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番外編 異世界板前ゲンジ、ルシウス君と再会す
ゲンジは嵌められた
しおりを挟む心臓が破裂しそうなほど緊張していたゲンジだったが、ルシウスの励ましもあって、ついに王族の皆さんにディナーを提供する日を迎えてしまった。
「もう。オヤジさんたら、ココ村支部であんなに荒くれ者の冒険者たちを相手にしてたのに。あれと比べたら王族の皆さんなんてお行儀いいよ?」
「お行儀って。そりゃそうだろうけどさあ」
ゲンジが最初考えた懐石料理は、元は茶懐石といって茶の湯の前に小腹を満たす軽食だったと言われている。
一汁三菜を中心に、後に酒を飲むこと前提のメニュー構成になっていったが、現代では料理人の裁量で品数も料理や飲み物の順番も多種多様になっている。
一応、カイル伯爵にメニューを確認してもらうと、冒頭の小盛りの飯は印象が悪いと言われて後の方に持ってくることになった。
(まんま、海外の人の感覚だよねえ)
懐石では最初の膳で汁物と前菜の前菜のような味付けなしで食せる刺身やなます、そしてひと口ふた口で食べきれる米飯を出すのだが、知らないと「これっぽっちか?」と残念に思われることがある。
ならばと主食はコースの後に配置して、メニューを組み立てていった。
当日、ゲンジは厨房に詰めて、配膳はリースト伯爵家の家人たちが行うとばかり思っていたら、甘かった。
会食は夜の7時からだが、ゲンジは午後、昼過ぎには本邸に呼ばれてすべての料理を作り上げるよう、カイル伯爵から指示された。
(毒味の時間を取るってことなのかな?)
と思いきや、作り上げた料理は次々とカイル伯爵と弟のルシウスの手によって魔法樹脂に封入されていった。
汁物などは椀に注がれた状態で。
焚き物、いわゆる煮物なども蓋はせずにそのまま封入だ。
下拵えから始まって夕方にはすべて調理完了した。
(一人で一から全部作るのはさすがに大変だったねえ。料亭なら板長の指示で担当者が分かれてるもんね)
それから、ルシウスや甥っ子のヨシュア、母御のブリジット夫人と休憩がてらお茶をしながら歓談していた。
あとは会食の時間になったら配膳してもらい、ゲンジは別室に控えて、何か質問等があれば対応しようと思っていたら。
「じゃ、オヤジさん、行こうか」
この世界の調理師の礼装は、汚れや匂い防止加工が施されている。
今回のゲンジのようにリースト伯爵家の厨房で調理した後、そのまま主人や客人たちに挨拶に行ける仕様なのだ。
ルシウスに手を引かれてやって来たのは、伯爵家のダイニングルーム。
しかもプライベートのほうだ。とはいっても20人は入れる広さの個室である。
(あれ? これってもしかして?)
テーブルの上にはゲンジが作った料理が、魔法樹脂に封入されたまま置かれ、セッティングされている。
食器の数を見ると、8人分。
(王族の皆さんが3人。ルシウス坊主のおうちが4人。残り一人って……)
「ヴァシレウス様たち、オヤジさんとお話をしたかったんだって。一緒にごはんしようね?」
「ぼ、坊主ううう!」
嵌められた。
傍らのルシウスは、してやったりな顔でニマニマ笑いながらも、麗しく可愛かった。
これではゲンジは怒れない。
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