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番外編 異世界板前ゲンジ、ルシウス君と再会す
ゲンジへの意外な依頼
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食事の後は、現役国王のテオドロスと娘のグレイシア王女は王宮へ帰って行った。
退位して久しいヴァシレウス大王は時間に余裕があるので、残ってサロンで食後のお茶を飲みながら歓談となった。
もちろんゲンジも付き合うことになるのである。
内々の話だからと、サロンにはゲンジ、ヴァシレウス大王、それにルシウスの3人だけで。
先王ヴァシレウス大王は数年前、ルシウスが冒険者として飯マズ男を追いかけている間に新しく伴侶を得て、ヨシュア坊ちゃんと同い年の男子をもうけたそうだ。
今年4歳になるのだが、急に泣き出したかと思えば前世の自分を語り出して、周囲を困惑させたらしい。
「まだ幼いゆえ、此度は連れてくることはできなかったのだが」
「そうでしたか……」
ただ幸いなのは、ヴァシレウス大王の子供は前世を恋しがっているのではなく、前世の悲しい出来事を思い出して混乱するに留まっていることだそうだ。
「僕のような転移ならともかく、生まれ変わった転生なら時間が解決すると思いますよ。暖かな家族に囲まれてるうちに前世も忘れちゃうかもしれません」
「そうか……だと良いのだが」
だがヴァシレウス大王の顔色は晴れない。
(そりゃあね。自分の子供がそんなことになって心配しない親はいないよね)
「あのね、オヤジさん。異世界からの来訪者はほとんどが生まれ変わりでこの円環大陸にやってくるんだ。オヤジさんみたいな、大人のまま世界を越えて渡ってくる人は少ないんだよ」
「え?」
ルシウスが躊躇いがちに教えてくれた。
「だから、異世界の情報も結構断片的でね。前の世界のことを覚えてるオヤジさんは貴重っていうか……」
いつも快活で開けっぴろげなルシウスらしくなく、奥歯に物が挟まったような物言いだった。
ゲンジは苦笑した。ヴァシレウス大王に向き直って、
「僕が何かお役に立てることがあれば、遠慮なく仰ってください」
元々、ゲンジはあまり押しが強い性格ではなく、どちらかといえば物事は受け身で対処してきた人間だった。
その分、周囲の空気を読むことに長けていて、日本にいたときはそんな我流の処世術だけで雇われとはいえ有名料亭の板長を歴任してきたのだ。
「では、ゲンジ殿。貴殿の経歴と腕を見込んで、可能な限り異世界の情報を記録に残してもらえないだろうか?」
「記録、ですか?」
何やら意外な話になってきた。
退位して久しいヴァシレウス大王は時間に余裕があるので、残ってサロンで食後のお茶を飲みながら歓談となった。
もちろんゲンジも付き合うことになるのである。
内々の話だからと、サロンにはゲンジ、ヴァシレウス大王、それにルシウスの3人だけで。
先王ヴァシレウス大王は数年前、ルシウスが冒険者として飯マズ男を追いかけている間に新しく伴侶を得て、ヨシュア坊ちゃんと同い年の男子をもうけたそうだ。
今年4歳になるのだが、急に泣き出したかと思えば前世の自分を語り出して、周囲を困惑させたらしい。
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「そうでしたか……」
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「そうか……だと良いのだが」
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「え?」
ルシウスが躊躇いがちに教えてくれた。
「だから、異世界の情報も結構断片的でね。前の世界のことを覚えてるオヤジさんは貴重っていうか……」
いつも快活で開けっぴろげなルシウスらしくなく、奥歯に物が挟まったような物言いだった。
ゲンジは苦笑した。ヴァシレウス大王に向き直って、
「僕が何かお役に立てることがあれば、遠慮なく仰ってください」
元々、ゲンジはあまり押しが強い性格ではなく、どちらかといえば物事は受け身で対処してきた人間だった。
その分、周囲の空気を読むことに長けていて、日本にいたときはそんな我流の処世術だけで雇われとはいえ有名料亭の板長を歴任してきたのだ。
「では、ゲンジ殿。貴殿の経歴と腕を見込んで、可能な限り異世界の情報を記録に残してもらえないだろうか?」
「記録、ですか?」
何やら意外な話になってきた。
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