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番外編 異世界板前ゲンジ、ルシウス君と再会す
ヨシュア坊ちゃんとお昼の準備
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「あーあ。異世界レポが終わっちゃったらオヤジさん、例の集落に行っちゃうんでしょ? 寂しいなあ……」
「俺も寂しいよ。でも一度ぐらい行ってこの目で確認したいしさ」
などと気楽に考えていたゲンジだったが、異世界からの来訪者が作ったというアケロニア王国内の集落で結局腰を落ち着けてしまうことになろうとは、この頃はまだ思いもしなかった。
「ゲンジさん、おでかけですか。いつごろもどられるのですか?」
ちょっとだけ舌っ足らずな子供の声に、ゲンジは我に返った。
今日はルシウスの甥っ子、ヨシュア坊ちゃんが子爵邸に遊びに来ているのだ。
朝、食事を食べた後にやってきて、夕方に本家から迎えが来るまでルシウスと修行をするらしい。
当のルシウスは王女様からの仕事を忘れていたようで、片付けるまではゲンジが相手を務めることになったのだ。
「ヨシュア坊ちゃん、ちょっと食糧庫に行ってくるだけですからね。そろそろお昼ごはんの準備をしないと」
時刻は11時少し前。ルシウスの仕事が押してるようでまだ戻ってこない。
ヨシュアはまだ4歳だが見た目はもっとずっと幼く身体も小さい。魔力の強く大きな体質の子供は成長がゆっくりだと聞いていた。
「きょうはゲンジさんのごはん、たのしみです」
ふふふ、といとけなく笑うヨシュア坊ちゃんの可愛いこと。
ルシウスのように明るい元気さはないが、ほとんど同じ麗しの顔で微笑む様子は、将来のモテ男間違いなしだ。
今日はルシウスに相手してもらえるまで、おうちから持参していた絵本を大人しく読んでいた。
「坊ちゃん、食事で苦手なものはあるかい?」
「ないです。あじつけは、からすぎるものがにがてです」
「そこは叔父さんと同じか。卵は大丈夫かな?」
「たまご、だいすきです!」
反応が良い。なら食糧庫から多めに卵を持ってきてオムレツにしようかと考えていたのだが。
「あちゃあ。油断したな……」
パンを焼こうと、朝に捏ねて仕込んでいた生地の発酵具合を確認すると、生地がボウルから大きく膨れ上がっていた。
明らかに発酵しすぎだ。
「坊主の魔力の影響でイーストが元気になりすぎちゃうんだよねえ」
そう、ルシウスの持つ聖なる魔力は食材を長持ちさせるが、例外としてイーストなど有用な酵母菌の発酵を促進させてしまう効果があった。
領地のほうだと、彼がいることでぶどう酒やウイスキーの味が良くなるらしいが、パンは、パンだけは程々にしてほしかった!
このまま再び捏ねてテーブルロールにしても良いが、焼き上げた後の風味は落ちてしまう。
仕方ないのでパン以外に急遽変更することにした。
ルシウスはまだ二階の執務室から降りてこない。
仕事部屋でも食べやすいものがいいだろう。
「ゲンジさん、ぼくもなにかおてつだいしたいです」
絵本を閉じてワクワクした顔で食卓のテーブルから見上げられた。
ルシウスと同じ湖面の水色の瞳にはルシウスにはない銀の花が咲いていて、キラキラと輝いている。
「ん? んー、そうだねえ~」
ただ、どうにもヨシュア坊ちゃんは身体が小さい。見るとお手々も小さいの何の。
この小っちゃな手でもできる作業となると。
「ヨシュア坊ちゃん、卵が茹で上がったら殻を剥いてくれるかい?」
「たまご! はい、やりたいです!」
殻剥きの見本を見せれば幼児でもできるだろう。
下手でも、刻んで料理に使うので問題ない。
「俺も寂しいよ。でも一度ぐらい行ってこの目で確認したいしさ」
などと気楽に考えていたゲンジだったが、異世界からの来訪者が作ったというアケロニア王国内の集落で結局腰を落ち着けてしまうことになろうとは、この頃はまだ思いもしなかった。
「ゲンジさん、おでかけですか。いつごろもどられるのですか?」
ちょっとだけ舌っ足らずな子供の声に、ゲンジは我に返った。
今日はルシウスの甥っ子、ヨシュア坊ちゃんが子爵邸に遊びに来ているのだ。
朝、食事を食べた後にやってきて、夕方に本家から迎えが来るまでルシウスと修行をするらしい。
当のルシウスは王女様からの仕事を忘れていたようで、片付けるまではゲンジが相手を務めることになったのだ。
「ヨシュア坊ちゃん、ちょっと食糧庫に行ってくるだけですからね。そろそろお昼ごはんの準備をしないと」
時刻は11時少し前。ルシウスの仕事が押してるようでまだ戻ってこない。
ヨシュアはまだ4歳だが見た目はもっとずっと幼く身体も小さい。魔力の強く大きな体質の子供は成長がゆっくりだと聞いていた。
「きょうはゲンジさんのごはん、たのしみです」
ふふふ、といとけなく笑うヨシュア坊ちゃんの可愛いこと。
ルシウスのように明るい元気さはないが、ほとんど同じ麗しの顔で微笑む様子は、将来のモテ男間違いなしだ。
今日はルシウスに相手してもらえるまで、おうちから持参していた絵本を大人しく読んでいた。
「坊ちゃん、食事で苦手なものはあるかい?」
「ないです。あじつけは、からすぎるものがにがてです」
「そこは叔父さんと同じか。卵は大丈夫かな?」
「たまご、だいすきです!」
反応が良い。なら食糧庫から多めに卵を持ってきてオムレツにしようかと考えていたのだが。
「あちゃあ。油断したな……」
パンを焼こうと、朝に捏ねて仕込んでいた生地の発酵具合を確認すると、生地がボウルから大きく膨れ上がっていた。
明らかに発酵しすぎだ。
「坊主の魔力の影響でイーストが元気になりすぎちゃうんだよねえ」
そう、ルシウスの持つ聖なる魔力は食材を長持ちさせるが、例外としてイーストなど有用な酵母菌の発酵を促進させてしまう効果があった。
領地のほうだと、彼がいることでぶどう酒やウイスキーの味が良くなるらしいが、パンは、パンだけは程々にしてほしかった!
このまま再び捏ねてテーブルロールにしても良いが、焼き上げた後の風味は落ちてしまう。
仕方ないのでパン以外に急遽変更することにした。
ルシウスはまだ二階の執務室から降りてこない。
仕事部屋でも食べやすいものがいいだろう。
「ゲンジさん、ぼくもなにかおてつだいしたいです」
絵本を閉じてワクワクした顔で食卓のテーブルから見上げられた。
ルシウスと同じ湖面の水色の瞳にはルシウスにはない銀の花が咲いていて、キラキラと輝いている。
「ん? んー、そうだねえ~」
ただ、どうにもヨシュア坊ちゃんは身体が小さい。見るとお手々も小さいの何の。
この小っちゃな手でもできる作業となると。
「ヨシュア坊ちゃん、卵が茹で上がったら殻を剥いてくれるかい?」
「たまご! はい、やりたいです!」
殻剥きの見本を見せれば幼児でもできるだろう。
下手でも、刻んで料理に使うので問題ない。
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