128 / 216
ルシウス君、称号ゲット!からのおうちに帰るまで
占い師ハスミンの「環《リンク》の数え歌」
しおりを挟む
「……それで。お詫びに、聖剣使いのあなたが使えない術の知識をお渡ししようと思うんだけど、どう?」
「それも環を出さないと使えないやつでしょ。その手には乗らないんだから」
「ううん。ただの環の使用説明書よ。短い簡単な詩でね」
ハスミンはそれを『環の数え歌』と呼んだ。
「あたしの弟子たちがまだ幼かった頃、環を使うコツを掴ませるために作ったものでね。魔力使いの血筋じゃない孤児たちだったから、取っ掛かりになるよう効果を数字順で覚えさせたの」
そうしてハスミンがくれたメモには、十行ほどの詩が書かれていた。
女性らしい繊細な文字だ。ある程度の教育を受けた者であることが文字からわかる。
環の数え歌
「1は新しいことを始めるときの原動力」
「2は落ち着いておやすみを言うときのもの」
「3は凛と前を向いていくための力」
「4は皆と仲良しになるとき助けてくれる」
「5は緊張と緊張の間、怠惰でいることの勇気をくれる」
「6は自分の道を照らす光」
「7は無邪気さと夢を思い出させる輝き」
「8は夜明け前が一番暗いことを思い出させる」
「9は智慧と導きをもたらす祝福の炎」
「0は一度リセット!」
「数字魔法を参考にしたやつだね」
「そう。あたしの弟子たち、難しい本とか全然読まなかったから、エッセンスだけまとめたの」
「使い方は?」
「文章がそのまま効果になってるの。使うときは自分の周りに環を出しながら、数字か、数字ごと文章を唱える」
「数字を書いて使うことはできる?」
「もちろん。対象に指で描いてもいいし、何か紙に描いたり、素材に刻みつけてもいい」
「なるほど……」
そもそも、ルシウス自身がリースト伯爵家という魔法の大家の出身者だ。
リースト伯爵家は旧世代の魔力使いの集団だが、魔力使いとして魔法剣士の修行や勉強はそれなりに過酷だった。
大好きなパパやお兄ちゃんが師匠だったから、ルシウスも泣き泣き頑張れたというだけで。
特にパパの熱心な励ましがなかったら絶対やっていけなかった。
新世代の環使いたちの体系も膨大なのだろうな、と思い込んでいたルシウスはハスミンの作ったという数え歌にちょっと拍子抜けしてしまった。
「……本当に、これだけでいいの?」
疑り深くなってしまうのは許してほしい。
何せ、彼女の師匠の魔術師のフリーダヤと聖女ロータスがアレだったもので。
「ええ。細かく言えばキリがないけどね。それに、環は新世代の術式って言われてるけど、旧世代の使うほとんどの魔法や魔術がそのまま使えるの」
「そのまま……」
と言われてもイメージが浮かばない。
「例えば、あなたは今のままでも聖剣を使えるけど、環を使いながらでもやれるってこと」
「え、え? それにどんな違いが?」
するとハスミンは、可憐なお人形さんみたいな水色の瞳を持つ美貌で、にやっと笑った。
「それは、両方をそれぞれ試して比較してみないとね」
「! あー! それ狙ってたんでしょ!?」
比較ってそれ、環を出して使わないとできないじゃん。
やられた、と頭を抱え込んでしまったルシウスに、ハスミンは大爆笑だ。
「環出さなくても使える知識って言ってたのにい……」
しかもここまでの話の流れだと、ルシウス的には、じゃあそんなのやりません、とも言いづらい。
よしよし、とシャワー浴びたてで湿った頭を撫で撫でしてくるのがまたルシウスにとっては憎らしい。
「結果的に、この数え歌はうちのファミリーを象徴するものになったわ。各数字ごとに対応する者がいるの」
例えば「1は新しいことを始めるときの原動力」は、環創成の魔術師フリーダヤを表す象徴的な詩になったそうだ。
「ロータスは『5は緊張と緊張の間、怠惰でいることの勇気をくれる』ね。5を使いこなせると強いわよ。力をとことん溜め込んで待てるから」
「ハスミンさんは?」
「あたしは『7は無邪気さと夢を思い出させる輝き』ね。あたし、本当は魔法使いじゃなくて占い師なの。人間の無意識を読み取って、相手の本当の望みを思い出させるのが仕事よ」
「そういう感じかあ~」
じゃあ僕は? と訊こうとしたらハスミンの嫋やかな指先でそっと唇を塞がれてしまった。
「数え歌を数字ごとにしばらく唱えてみて、しっくり来るのがあなたの数字よ。試してみてね?」
「むうう……」
結局、環使いどもの手のひらの上で転がされてしまっている。
一歩引いたように見せかけて、ハスミンとて魔術師フリーダヤと聖女ロータスの一味には変わりない。
何だかんだで彼らの思惑に引き摺り込まれていくルシウスなのだった。
「とりあえずごはん、おなかすいた!」
「それも環を出さないと使えないやつでしょ。その手には乗らないんだから」
「ううん。ただの環の使用説明書よ。短い簡単な詩でね」
ハスミンはそれを『環の数え歌』と呼んだ。
「あたしの弟子たちがまだ幼かった頃、環を使うコツを掴ませるために作ったものでね。魔力使いの血筋じゃない孤児たちだったから、取っ掛かりになるよう効果を数字順で覚えさせたの」
そうしてハスミンがくれたメモには、十行ほどの詩が書かれていた。
女性らしい繊細な文字だ。ある程度の教育を受けた者であることが文字からわかる。
環の数え歌
「1は新しいことを始めるときの原動力」
「2は落ち着いておやすみを言うときのもの」
「3は凛と前を向いていくための力」
「4は皆と仲良しになるとき助けてくれる」
「5は緊張と緊張の間、怠惰でいることの勇気をくれる」
「6は自分の道を照らす光」
「7は無邪気さと夢を思い出させる輝き」
「8は夜明け前が一番暗いことを思い出させる」
「9は智慧と導きをもたらす祝福の炎」
「0は一度リセット!」
「数字魔法を参考にしたやつだね」
「そう。あたしの弟子たち、難しい本とか全然読まなかったから、エッセンスだけまとめたの」
「使い方は?」
「文章がそのまま効果になってるの。使うときは自分の周りに環を出しながら、数字か、数字ごと文章を唱える」
「数字を書いて使うことはできる?」
「もちろん。対象に指で描いてもいいし、何か紙に描いたり、素材に刻みつけてもいい」
「なるほど……」
そもそも、ルシウス自身がリースト伯爵家という魔法の大家の出身者だ。
リースト伯爵家は旧世代の魔力使いの集団だが、魔力使いとして魔法剣士の修行や勉強はそれなりに過酷だった。
大好きなパパやお兄ちゃんが師匠だったから、ルシウスも泣き泣き頑張れたというだけで。
特にパパの熱心な励ましがなかったら絶対やっていけなかった。
新世代の環使いたちの体系も膨大なのだろうな、と思い込んでいたルシウスはハスミンの作ったという数え歌にちょっと拍子抜けしてしまった。
「……本当に、これだけでいいの?」
疑り深くなってしまうのは許してほしい。
何せ、彼女の師匠の魔術師のフリーダヤと聖女ロータスがアレだったもので。
「ええ。細かく言えばキリがないけどね。それに、環は新世代の術式って言われてるけど、旧世代の使うほとんどの魔法や魔術がそのまま使えるの」
「そのまま……」
と言われてもイメージが浮かばない。
「例えば、あなたは今のままでも聖剣を使えるけど、環を使いながらでもやれるってこと」
「え、え? それにどんな違いが?」
するとハスミンは、可憐なお人形さんみたいな水色の瞳を持つ美貌で、にやっと笑った。
「それは、両方をそれぞれ試して比較してみないとね」
「! あー! それ狙ってたんでしょ!?」
比較ってそれ、環を出して使わないとできないじゃん。
やられた、と頭を抱え込んでしまったルシウスに、ハスミンは大爆笑だ。
「環出さなくても使える知識って言ってたのにい……」
しかもここまでの話の流れだと、ルシウス的には、じゃあそんなのやりません、とも言いづらい。
よしよし、とシャワー浴びたてで湿った頭を撫で撫でしてくるのがまたルシウスにとっては憎らしい。
「結果的に、この数え歌はうちのファミリーを象徴するものになったわ。各数字ごとに対応する者がいるの」
例えば「1は新しいことを始めるときの原動力」は、環創成の魔術師フリーダヤを表す象徴的な詩になったそうだ。
「ロータスは『5は緊張と緊張の間、怠惰でいることの勇気をくれる』ね。5を使いこなせると強いわよ。力をとことん溜め込んで待てるから」
「ハスミンさんは?」
「あたしは『7は無邪気さと夢を思い出させる輝き』ね。あたし、本当は魔法使いじゃなくて占い師なの。人間の無意識を読み取って、相手の本当の望みを思い出させるのが仕事よ」
「そういう感じかあ~」
じゃあ僕は? と訊こうとしたらハスミンの嫋やかな指先でそっと唇を塞がれてしまった。
「数え歌を数字ごとにしばらく唱えてみて、しっくり来るのがあなたの数字よ。試してみてね?」
「むうう……」
結局、環使いどもの手のひらの上で転がされてしまっている。
一歩引いたように見せかけて、ハスミンとて魔術師フリーダヤと聖女ロータスの一味には変わりない。
何だかんだで彼らの思惑に引き摺り込まれていくルシウスなのだった。
「とりあえずごはん、おなかすいた!」
12
お気に入りに追加
554
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる