家出少年ルシウスNEXT

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
90 / 216
ルシウス君、覚醒編

お昼ごはん作ります

しおりを挟む
 頭を落としたデビルズサーモンはそのまま厨房へ運び込む前に、まずは下処理をするためルシウスはギルドの建物隣の解体場へと入っていった。

「デビルズサーモン、皮おいしくないんだよね。骨も硬いから全部取らないと」

 素早く魔法樹脂で使い慣れた鮭切り包丁を創り、作業台の上のデビルズサーモンをさーっとお腹から切り開き、内臓や魚卵は廃棄。身は手早く三枚おろしにしていく。
 そこから皮側を更に半分におろして五枚おろしだ。
 食用に向かない皮はべりっと全部剥がしてしまう。
 ふつうのお魚さんなら小骨でも、巨体のデビルズサーモンの場合はひとつひとつが結構大きい。それも全部ペンチで引っこ抜いた。

「“物品鑑定”! ……うん、変な寄生虫や病気はいないね。加熱するなら問題なし!」

 五枚おろしたうち、食べやすそうな一枚を魔法樹脂のトレイに載せ、残りは氷魔法を付与した魔法樹脂の中に封入しておいた。
 こうして冷凍しておけば、解凍した後は生食も可能になる。



「デビルズサーモンで何作るんです?」
「ベイクドサーモン!」

 カウンター席に座って、受付嬢のクレアがワクワクした顔で厨房を覗いてくる。
 その隣には女魔法使いのハスミンが。
 調理スキルもないし、一般的な料理もそれほど得意ではないふたりだったが、手伝えないなりに見守り隊となった。
 出来上がった後、料理の配膳だけでも手伝うつもりでいる。

 カウンター席からは厨房の作業台やコンロなど調理するところを見ることができる。
 作業台は大人向けの高さなので、まだ小柄な子供のルシウスにはかなり高い。
 本人、自前の魔法樹脂でブーツの底上げをして対応したようだ。厨房で動くたびにカツカツと樹脂が床に当たる音が鳴っている。

 作業台のまな板でデビルズサーモンのサーモンピンクの巨大な身を一人前ずつカットして、バットに並べている。
 カットは分厚めだ。何せデビルズサーモンは巨大なお魚さんで、可食部はたんまりある。食い放題!

 全体に軽く塩を振って余計な水分を抜いている間にお野菜の下ごしらえだ。
 魔力を使ってじゃがいもの皮をするする大量に剥いていく。

「え? え? それどうやって剥いてるんです!?」
「魔力を皮の数ミリ下に流すんだよ。じゃがいもの形に合わせて。これは僕の兄さんの得意技」

 ごつごつした形のじゃがいもを手に取り、数秒ルシウスがその湖面の水色の瞳で見つめると、するっと服を脱ぐように皮だけが取れる。

 ブロッコリーは小房に。インゲンはこの地域のものは特に筋などもないのでカットせずそのまま茹でる。

「付け合わせに茹でたじゃがいも、インゲン、ブロッコリーってどうですかー?」
「「いいと思いまーす!」」

 大きめの鍋に沸かした湯で野菜類を時間差で茹でていく。

 そろそろご飯も炊けるので混ぜ込み用のワカメもカットしておかねば。
 さささっと水洗いした塩蔵ワカメを細かくみじん切りしてボウルへ。

 程よく水分が浮き出てきたデビルズサーモンはペーパーで表面を拭き取ってから、ブラックペッパーをミルでガリゴリ削って振りかける。
 熱したフライパンに多めのバターを溶かして、そーっと身を入れていく。
 あとは中火で、溶けたバターを大きめのスプーンでサーモンに回しかけながら焼いていく。

 途中でみじん切りにしたニンニクをフライパンに投入。
 ぶわーっと広がるバターとニンニクの匂いに、クレアとハスミン、それに食堂で待機している冒険者たちからも歓声が上がった。

「ニンニク入れちゃったけど臭いとか大丈夫?」
「大丈夫です! 口内清浄剤ばっちり持参してますから!」
「そっかあ」

 口内清浄剤とは、小型の携帯缶に入ったミント味のタブレットのことだ。
 魔法薬の一種で、食後に一粒口に含めば、本人の魔力と反応して口の中全体を清浄に保ってくれる。うがいや歯磨きの代わりになる。
 何日もダンジョン探索にこもる冒険者活動ではうがいや歯磨きに水を使えないことも多いので、こちらを使う者が多い。

 フライパンの中で身を引っくり返してまたバターを回しかけながら焼いていく。



「あー! お鍋持てない! ヘルプ! 男の人ヘルプー!」

 野菜を茹でていた鍋はルシウスの胴体より大きかった。身体強化で重いフライパンは使えても、自分の身体に余る大きさの鍋を持つのは難しい。

 慌てて冒険者の男たちに助けてもらったりしながら、何とかお昼ごはんは完成したのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...