯爵家のお家芸だった。
ネオンブルーの魔力を帯びて光る魔法剣を両手で握り締めたルシウスが、オネストに笑いかける。
「オネスト君。僕は、君が自分がされた以上の報復をしてないって知って感銘を受けたんだ。ふつう、人を恨んだらとことん仕返しするものじゃない? そしたら人間なんて堕ちるのはあっという間なんだ。でも君はそこを耐えた」
だが、この状況は良くない。
「澱んだ空気を一掃するよ」
テーブルの上で踏ん張った。
そのとき食堂内に松の樹木の芳香が漂ったことに気づいた者は、どれだけいただろう。聖なる魔力をもつ者が生み出す聖なる芳香だった。
「我は聖剣の魔法剣士、リースト子爵ルシウスなり! 己が正義に自信あらば、我が聖剣の審判を受けよ! 邪悪は滅び、善なる者は祝福を得る!」
「ま、マジかよ」
ボナンザが光る剣を見て口元を引きつらせている。さすがに食事の手は一時止めた。
「聖剣の審判とやら、受けます。ぼくはもう塵になって消えてしまいたい……」
「おっけー。じゃあ、行っくよー!」
「ノリ軽いなルシウス君!?」
光る聖剣が大きく振りかぶられる。
「唸れ我が聖剣! 喰らえプリンの恨みー!!!」
食堂にいた誰もが思った。
「それ審判じゃなくて個人的な報復行為なんじゃねえの?」
自分の分は無事だった、かためプリンをもぐもぐしながらの、ボナンザのコメントだった。
食堂内に走った強い白光とネオンブルーの魔力の閃光は、オネストたちどころか利用していた生徒やスタッフたち全員を飲み込んでいった。
11
お気に入りに追加
553
あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる