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【子爵少年ルシウスLEGEND】呪師の末裔

友人たちと素敵なランチタイム

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 オネストとは特に個人的な軋轢もないルシウスとボナンザは、それから食堂に入れなくなったオネストと一緒に昼食を取っている。

 普通にしていれば何も被害はないのだが、噂が悪い方向に飛躍してしまった。
 オネストが近づくだけでゴミを食べさせられるぞと間違った誤解を生んでしまったのだ。

 けれど誰もオネストに文句は言わないし、言えない状況だった。
 仕方ないからオネストは自主的に食堂の利用を自粛している。

 ルシウスとボナンザが交代でランチボックスにサンドイッチなどを詰めて持参していた。
 ルシウスは調理スキルを持っていて、一人暮らしの自宅で自分で作っている。
 ボナンザは下宿先の学園指定宿の食堂で作ってもらってきた。

 昼休みに解放されている屋上で、ピクニック用のシートを広げてのランチだ。

「あの。こんな、恵んでもらうわけには」

 口では断っていたが、視線は物欲しげに二人のランチボックスを見ていた。
 いつもお腹を空かせているオネストでは『いらない』とまでは言えなかった。

 オネストは家でも冷遇されていて、使用人たちにも舐められているせいで弁当などを作ってもらえない。
 売店で売っている一番安い菓子パン一個だけで昼を済ませているところを見たルシウスとボナンザが、同じクラスメイトだからと助けの手を差し伸べたのだ。

「気になるなら家庭科室を借りて自炊する? 僕それでもいいなあ」
「……材料を買う満足なお金もないんだ。ごめん」
「オネスト君は宰相の息子さんなのに、そんな待遇なの? あいつやっぱり悪の宰相だな!」
「悪の宰相?」

 そこでルシウスは幼い頃、リースト伯爵家、いや父メガエリスが宰相から受けた仕打ちが如何に酷かったかを語った。

 ルシウスたちがまだ幼かった頃、王都では大地震が起こって、ルシウスの実家の古い伯爵邸が半壊したことがあった。
 急なこともあって修復費用が捻出できなかった父伯爵は王家に支援や融資を申し込んだのだが、宰相ユーゴスが難癖をつけて断ったのだという。

「宰相、父様のファンなくせに。困らせてお髭をぺしょってさせたんだよ、許せないよね!」
「お髭……」
「……ぺしょ?」

 ルシウスの父、リースト伯爵メガエリスはルシウスと同じ青銀の髪と、豊かな口まわりの髭があるそうで。
 いつもなら手入れ万端でふわふわ極上の肌触りなのに、邸宅の修復に必要な金策で走り回ることになって手入れが疎かになり、ふわふわがぺっしょり残念なことになってしまった。

 それが如何に許せないことだったか、父伯爵のお髭にすりすりするのが幼い頃大好きだったルシウスは、今さっき起こったことのようにプンスコ怒っている。

「父が、その。ごめん」
「オネスト君は関係ないよ! でも宰相はいつか泣かせてやるって思ってるけどね!」

 存分にやってやれーとボナンザは思ったが、他国の侯爵の彼が一国の宰相の悪口を言うわけにもいかない。

 よくよくオネストから話を聞いてみると、宰相ユーゴスは忙しくてほとんど自宅に帰っていない。王宮に自室があるのでそちらが主な生活の場なのだ。

「兄も歳が離れているから、僕にはほとんど興味もなくて、その」
「侯爵家の令息がこんな目に遭ってるのに放置してるってのは考えもんだよなあ」



「それより食べて食べて! 今日のは自信作だよ!

 四人用の大型ランチボックスから紙に包まれたバゲットサンドを次々に取り出して友人二人に渡した。
 中にはハーブのディル入りのクリームチーズに新鮮な葉野菜、トマトのスライス、そしてスモークサーモンがぎっしり挟まっている。

「めちゃくちゃ美味そう!」

 ボナンザがすごい勢いで食べ始めた。
 ルシウスも好きな具のサンドイッチなのか嬉しそうに齧りついている。
 それを見たオネストも恐る恐る口に運んだ。

 厚めにスライスされたバゲットは、皮はパリッと、中はふわっとしてて小麦の香りが香ばしい。
 濃厚なスモークサーモンの塩気と旨味に、クリームチーズが合う。
 具が多いからこぼさないように食べるのが大変だったが、意外とトマトやスライスオニオン、葉野菜との組み合わせはさっぱりしていて食べやすかった。

 こんなに美味しいものを食べたことがない、と思った。

「美味しい……。あ、あの。これ半分残して、後で食べてもいい?」

 家ではあんまり食べられないから、とオネストが小さく呟く。
 食べられないのではない。食べさせてもらえない、の間違いだろう。

 ルシウスとボナンザは顔を見合わせた後、ニヤリと笑い合った。

「それは生野菜入りだからいま全部食べちゃって!」
「後から小腹が空いたとき用のは別にあるんだ。そっち持って帰れよ。ピーナツバター入りのや肉入りのもあるんだぜ」

 普段から食事を食べる機会を奪われがちなオネストは胃が小さく、サンドイッチを一個食べるのがせいぜいだった。
 それでも人生で一番素敵なランチだったと、のちに彼は語る。


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