家出少年ルシウスNEXT~聖剣の少年魔法剣士、海辺の僻地ギルドで無双する

真義あさひ

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【子爵少年ルシウスLEGEND】呪師の末裔

プリンの恨みを思い知れ

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「って言ってたけど宰相のやつ、まだ来ないね」

 学園内では、オネスト本人と親族子息たちの軋轢が悪化している。
 親戚たちだけでなく、彼らに追随した者まで出始めてオネストを敵視するようになっていて、雰囲気は悪かった。

「ルシウス君。ボナンザ君も。……ぼくなんかと一緒にいちゃダメだよ」

 オネストは訴えるが、小声で弱々しく訴えても、エネルギーの塊のようなルシウスやボナンザがはいそうですかと聞くわけもなかった。

「うん。とりあえず今日はプリンだからお昼は食堂に行くよ!」
「……ぜ、全然話を聞いてくれないね、君……」

 あえてスルーしているともいう。



 そんなわけで、どうしても今日のランチタイム限定のカレイド王国風かためプリンが食べたかったルシウスが、無理を言ってオネストとボナンザを連れて食堂に来ていた。

 そこに絡んでくるグロリオーサ侯爵家の分家子息たち。
 彼らにオネストがかけた呪術はまだ解けていない。

「調子に乗るなよ、この不義の子が! 宰相閣下のお情けでご本家様の籍を穢すのみならず、……クソッ、いい加減俺たちにかけた邪悪な術を解け!」
「………………」

 詰め寄られても、オネストは暗い表情でじっと相手やその取り巻きたちを見るだけだった。
 その態度に更に激昂して、子息の一人がオネストの前にあった定食の、料理の乗った皿を力任せに床に叩き落とした。

 ガチャン、と立てられた大きな音に、食堂は静まり返った。

 それどころか。

 皿から飛び散った汁気が、隣の席のルシウスの、お目当てだったプリンにまで飛んだ。
 よりによってミートボールに添えられていた濃厚な肉汁たっぷりのグレイビーソースが。甘くて濃厚なプリンに。

 ズゴゴゴゴゴ……

 地響きのような、あるいは雷の遠鳴りのような音がする。

 反対側の席にいたボナンザは今日のおすすめの豚肉のミートボールにたっぷりグレイビーソースを付けて、もぐもぐしている。
 決して共食いなどと言ってはならない。

 一方こちらは週替わりメニューが発表された三日前から楽しみにしていたプリンを台無しにされたルシウス。
 ソースが飛んでとても食べられたものではなかった。
 プリンの陶器の容器を握りしめて、ぷるぷると震えている。

 オネストの親戚子息たちはまだ騒いでいる。

「学園の有名人に守られて調子に乗るなよ!? 貴様なんていつでもこの学園から追い出せるんだからな!」

 有名人って俺たち? とボナンザが首を傾げていると。

「ええい、ごちゃごちゃ面倒くさい!」

 だんっ、とルシウスが人のいなかったテーブルに飛び乗った。

「注目! こちらにちゅうもーく!」

 小柄でまだ子供体型の麗しの少年に、皆が言われるままに注目する。
 だが目を見張ったのは、青銀の髪の少年が美しかったからだけではない。
 彼が両手で持っているもの、透明な両手剣のほうだった。

「えっ、何あれ光って」
「ネオンブルーの魔力……」
「ね、ネオンカラーの魔力って!」

 魔力で自在に物体を形作る魔法を〝魔法樹脂〟という。ルシウスの実家、魔法の大家と呼ばれるリースト伯爵家のお家芸だった。

 ネオンブルーの魔力を帯びて光る魔法剣を両手で握り締めたルシウスが、オネストに笑いかける。

「オネスト君。僕は、君が自分がされた以上の報復をしてないって知って感銘を受けたんだ。ふつう、人を恨んだらとことん仕返しするものじゃない? そしたら人間なんて堕ちるのはあっという間なんだ。でも君はそこを耐えた」

 だが、この状況は良くない。

「澱んだ空気を一掃するよ」

 テーブルの上で踏ん張った。
 そのとき食堂内に松の樹木の芳香が漂ったことに気づいた者は、どれだけいただろう。聖なる魔力をもつ者が生み出す聖なる芳香だった。

「我は聖剣の魔法剣士、リースト子爵ルシウスなり! 己が正義に自信あらば、我が聖剣の審判を受けよ! 邪悪は滅び、善なる者は祝福を得る!」
「ま、マジかよ」

 ボナンザが光る剣を見て口元を引きつらせている。さすがに食事の手は一時止めた。

「聖剣の審判とやら、受けます。ぼくはもう塵になって消えてしまいたい……」
「おっけー。じゃあ、行っくよー!」
「ノリ軽いなルシウス君!?」

 光る聖剣が大きく振りかぶられる。


「唸れ我が聖剣! 喰らえプリンの恨みー!!!」


 食堂にいた誰もが思った。

「それ審判じゃなくて個人的な報復行為なんじゃねえの?」

 自分の分は無事だった、かためプリンをもぐもぐしながらの、ボナンザのコメントだった。

 食堂内に走った強い白光とネオンブルーの魔力の閃光は、オネストたちどころか利用していた生徒やスタッフたち全員を飲み込んでいった。


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