家出少年ルシウスNEXT

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
158 / 216
ルシウス君、称号ゲット!からのおうちに帰るまで

お兄ちゃんからついに……!

しおりを挟む
 それからココ村支部は危険が去ったが、工作員の飯マズ男が逃亡したまま。
 男はすべての冒険者ギルドで全世界に指名手配されることになった。

 アケロニア王国の王族の皆さんの策略でココ村に派遣されていたルシウスは、今後どうすればいいのか故郷に一度、ギルド側から問い合わせてもらった。

 すると往復一日で届く飛竜便で届いたお手紙が、何と。


『我が弟ルシウスよ。お前もリースト伯爵家の男子ならば、すべて解決するまで戻ってくるな。中途半端なままの帰郷は認めない』


 故郷から届いたお手紙は、便箋一枚に短く書かれた一通のみ。

 差出人は『カイル・リースト』。
 そう、ルシウスの大好きな、あのお兄ちゃんである!

「え、これって、つまり」
「飯マズ男を滅殺してこい。そう言うんだね、兄さん……!」

 もうこれでルシウスは大変なことになった。
 気合いが入って気合いが入って、全身からネオンブルーの魔力が吹き出している。

 そればかりか魔力の周りがキラキラと光り輝いて、ただでさえ麗しいルシウスが神々しかった。
 ルシウスの聖者の芳香の、松葉や松脂に似た濃密な森の香りも辺りに満ちた。

 昨日までのしょんぼりどんよりしていた雰囲気は一気に消し飛んだ。

 そして、溢れ出していた膨大な魔力がパッと消えて、ルシウスの腰回りに強く光り輝くリンクが出現する。

「あれ?」

 いつもならすぐ消えてしまうルシウスのリンクが、ずーっと出っぱなしである。

「そのお手紙の人への想い、よほど強いのね。普通なら執着になるのでしょうけど、突き抜けちゃったのね」

 ルシウスの強く光り輝いているリンクを突っついて、聖女のロータスが満足げに笑っていた。



 ルシウスに送られてきた手紙の内容を見せてもらったギルマスのカラドンは、ココ村支部発の指名依頼をルシウスに託した。

「ミルズ王国の工作員ケンを捕獲せよ。捕獲の際の生死を問わない」
「ラジャー!」

 ルシウスは依頼を受けて、ココ村支部を出て飯マズ男を追うことにした。
 単独でも良かったが、故郷やここココ村しか知らないルシウスには、円環大陸の各地での土地勘がない。

「そこは私たちがフォローしよう。各地に私たちの仲間もいるしね。彼らに協力を求めれば、人探しも楽になるはずさ」

 魔術師のフリーダヤが申し出て、聖女のロータスも加えた3人パーティーを結成することになった。

「あたしも行きたいけど、ごめんねえルシウス君。行方不明中の友達がカーナ王国にいるみたいだから、あたしはまだココ村支部にいるわ」

 師匠のフリーダヤやロータスが来たことで、彼らの探索スキルの協力を得て、ようやくハスミンの友人探しにも端緒が開けてきたそうだ。

 カーナ王国は、ココ村海岸の対岸にある小国だ。
 元を辿れば、ココ村海岸や間の海に魔物が出没する遠因ともなっている、魔物の多い国でもあった。

「代わりにケンの居場所を占ってあげる」

 飯マズ男のことだ。

 ハスミンは出立する準備を整えるようルシウスに言って、終わったらギルドの外の砂浜に来るよう促した。



 何だなんだと冒険者たちも集まる中、魔法使いの杖をさくっと砂浜の中にハスミンが突き立てる。

「来たわね。行くわよー。……西に東に北南、西に東に北南。汝の探す男ケンの行方を示せ」

 短く文言を唱えた後で、杖から手を離した。
 すると軽く砂地に刺していただけの杖は、ぱたりと倒れた。
 海のほうではなく、内陸方面を。

「この方角は……?」
「やはりミルズ王国か。古巣に戻ったみたいですね」

 飯マズ男はココ村のあるゼクセリア共和国と同じ、円環大陸の南西部にある小国だ。
 政情不安で崩壊寸前と言われていた。

「杖から出ている細い光がわかる? この光を辿ってさあ出発して。途中で馬や馬車を調達してもいいけど」
「ミルズ王国なら知っている場所があるわ。空間転移が早い」

 ハスミンの言葉を受けて、聖女のロータスが足元にリンクを出した。
 片手にルシウスの手を、もう片方の手にはフリーダヤのローブの裾を掴んだ。

「じゃあ行ってきます!」

 満面の笑顔のルシウスと、伝説級魔力使いの二人が空間転移で消えていく。

 その寸前。

「坊主、弁当だよ! 焼き鳥弁当だ、旅先で食ってくれ!」

 慌てて食堂横から出てきた料理人のオヤジさんが、3人分の弁当の包みを投げた。
 消えかかっていたルシウスは危なげなく受け止めて、そして完全に砂浜から消えたのだった。

 オヤジさんだいすき、と子供の声が聞こえた気がした。

「あ、ヤベ。実家に手紙の返事、書かせる前に出立させちまった」

 髭面ギルマスのカラドンが頭を掻いた。

「仕方ねえ、俺が代わりに書くかあ~」

 それが8月も終わりの下旬のこと。

 明るく賑やかだった聖剣使いの少年魔法剣士も、何かとお騒がせだった魔術師と聖女もいなくなったココ村支部は、また穏やかな過疎ギルドへと逆戻りしたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...