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ルシウス君、覚醒編
サブギルマス、カレイド王国の女王様とのエピソード
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「そういえばさ。シルヴィスさんて、何でおじさんって言われるのイヤなの? そんなの気にするタイプじゃないでしょ」
今のところ、明日にギルドマスターのカラドンに報告して判断を任せるまで、ルシウスもシルヴィスにもできることがない。
あとは何となくお茶を飲み終わるまで雑談していた。
それでふと、それまで気になっていたことを良い機会だからと訊ねてみた。
シルヴィスは灰色の髪と瞳の、いつも穏やかで落ち着いた男性だが、若手の冒険者たちなどから“おじさん”や“おっさん”呼ばわりされると、有無を言わせない圧のある笑顔で「お兄さんです」と訂正をかけてくるのだ。
実際、ルシウスもここココ村支部に来た最初の頃に食らっている。
年齢はまだ32歳。確かに、おじさん呼ばわりされるには少し早いかもしれないけれど。
「ああ、それは……まあくだらない理由なんですけどね」
過去を思い出すような目で、シルヴィスが苦笑している。
何でも、故郷で遠縁の少女に告白されたとき、「こんなおじさんじゃなくて、歳の近い子にしておきなさい」と断ったことがあるらしい。
当時まだ18歳くらいの頃のことで、相手の少女とは8歳ほどの年齢差があった。
「『シルヴィスならおじさんになっても素敵だと思うわ』と言ってくれたのが存外に嬉しかったんですよねえ」
それで余計な矜持と自分でもわかっているのだが、いつまでも若々しい「お兄さん」でいることに今でもこだわっているとのこと。
「シルヴィスさんはカレイド王国の出身だって聞いたよ。帰ってその女の子と一緒になったりしないの?」
「私が故郷を出奔したのは、王位継承争いに巻き込まれるのが嫌だったからなんだ。その女の子というのが今の女王でね。あのまま国に残っていたら、本当に私と結婚させられてしまっていたから」
貴族出身とは聞いていたが、王位継承争い云々というならば、故国では相当に身分の高い貴族だったようだ。
「? その女の子に告白されてたんでしょ? 相手からしたら望むところじゃなかったの?」
「彼女には同い年の幼馴染みがいて、本当に好きだったのはその男の子だったんですよ」
「当て馬にされたくなかったんだね……」
「大人しく身を引いてあげたと言ってください」
カレイド王国もいろいろあったようだ。
「あと、私は魔族の末裔でね。カレイド王国は多種族国家だけど、魔族は魔物の仲間だという迷信で迫害されることがあって。故郷にいたときは神殿に所属してたから安穏と暮らしていられたけど、さすがに女王の伴侶候補にされたら詳しい身上調査が入るから……」
「あはは、僕の“魔人族”も似たような感じ。僕が生まれた頃には迫害が始まってて、ついには勇者とガチンコバトルだよ。偏見ってひどいよね」
邪悪な存在というわけではないのに、“魔”が付くという理由だけで、勝手に周囲が邪推して迫害してくる。
この円環大陸の古代の歴史の暗い部分のひとつだ。
今では魔族も魔人族も、種族の上位種ハイヒューマンたちは世界中から姿を消して、大陸の中央にある神秘の国、永遠の国と呼ばれるところに少数が集まっているとされる。
永遠の国は小さな小島のような国だが、周囲を湖に囲まれていて人力では簡単に辿り着けない。
案外、隔絶された場所でハイヒューマンたちは自分たちの身を守っているのかも知れなかった。
一般には、各種ギルドや神殿、教会の本部がある、真の円環大陸の支配者たちの国として知られているのだが。
「あれ? 今のカレイド王国の女王様って……あ、グレイシア王女様のマブダチだ!」
「そう、幼い頃からアケロニア王国の王女様とよく文通してましたね。マーゴット女王陛下です」
確か、同い年で次期女王という立場も共通なことから、とても仲が良いと聞いたことがある。
「何年か前、その女王様の即位式に参列するのにプンプンしながらヴァシレウス様と出立して、やっぱりプンプンしながら帰ってきたよ」
「ああ、ならまだ喧嘩続行中かもしれません」
そう、少し仲違いをしてしまっていて、そのせいでアケロニア王国とカレイド王国は関係が微妙になっている。
「もっと前には、アケロニア王国に短期留学していたこともあるはずです。ルシウス君はお会いしたことは?」
「あるある。ビックリするぐらい綺麗な赤毛のお姉さんだったよね」
パパにくっついて王宮まで遊びに行ったとき、グレイシア王女様から親友だと言って紹介された覚えがある。
「そう。本当に燃える炎の色のおぐしと、ネオングリーンの瞳で。あの色はカレイド王国の始祖のハイエルフと、中興の祖の勇者が持っていた色なんですよ」
受け継いだ血、あるいは因子が濃いほど、同じ色を持って生まれる。
その辺りはルシウスのリースト伯爵家や、それこそアケロニア王族の皆さんも同じだ。
「そのうち、またカレイド王国に帰ったりするの?」
「そうですね……。ここココ村支部を立て直して、その業績が認められれば希望して、カレイド王国の支部に移動できるかもしれません」
この感じなら、望郷の念はそれなりにあるようだ。
「アケロニア王国の僕んちの領地にも冒険者ギルド、あるよ。気が向いたらこっちにも来てね」
「ええ。アケロニア王国内の支部は人気ですから、機会があれば一度は赴任してみたいと思ってました」
「でしょ?」
これで本当に何年か後に再会できたら面白そうだ。
ちょうどお互いお茶も飲み終わったところで、おやすみを言い合って解散することにした。
--
※このマーゴット女王とシルヴィスのロマンスは「夢見の女王」にて。まだ若い頃のシルヴィスがなかなか……
今のところ、明日にギルドマスターのカラドンに報告して判断を任せるまで、ルシウスもシルヴィスにもできることがない。
あとは何となくお茶を飲み終わるまで雑談していた。
それでふと、それまで気になっていたことを良い機会だからと訊ねてみた。
シルヴィスは灰色の髪と瞳の、いつも穏やかで落ち着いた男性だが、若手の冒険者たちなどから“おじさん”や“おっさん”呼ばわりされると、有無を言わせない圧のある笑顔で「お兄さんです」と訂正をかけてくるのだ。
実際、ルシウスもここココ村支部に来た最初の頃に食らっている。
年齢はまだ32歳。確かに、おじさん呼ばわりされるには少し早いかもしれないけれど。
「ああ、それは……まあくだらない理由なんですけどね」
過去を思い出すような目で、シルヴィスが苦笑している。
何でも、故郷で遠縁の少女に告白されたとき、「こんなおじさんじゃなくて、歳の近い子にしておきなさい」と断ったことがあるらしい。
当時まだ18歳くらいの頃のことで、相手の少女とは8歳ほどの年齢差があった。
「『シルヴィスならおじさんになっても素敵だと思うわ』と言ってくれたのが存外に嬉しかったんですよねえ」
それで余計な矜持と自分でもわかっているのだが、いつまでも若々しい「お兄さん」でいることに今でもこだわっているとのこと。
「シルヴィスさんはカレイド王国の出身だって聞いたよ。帰ってその女の子と一緒になったりしないの?」
「私が故郷を出奔したのは、王位継承争いに巻き込まれるのが嫌だったからなんだ。その女の子というのが今の女王でね。あのまま国に残っていたら、本当に私と結婚させられてしまっていたから」
貴族出身とは聞いていたが、王位継承争い云々というならば、故国では相当に身分の高い貴族だったようだ。
「? その女の子に告白されてたんでしょ? 相手からしたら望むところじゃなかったの?」
「彼女には同い年の幼馴染みがいて、本当に好きだったのはその男の子だったんですよ」
「当て馬にされたくなかったんだね……」
「大人しく身を引いてあげたと言ってください」
カレイド王国もいろいろあったようだ。
「あと、私は魔族の末裔でね。カレイド王国は多種族国家だけど、魔族は魔物の仲間だという迷信で迫害されることがあって。故郷にいたときは神殿に所属してたから安穏と暮らしていられたけど、さすがに女王の伴侶候補にされたら詳しい身上調査が入るから……」
「あはは、僕の“魔人族”も似たような感じ。僕が生まれた頃には迫害が始まってて、ついには勇者とガチンコバトルだよ。偏見ってひどいよね」
邪悪な存在というわけではないのに、“魔”が付くという理由だけで、勝手に周囲が邪推して迫害してくる。
この円環大陸の古代の歴史の暗い部分のひとつだ。
今では魔族も魔人族も、種族の上位種ハイヒューマンたちは世界中から姿を消して、大陸の中央にある神秘の国、永遠の国と呼ばれるところに少数が集まっているとされる。
永遠の国は小さな小島のような国だが、周囲を湖に囲まれていて人力では簡単に辿り着けない。
案外、隔絶された場所でハイヒューマンたちは自分たちの身を守っているのかも知れなかった。
一般には、各種ギルドや神殿、教会の本部がある、真の円環大陸の支配者たちの国として知られているのだが。
「あれ? 今のカレイド王国の女王様って……あ、グレイシア王女様のマブダチだ!」
「そう、幼い頃からアケロニア王国の王女様とよく文通してましたね。マーゴット女王陛下です」
確か、同い年で次期女王という立場も共通なことから、とても仲が良いと聞いたことがある。
「何年か前、その女王様の即位式に参列するのにプンプンしながらヴァシレウス様と出立して、やっぱりプンプンしながら帰ってきたよ」
「ああ、ならまだ喧嘩続行中かもしれません」
そう、少し仲違いをしてしまっていて、そのせいでアケロニア王国とカレイド王国は関係が微妙になっている。
「もっと前には、アケロニア王国に短期留学していたこともあるはずです。ルシウス君はお会いしたことは?」
「あるある。ビックリするぐらい綺麗な赤毛のお姉さんだったよね」
パパにくっついて王宮まで遊びに行ったとき、グレイシア王女様から親友だと言って紹介された覚えがある。
「そう。本当に燃える炎の色のおぐしと、ネオングリーンの瞳で。あの色はカレイド王国の始祖のハイエルフと、中興の祖の勇者が持っていた色なんですよ」
受け継いだ血、あるいは因子が濃いほど、同じ色を持って生まれる。
その辺りはルシウスのリースト伯爵家や、それこそアケロニア王族の皆さんも同じだ。
「そのうち、またカレイド王国に帰ったりするの?」
「そうですね……。ここココ村支部を立て直して、その業績が認められれば希望して、カレイド王国の支部に移動できるかもしれません」
この感じなら、望郷の念はそれなりにあるようだ。
「アケロニア王国の僕んちの領地にも冒険者ギルド、あるよ。気が向いたらこっちにも来てね」
「ええ。アケロニア王国内の支部は人気ですから、機会があれば一度は赴任してみたいと思ってました」
「でしょ?」
これで本当に何年か後に再会できたら面白そうだ。
ちょうどお互いお茶も飲み終わったところで、おやすみを言い合って解散することにした。
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※このマーゴット女王とシルヴィスのロマンスは「夢見の女王」にて。まだ若い頃のシルヴィスがなかなか……
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