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ルシウス君、覚醒編
聖者覚醒
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人の話し声が聞こえる。
「いきなり倒れさせるとか、ほんとやめてほしいんだけど!? この子の怖い親父さんが飛んで来ちまったらどうすんだ、俺だけの責任じゃ済まなくなるんだぞ!?」
これはギルマスのカラドンの声だ。
何だか涙声だけど平気なのだろうか?
「大丈夫、大丈夫。この子、アケロニア王国の子なんだって? あそこの王族とは知らない仲じゃない。何かあったら取りなしてあげるから」
「いやだから、そういう問題じゃねえんだって!」
ギルマスは若い男と何やら言い合っている。
どうも自分のことを話し合っているようだった。
気づくとルシウスは冒険者ギルドの2階、宿泊していた宿直室のベッドに寝かされていた。
そこで何やらギルドマスターが、今日来たばかりの冒険者、魔術師フリーダヤと小難しい話をしていた。
聖女だというロータスは、部屋の端に簡易ソファーを引っ張り出してきたようで、裸足で寝転んでうたた寝をしている。
(頭がボーッとする。この状況、何なんだろ)
「ヤバい連中に目をつけられちまったな、ルシウス。……おいフリーダヤ。それでこのルシウス坊主は何に覚醒したんだ?」
髭面で強面の大男のギルドマスターカラドンを宥めつつ、フリーダヤがじっとルシウスを見つめてきた。
他者の魔力が、ルシウスの全身をスキャンしていく。
鑑定スキルを使われているとき特有の感覚だ。
「“聖者”だ。聖者ルシウス・リースト」
「え? 僕は魔法剣士ですよ? 聖者なんかじゃありません」
きょとん、とした顔になったルシウスだ。
リースト伯爵家の者は血筋に代々、金剛石ダイヤモンドの魔法剣を受け継いでいて、少しでも魔力を持つ者なら皆、自動的に魔法剣士の称号と関連するスキルが発現する。
ルシウスも一本だけ強力な魔法剣を持っていて、それを使ってここココ村支部で冒険者として活躍していた。
「間違いなく聖者だ。というか君、元々が聖剣持ちの魔法剣士じゃないか」
「はあ、まあ確かに聖剣持ってますけど」
しかし、ルシウスにとっては、だから何だという話だ。
初めてこの聖剣を生み出したときの兄カイルの引きつった顔は忘れることができない。
思えばあのときから、大好きだったお兄ちゃんが少しずつ自分と距離を置くようになってしまった。
自分はこんなものより、兄と同じ何十本もの自在に宙に浮かせて操れる魔法剣が欲しかったのだ。
(たった一本なんてショボすぎる!)
と実際、故郷でも口に出して顰蹙を買ってしまっている。
でも、だって、本当に自分が欲しかったのは兄とお揃いのものだけだったのだ。
ルシウスの持つ聖剣はたった一本のみだし、形も両刃で細部を変えられない。
兄カイルは本数はたくさん持っているし、形状も大きさも自由自在。実に羨ましい。
だが、「僕は兄さんが羨ましい」と言うと兄は悲しそうな顔で、無理やり作った微笑みを浮かべてルシウスの頭をぽんぽんと優しく叩いてくれるだけなのだった。
「珍しくロータスが動いたから驚いたけど、聖女から新たな聖者への“伝授”というわけだったか。そういうわけで、聖者覚醒だ。おめでとう」
「???」
薄緑の髪と瞳の魔術師フリーダヤはそう言うが、何やら展開が唐突すぎてよくわからない。
ところが、ベッドの上に身を起こしてみると、ルシウスの腰回りに光り輝く帯状のリングがある。
強く白色に白光する帯状のリングに、ルシウス本来のネオンブルーの魔力が絡みついて光っていた。
「あれ、これって……」
「環だよ。君も聞いたことぐらいあるんじゃないの?」
ここココ村支部の冒険者の中には魔力使いも多くいて、その中にはこの光のリングを駆使する術者も若干いた。
代表は、ルシウスと同じく常駐している女魔法使いのハスミンだろう。
環は新世代の魔力使いたちが使う、魔力操作のためのコントロールパネルの術式だ。
旧世代が自分の持つ魔力だけで魔法魔術を使うのに対し、新世代はこの環を用いることで、自分だけでなく他者や環境といった世界からの魔力調達が可能になる。
現在、魔力使いたちの世界は、旧世代から新世代に移り変わる過渡期にあると言われていた。
ただ、環使いはルシウスの知る限りあまり強い者がおらず、回復やバフ役が大半なので自分とは関係のないものだと思っていた。
ハスミンも冒険者ランクはB止まりの中堅に留まっているし、雷魔法を使うものの、戦闘中は他の冒険者たちのバフ支援に回っていることが多かった。
ルシウスは魔法剣士として、徹底的な特攻タイプの戦闘スタイルだ。
そういう後方支援タイプとは相入れない。
「まだ安定はしてないけど、これだけ輝く環の持ち主はそうはいない。久し振りに大物を当てたみたいだねえ」
「だが、聖者ってマジで? 剣聖じゃなくて?」
ハッとルシウスは我を取り戻した。
「僕が聖者だなんて有り得ない。“聖者”も“聖女”も僕にとっては敵なんだからね!」
「あっ、ルシウス!?」
魔術師フリーダヤもギルマスも、端っこで寝ている聖女ロータスもキッと強く睨みつけて、ルシウスはそのまま宿直室を飛び出したのだった。
「いきなり倒れさせるとか、ほんとやめてほしいんだけど!? この子の怖い親父さんが飛んで来ちまったらどうすんだ、俺だけの責任じゃ済まなくなるんだぞ!?」
これはギルマスのカラドンの声だ。
何だか涙声だけど平気なのだろうか?
「大丈夫、大丈夫。この子、アケロニア王国の子なんだって? あそこの王族とは知らない仲じゃない。何かあったら取りなしてあげるから」
「いやだから、そういう問題じゃねえんだって!」
ギルマスは若い男と何やら言い合っている。
どうも自分のことを話し合っているようだった。
気づくとルシウスは冒険者ギルドの2階、宿泊していた宿直室のベッドに寝かされていた。
そこで何やらギルドマスターが、今日来たばかりの冒険者、魔術師フリーダヤと小難しい話をしていた。
聖女だというロータスは、部屋の端に簡易ソファーを引っ張り出してきたようで、裸足で寝転んでうたた寝をしている。
(頭がボーッとする。この状況、何なんだろ)
「ヤバい連中に目をつけられちまったな、ルシウス。……おいフリーダヤ。それでこのルシウス坊主は何に覚醒したんだ?」
髭面で強面の大男のギルドマスターカラドンを宥めつつ、フリーダヤがじっとルシウスを見つめてきた。
他者の魔力が、ルシウスの全身をスキャンしていく。
鑑定スキルを使われているとき特有の感覚だ。
「“聖者”だ。聖者ルシウス・リースト」
「え? 僕は魔法剣士ですよ? 聖者なんかじゃありません」
きょとん、とした顔になったルシウスだ。
リースト伯爵家の者は血筋に代々、金剛石ダイヤモンドの魔法剣を受け継いでいて、少しでも魔力を持つ者なら皆、自動的に魔法剣士の称号と関連するスキルが発現する。
ルシウスも一本だけ強力な魔法剣を持っていて、それを使ってここココ村支部で冒険者として活躍していた。
「間違いなく聖者だ。というか君、元々が聖剣持ちの魔法剣士じゃないか」
「はあ、まあ確かに聖剣持ってますけど」
しかし、ルシウスにとっては、だから何だという話だ。
初めてこの聖剣を生み出したときの兄カイルの引きつった顔は忘れることができない。
思えばあのときから、大好きだったお兄ちゃんが少しずつ自分と距離を置くようになってしまった。
自分はこんなものより、兄と同じ何十本もの自在に宙に浮かせて操れる魔法剣が欲しかったのだ。
(たった一本なんてショボすぎる!)
と実際、故郷でも口に出して顰蹙を買ってしまっている。
でも、だって、本当に自分が欲しかったのは兄とお揃いのものだけだったのだ。
ルシウスの持つ聖剣はたった一本のみだし、形も両刃で細部を変えられない。
兄カイルは本数はたくさん持っているし、形状も大きさも自由自在。実に羨ましい。
だが、「僕は兄さんが羨ましい」と言うと兄は悲しそうな顔で、無理やり作った微笑みを浮かべてルシウスの頭をぽんぽんと優しく叩いてくれるだけなのだった。
「珍しくロータスが動いたから驚いたけど、聖女から新たな聖者への“伝授”というわけだったか。そういうわけで、聖者覚醒だ。おめでとう」
「???」
薄緑の髪と瞳の魔術師フリーダヤはそう言うが、何やら展開が唐突すぎてよくわからない。
ところが、ベッドの上に身を起こしてみると、ルシウスの腰回りに光り輝く帯状のリングがある。
強く白色に白光する帯状のリングに、ルシウス本来のネオンブルーの魔力が絡みついて光っていた。
「あれ、これって……」
「環だよ。君も聞いたことぐらいあるんじゃないの?」
ここココ村支部の冒険者の中には魔力使いも多くいて、その中にはこの光のリングを駆使する術者も若干いた。
代表は、ルシウスと同じく常駐している女魔法使いのハスミンだろう。
環は新世代の魔力使いたちが使う、魔力操作のためのコントロールパネルの術式だ。
旧世代が自分の持つ魔力だけで魔法魔術を使うのに対し、新世代はこの環を用いることで、自分だけでなく他者や環境といった世界からの魔力調達が可能になる。
現在、魔力使いたちの世界は、旧世代から新世代に移り変わる過渡期にあると言われていた。
ただ、環使いはルシウスの知る限りあまり強い者がおらず、回復やバフ役が大半なので自分とは関係のないものだと思っていた。
ハスミンも冒険者ランクはB止まりの中堅に留まっているし、雷魔法を使うものの、戦闘中は他の冒険者たちのバフ支援に回っていることが多かった。
ルシウスは魔法剣士として、徹底的な特攻タイプの戦闘スタイルだ。
そういう後方支援タイプとは相入れない。
「まだ安定はしてないけど、これだけ輝く環の持ち主はそうはいない。久し振りに大物を当てたみたいだねえ」
「だが、聖者ってマジで? 剣聖じゃなくて?」
ハッとルシウスは我を取り戻した。
「僕が聖者だなんて有り得ない。“聖者”も“聖女”も僕にとっては敵なんだからね!」
「あっ、ルシウス!?」
魔術師フリーダヤもギルマスも、端っこで寝ている聖女ロータスもキッと強く睨みつけて、ルシウスはそのまま宿直室を飛び出したのだった。
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