家出少年ルシウスNEXT~聖剣の少年魔法剣士、海辺の僻地ギルドで無双する

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
122 / 216
ルシウス君、称号ゲット!からのおうちに帰るまで

料理人のオヤジさんが本気すぎる〜カニカニフェス

しおりを挟む
 海老のときといい、最近、料理人のオヤジさんの腕がキレッキレである。

「カニが来るのは久し振りだねえ」

 カニバサミを手入れしながら、とても良い笑顔だった。

 舞踏ダンサーズクラブは、カニが魔物化したモンスターだ。
 今回、食用にできたもののうち、脚部が長く太くて身の食べ応えのあるものはタラバ系のカニ。
 脚が細いが味噌も含めて味の良いズワイ系やワタリガニ系のカニ。主にこの3種類だった。

 食べやすいタラバガニは、蒸して脚に切れ込みを入れて、前菜代わりにカニ酢や、各自お好みのソースで。

「わあ、すごい」

 関節をパキッと折って、慎重に引っ張ると、ちょっと赤みがかった柔らかい繊維質な白い身がでろーんときれいに取り出せる。

 まずはそのままで蒸し立ての熱々を一口。

 おいしい。すごくおいしい。
 もう口の中でいっぱいにカニがダンスを踊っているかのよう。

 しばし、無言で一同、カニをもぐもぐするのだった。

 殻の内側に残ってしまった身をカニナイフでこそげ落とすのに集中することもあって、カニを食すときは無言になりがちなのだ。



 他、甲羅の身をオヤジさんが丁寧に解して、味噌と合わせたものは酒飲みたちの肴だ。

 あるいは、カニの身に玉ねぎやハーブを加えて円盤形にまとめ、パン粉の衣を付けて揚げたカニカツなども。
 そのままでも、レモンをキュッと絞っても、そしてウスターソースなどをかけてもいける。

 揚げたてのカツにナイフを入れると、ザクッと衣のたてる音からしてもう堪らない。

「明日のランチはこのカニでクリームコロッケにしようかね」
「わああ……」

 カニ肉たっぷり、濃厚なホワイトソースでオヤジさんが作るのだ。間違いないやつだ。

 もうルシウスなどは今から期待に涎を垂らさんばかりである。



 そして今回、主食は選べる2種を用意してくれていた。

 カニのトマトソースパスタと、カニ入りオムライスである。

 一同、その究極の選択に唸った。

「ど、どっちも絶対に間違いないやつ……!」

 だってオヤジさんが腕を振るう料理だもの。
 間違いだらけの飯マズ男とは訳が違う。

 そしてこういうとき、絶対に間違いない選択というものがある。

「両方注文します!」

 キリッとした顔で真っ先に注文したルシウスに、場が沸いた。それな! 間違いない!



「やっぱり、おいしいものでひとはなける」

 ほろほろと麗しの顔に涙を流しながらルシウスが呟いた。

 甘味たっぷりの真夏の熟れたトマトで作ったカニのトマトクリームパスタ。

 ふわとろ系の半熟オムライスは、中のカニピラフにもカニ肉たっぷり。
 そう、普通のオムライムなら中身はケチャップライスだが、オヤジさんはカニピラフで攻めてきた。こわい。オヤジさんの本気がこわい。
 上にかけられたフレッシュトマトのソースまでカニ入り。

 カニはカニというだけで美味しい。
 そこに、生で食べても美味しい真夏の日差しで完熟したトマトをソースにしてたっぷり合わせ工夫されたパスタとオムライスは、まさに夏の芸術だった。

「トマトばっかじゃんとか思ったけど、すまん。マジ美味いわこれ」

 ギルマスのカラドンも大絶賛だった。

 最近の料理人のオヤジさんは本気だ。
 特に、あの飯マズ料理人のシフト日から数日は本気で食堂の利用者たちを仕留めにかかっている気がする。

「彼、飯ウマの人か! これは驚いた、こんなところで出会えるなんて」
「すごいわ、とても美味しい。ここ百年ほどで一番美味しいかも」

 伝説級のふたりもご満悦だった。

 これはもう、決まりだ。

「おうちに送らなきゃ。オヤジさん、大量注文お願いします!」

 使命感に駆られていつもの注文を入れるルシウス。

「カニの殻剥きを手伝ってくれるかい?」

 とオヤジさんはズワイガニの細い脚を持って示した。
 これが手間のかかるやつなのだ。

「はい、喜んでー!」

「あ、私も手伝うわ。この料理ならアイテムボックスにストックしておきたいもの」
「え」

 まさかの聖女ロータスが助っ人に手を挙げてきた。

「ロータスさん、目が見えないのに大丈夫?」

 カニ退治や、今も食事に不自由している様子はないものの。

「視力がないだけで、知覚は発達してるの。こう見えて案外、器用なのよ」
「そっかあ」

 そうして、ココ村支部とルシウスの故郷のアケロニア王国を結ぶ飛竜便が来るまでに、せっせとカニの殻剥きをすることになるのだった。



「随分たくさん作るねえ。おうちって大家族?」
「いえ、実家は父と兄夫婦と使用人たちだけです。兄のお嫁様がご懐妊で、栄養のある美味しいもの送ってあげたくて」

 そう、ついに先日、おうちのパパからお兄ちゃんのお嫁さんが赤ちゃんできたよのお知らせが来たのだ。
 出産予定日は来年の初夏辺りだそうな。

 夕食後、厨房を覗けるカウンター席に座って、魔術師のフリーダヤがカニを剥き剥きするルシウスとロータスを見物している。

 今晩はカニだけ剥いておいて、調理は明日、オヤジさんが再び厨房に入ってからお願いすることになる。

「それにしては数多すぎない?」
「王宮の王女様もご懐妊なんですって。前に海老ピラフを送ったらつわりの最中でも食べられたから、そっち用にも送れって」
「君はアケロニア王国の貴族なんだって? 王女様ってヴァシレウスの娘か」
「お孫様ですよ。ヴァシレウス様を知ってるんですか?」
「まあ古い付き合いでね。アケロニア王家とは800年」
「わお。案外世の中狭いですねー」

 そんな話をしながら、剥き剥き剥き剥き……。

 厨房に残っていたすべてのズワイガニの脚肉を、ひたすら剥いていく。
 最初に、茹でた脚を縦にオヤジさんが包丁で切ってくれているので、あとはカニナイフで中の身をこそげ取っていくだけの簡単なおしごと。

 ちなみに剥いた後の殻はオヤジさんが煮込んで、明日のスープになるらしい。




--
今までで一番美味かったオムライスは、ゲゲゲの鬼太郎で有名になった境港で食べたカニオムライスでした。
松江出雲に旅行行くと、つい足伸ばして行っちゃうんだ境港……

そんでカニのトマト系パスタはハズレなくて美味いですな🦀🍅🍝
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 286

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...