家出少年ルシウスNEXT

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
104 / 216
ルシウス君、覚醒編

単純がおいしいウインドウトースト

しおりを挟む
 飯マズ料理人が厨房に入らなかった日から一週間は、ギルドの面々の調子が良かった。

「あのクソ不味い飯ってさ、ストレスだったんだなー」
「わかる。あの突き抜けるような不毛な味わい。食後はしばらく自我が吹っ飛ぶもんな……」

 などと冒険者の男二人が食堂で駄弁っている早朝。
 いつもの料理人のオヤジさんは朝の7時から出勤なので、美味しい朝食が食べられるまではまだ時間がある。
 仕方ないからと、冒険者たちはまた補充されるようになったワンコインの惣菜パンや菓子パンなどを齧って、オヤジさんが来るまでの時間を潰していた。

「おはようございます! あっパン! 僕も食べる!」

 今日も朝から元気いっぱいのルシウス少年だ。
 壁際の専用コーナーに直行して、分厚めの食パン一枚をチョイスした。
 バターやジャムは不要。
 そのまま食パンを持って厨房へ。

 何だ何だと冒険者たちが付いていくと、まな板の上で食パンの中を四角く切り抜いていた。
 フライパンにオリーブオイル少々を垂らして加熱し、食パンの枠を投入。
 真ん中に四角く空けたところに、卵を一個イン。
 その上から切り抜いた四角部分のパンをそーっと乗せて穴を塞いで、フライパンに蓋をした。
 あとは弱火でじっくりと。
 その後、食パンをフライ返しで引っ繰り返すと、パンにも卵にも良い感じの焼き色がついている。
 裏面も同じように焼いたらお皿に移して、ほそーくマヨネーズを格子状にかけて、お塩少々ぱらり、黒胡椒をミルでガリゴリ削って出来上がり。

「美味しそうにできました!」

 満足げにルシウスが頷いている。
 窓開きトーストウインドウトースト
 つまりトーストの中で目玉焼きを焼いたやつだ。

「美味そおおお! ルシウス、俺も、俺たちもそれ食いたい! 作ってくれ!」
「いいけど、もうそろそろオヤジさん来ると思うよ?」
「「今はそれが食いたい!」」
「そっか~」

 幸いフライパンは大きめのものがあるので、一気に複数枚を焼ける。
 男たちに新しい食パンを持ってきてもらって、一人一枚ずつ同じ手順でウインドウトーストを作っていった。

 男たちの分は、大人だからちょっとだけ黒胡椒を多めに。

 数分後、それぞれウインドウトーストの載ったお皿を持ってテーブルへと移動した。



「うま……朝からいいもん食えたわ……」
「さくふわとろお……幸せがこの一枚に詰まってら……」

 オリーブオイルで焼いたパンの耳の部分がさくっ。
 フライパンで焼いたパンの中はふわっ。
 窓の部分の目玉焼きの黄身は絶妙な半熟。
 マヨネーズと塩胡椒が、とろっとした黄身と絡んでとても美味しい。

 ルシウスが飯ウマオプション持ちの調理スキル保持者とは聞いていたが、まさかこんな単純な料理がここまで美味いとは。

「食パンと卵とマヨネーズ塩胡椒だけじゃん……これが……飯ウマの力……」
「オリーブオイルで焼くのがコツなんだよ。バター使うと焦げちゃうからね」

 男たちは正直ルシウスを舐めていた。ごめんなさい。



「これ、僕の父様の得意料理なんだよ。独身のとき、騎士団の寮で作ってよく食べてたんだって」

 簡単だし、厚切りの食パンで作れば腹に溜まるから一枚でも満足感がある。
 材料もシンプルで安い。
 使うのは包丁やナイフ、フライパンだけ。
 数分で作れる。
 朝食には最適の簡単メニューだ。

「こんなん、ささっと作れちまうのか、ルシウスのパパさん」
「意識高い系過ぎだろ……」
「話聞いてるだけでモテ男のオーラ漂ってくるな……」

 そのモテオーラにあやかろう、と男たちが神妙そうな顔つきでウインドウトーストに囓りついている。
 そしてすぐに、顔面の筋肉がゆるゆるに蕩けて笑顔になる。

「父様が結婚してハネムーン先で、母様に最初に作ってあげた料理でもあるんだって」
「くっ。追加エピソードまでモテ男のできる男エピソードか!」
「惚れるわ……新婚早々に朝これを作ってくれる旦那とか惚れ直すしかない……」
「フフフ」

 おうちでは、たまにパパのメガエリスがこれを作ってくれるたび、ルシウスもお兄ちゃんのカイルもパパが大好きになったものだ。
 元から好きだけどもっと大好き。

 感謝の言葉とともに大好きと伝えると、食卓でパパの青銀のお髭のお顔が、半熟の黄身よりゆるんゆるんに蕩けて、目元をピンクに染めていたものである。

 ルシウスのおうちは伯爵の位を持つ貴族の家だから当然料理人がいるわけで、パパが料理することは名物料理のサーモンパイを客人に饗するとき以外は滅多にない。
 レアだからこそ、たまに作ってくれるこういうシンプルな料理に特別感があってルシウスは好きだった。

「この上にスモークサーモンとかのっけても美味しいよ」
「更に幸福の上乗せきた!」

「もちろん、カリカリに焼いたベーコンなんかも」
「「間違いないやつ!」」



 食後はありがとうの言葉とともに、男たちがルシウスにミルクたっぷりのカフェオレを入れてくれた。

 さあ、今日はどんなお魚さんモンスターがやってくるものやら。




--


ウインドウトースト
後は切り取った窓部分のパンをそっとのっけて両面焼く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遺跡に置き去りにされた奴隷、最強SSS級冒険者へ至る

柚木
ファンタジー
 幼い頃から奴隷として伯爵家に仕える、心優しい青年レイン。神獣の世話や、毒味役、与えられる日々の仕事を懸命にこなしていた。  ある時、伯爵家の息子と護衛の冒険者と共に遺跡へ魔物討伐に出掛ける。  そこで待ち受ける裏切り、絶望ーー。遺跡へ置き去りにされたレインが死に物狂いで辿り着いたのは、古びた洋館だった。  虐げられ無力だった青年が美しくも残酷な世界で最強の頂へ登る、異世界ダークファンタジー。  ※最強は20話以降・それまで胸糞、鬱注意  !6月3日に新四章の差し込みと、以降のお話の微修正のため工事を行いました。ご迷惑をお掛け致しました。おおよそのあらすじに変更はありません。  

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

真義あさひ
ファンタジー
俺、会社員の御米田ユウキは、ライバルに社内コンペの優勝も彼女も奪われ人生に絶望した。 夕焼けの歩道橋の上から道路に飛び降りかけたとき、田舎のばあちゃんからスマホに電話が入る。 「ユキちゃん? たまには帰(けぇ)ってこい?」 久しぶりに聞いたばあちゃんの優しい声に泣きそうになった。思えばもう何年田舎に帰ってなかったか…… それから会社を辞めて田舎の村役場のバイトになった。給料は安いが空気は良いし野菜も米も美味いし温泉もある。そもそも限界集落で無駄使いできる場所も遊ぶ場所もなく住人はご老人ばかり。 「あとは嫁さんさえ見つかればなあ~ここじゃ無理かなあ~」 村営温泉に入って退勤しようとしたとき、ひなびた村を光の魔法陣が包み込み、村はまるごと異世界へと転移した―― 🍙🍙🍙🍙🍙🌾♨️🐟 ラノベ好きもラノベを知らないご年配の方々でも楽しめる異世界ものを考えて……なぜ……こうなった……みたいなお話。 ※この物語はフィクションです。特に村関係にモデルは一切ありません ※他サイトでも併載中

処理中です...