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ルシウス君、覚醒編
パパがパパになる前のお話
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今の父、リースト伯爵メガエリスにルシウスが初めて会ったのは、父がまだ幼い頃のことだった。
両親に連れられて王都本邸の地下で初めて、魔法樹脂に封印されていた赤ん坊の、まだルシウスという名前のなかったルシウスと顔を合わせた。
とはいえ、魔法樹脂の中のルシウスは蹲って目も瞑ったままだったので、目が合うこともなかったのだけれど。
それでもハイヒューマンとして知覚が発達したルシウスには超知覚による心眼がある。
鮮明な映像としては見えなかったけれど、目の前にいる5歳前後の子供がショートボブの青銀の髪を持っていて、魔人族の末裔らしい湖面の水色の瞳を持った、とても愛らしい少女のような少年であることは見えていた。
それからメガエリスは王都の本邸にいる間は特別な用事がない限り、必ず毎日地下に降りて、最も古い時代のご先祖様であるルシウスや、他の同族たちに挨拶する習慣を持つようになった。
親しい友人がおらず、本やおもちゃを持って地下に来ては、物言わぬ魔法樹脂の中の人々に囲まれて、あれこれ独り言を言っている子供だった。
「僕は本家の嫡男なのに、魔法剣はたったの8本だけ。ここからどうやって頭角を現したらいいんだろう?」
当時も今も、一族で魔力が強い者は皆、金剛石ダイヤモンドの魔法剣を数十本単位で生み出し創り上げることができた。
なのにメガエリスは自分は8本しか創れなかった、と言ってよくしょんぼりしていた。
『じゅんすいに、けんのわざをみがいたらいいよ』
当時まだルシウスという名前のなかったルシウスは、魔法樹脂の中からそう、姉の子孫の子供に語りかけた。
メガエリスにルシウスの声なき声を知覚する能力はなかったが、ルシウスに悩みを打ち明けた後は何となく直観的に得るものがあると理解しているようだった。
そうしてルシウスがメガエリスの悩みに対して助言すると、数日来なくなったと思ったら、血筋に受け継いでいる魔法剣ではない生身の細い剣を持ってきて、
「居合いを習うことにしたんだ。一族の魔法剣士にはいないから、差別化になるかなって」
そして目の前で、居合い抜きを実演して見せてくれた。
凛とした背筋の伸びた美しい少年に育っていたメガエリスに、その鋭い動きはよく似合っていた。
『すごい。きみはぜったい、ひとかどのけんしになるよ』
後にメガエリスはアケロニア王国の魔道騎士団の団長にまで上り詰めた。
この国で騎士団長は将軍、事実上、軍のトップ将校のひとりだ。
文字通りテッペンを取ったメガエリスは、その後、長いこと居合い名人の魔法剣士として魔道騎士団に君臨した。
いつも自信なさげに悲しそうな顔をしていた少年は、成長してやがて学園に入学し、今度は女の子たちに追いかけ回されることに悩むようになった。
「男まで迫ってくるの、本当に何とかしてほしい。今日なんて、友人だと思ってた奴が勝手にファンクラブなんてもの作ってたんだ。僕はファンなんて欲しくない。一緒に切磋琢磨できる友が欲しいのに」
『くすくす。いちぞくのおとこのこはみんなそう。だからこそ、したしくなれるひととはいっしょうおつきあいがつづくんだよ』
メガエリスは学園に入学してから、宰相を輩出する侯爵家の子息と仲良くなったのだが、学年が上がるにつれて相手のほうが変に拗らせてメガエリスを崇拝するようになったという。
「……気がつくと、僕の顔をボーッとしながら見ててさ。最近何だか話もまともに合わなくなってきてて」
『そういうこたちは、うまくりようするのがいいって、ねえさまがいってた。きみもいちぞくのこだから、できるようになるよ』
メガエリスはクールで孤高の少年に育ったが、そんな彼を心配して一回り年上の王子様が何かと気にかけてくれるようになったらしい。
その王子様に連れ回される中で、良い人脈も広まっていったようだ。
ちなみにその王子様というのが、後のアケロニア王国が誇るヴァシレウス大王である。
たまには恋愛の悩みを呟くこともあった。
「周りは皆、恋人を作ったり紹介し合ったりしてるのに、僕ときたら……」
離れた場所から麗しの容貌を鑑賞されるばかりで、積極的に付き合おうとまでしてくれる女子がいなかった。
メガエリスが声をかけようとしても、嬌声をあげて逃げていく子たちばかり。
『それはしかたがない。メガエリスはおんなのこたちよりかわいいもの』
「かといって、男もいやだ……」
アケロニア王国では同性愛もそれなりに広まっていた。
メガエリスのような麗しい容貌で肉体的にも体格に恵まれ鍛えられた者は、男女問わずモテる。
『あせらなくたっていいんだよ。ぼくたちはきまったひとしかあいせないんだから。そういういきものなの』
ルシウスの両親や姉、他の一族も、最愛を見つけるまで何百年もかけることはザラだった。
今のメガエリスたちはハイヒューマンの血が薄れているからそんなに長くは生きられないし、時間をかけられないだろうけれど、自分の気持ちが動かない相手と番うことは不幸にしかならない。
『きみがさいあいをみつけられるように、ぼくもいのっているね』
ルシウスを封印して以降、魔人族、そして今のリースト伯爵家に至る一族は幸運値が落ちている。
ステータスの幸運値は、文字通りの幸運というよりは外運を示す数値だ。
ここが低い場合、自然と外界から幸運がやってくることは少ないので、自ら積極的に動くことで運気を掴んでいく必要がある。
『たくさんのひととあえるように、たくさんおでかけしてね。メガエリス』
そしてそのお話をまた聞かせてね、と声なき声で一族の子供に語りかけるルシウスなのだった。
両親に連れられて王都本邸の地下で初めて、魔法樹脂に封印されていた赤ん坊の、まだルシウスという名前のなかったルシウスと顔を合わせた。
とはいえ、魔法樹脂の中のルシウスは蹲って目も瞑ったままだったので、目が合うこともなかったのだけれど。
それでもハイヒューマンとして知覚が発達したルシウスには超知覚による心眼がある。
鮮明な映像としては見えなかったけれど、目の前にいる5歳前後の子供がショートボブの青銀の髪を持っていて、魔人族の末裔らしい湖面の水色の瞳を持った、とても愛らしい少女のような少年であることは見えていた。
それからメガエリスは王都の本邸にいる間は特別な用事がない限り、必ず毎日地下に降りて、最も古い時代のご先祖様であるルシウスや、他の同族たちに挨拶する習慣を持つようになった。
親しい友人がおらず、本やおもちゃを持って地下に来ては、物言わぬ魔法樹脂の中の人々に囲まれて、あれこれ独り言を言っている子供だった。
「僕は本家の嫡男なのに、魔法剣はたったの8本だけ。ここからどうやって頭角を現したらいいんだろう?」
当時も今も、一族で魔力が強い者は皆、金剛石ダイヤモンドの魔法剣を数十本単位で生み出し創り上げることができた。
なのにメガエリスは自分は8本しか創れなかった、と言ってよくしょんぼりしていた。
『じゅんすいに、けんのわざをみがいたらいいよ』
当時まだルシウスという名前のなかったルシウスは、魔法樹脂の中からそう、姉の子孫の子供に語りかけた。
メガエリスにルシウスの声なき声を知覚する能力はなかったが、ルシウスに悩みを打ち明けた後は何となく直観的に得るものがあると理解しているようだった。
そうしてルシウスがメガエリスの悩みに対して助言すると、数日来なくなったと思ったら、血筋に受け継いでいる魔法剣ではない生身の細い剣を持ってきて、
「居合いを習うことにしたんだ。一族の魔法剣士にはいないから、差別化になるかなって」
そして目の前で、居合い抜きを実演して見せてくれた。
凛とした背筋の伸びた美しい少年に育っていたメガエリスに、その鋭い動きはよく似合っていた。
『すごい。きみはぜったい、ひとかどのけんしになるよ』
後にメガエリスはアケロニア王国の魔道騎士団の団長にまで上り詰めた。
この国で騎士団長は将軍、事実上、軍のトップ将校のひとりだ。
文字通りテッペンを取ったメガエリスは、その後、長いこと居合い名人の魔法剣士として魔道騎士団に君臨した。
いつも自信なさげに悲しそうな顔をしていた少年は、成長してやがて学園に入学し、今度は女の子たちに追いかけ回されることに悩むようになった。
「男まで迫ってくるの、本当に何とかしてほしい。今日なんて、友人だと思ってた奴が勝手にファンクラブなんてもの作ってたんだ。僕はファンなんて欲しくない。一緒に切磋琢磨できる友が欲しいのに」
『くすくす。いちぞくのおとこのこはみんなそう。だからこそ、したしくなれるひととはいっしょうおつきあいがつづくんだよ』
メガエリスは学園に入学してから、宰相を輩出する侯爵家の子息と仲良くなったのだが、学年が上がるにつれて相手のほうが変に拗らせてメガエリスを崇拝するようになったという。
「……気がつくと、僕の顔をボーッとしながら見ててさ。最近何だか話もまともに合わなくなってきてて」
『そういうこたちは、うまくりようするのがいいって、ねえさまがいってた。きみもいちぞくのこだから、できるようになるよ』
メガエリスはクールで孤高の少年に育ったが、そんな彼を心配して一回り年上の王子様が何かと気にかけてくれるようになったらしい。
その王子様に連れ回される中で、良い人脈も広まっていったようだ。
ちなみにその王子様というのが、後のアケロニア王国が誇るヴァシレウス大王である。
たまには恋愛の悩みを呟くこともあった。
「周りは皆、恋人を作ったり紹介し合ったりしてるのに、僕ときたら……」
離れた場所から麗しの容貌を鑑賞されるばかりで、積極的に付き合おうとまでしてくれる女子がいなかった。
メガエリスが声をかけようとしても、嬌声をあげて逃げていく子たちばかり。
『それはしかたがない。メガエリスはおんなのこたちよりかわいいもの』
「かといって、男もいやだ……」
アケロニア王国では同性愛もそれなりに広まっていた。
メガエリスのような麗しい容貌で肉体的にも体格に恵まれ鍛えられた者は、男女問わずモテる。
『あせらなくたっていいんだよ。ぼくたちはきまったひとしかあいせないんだから。そういういきものなの』
ルシウスの両親や姉、他の一族も、最愛を見つけるまで何百年もかけることはザラだった。
今のメガエリスたちはハイヒューマンの血が薄れているからそんなに長くは生きられないし、時間をかけられないだろうけれど、自分の気持ちが動かない相手と番うことは不幸にしかならない。
『きみがさいあいをみつけられるように、ぼくもいのっているね』
ルシウスを封印して以降、魔人族、そして今のリースト伯爵家に至る一族は幸運値が落ちている。
ステータスの幸運値は、文字通りの幸運というよりは外運を示す数値だ。
ここが低い場合、自然と外界から幸運がやってくることは少ないので、自ら積極的に動くことで運気を掴んでいく必要がある。
『たくさんのひととあえるように、たくさんおでかけしてね。メガエリス』
そしてそのお話をまた聞かせてね、と声なき声で一族の子供に語りかけるルシウスなのだった。
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