家出少年ルシウスNEXT

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
70 / 216
ルシウス君、覚醒編

詰んでませんかタイアド王国

しおりを挟む
「で、そのクラウディア王女様が二番目に産んだ王子が臣籍降下して公爵になった。その娘さんが、今回王太子に婚約破棄された公爵令嬢ね。うちの国のヴァシレウス大王様のひ孫様だよ」

 名前はセシリア。
 まだ16歳ピチピチのご令嬢だ。
 ヴァシレウス大王などアケロニア王族は黒髪黒目で知られている。
 だが彼女はタイアド王家の血のほうが強く出た容姿らしく、金髪碧眼でやや垂れ目の愛らしい少女と伝わっている。



 ところで、アケロニア王国から娶ったクラウディア王女を早死にさせた後のタイアド王国はどうなったのか。

 さすがに、13歳の少女を犯し孕ませる王太子のいるタイアド王国の評判は、国際社会で落ちまくった。
 タイアド王国側も隠していたそうだが、こういう話はどこからか漏れていくものだ。
 もちろんアケロニア王国が密かに各国上層部に広めさせたからだ。

 そのせいで、タイアド王家は他国の有力な王侯貴族との新たな婚姻を、クラウディア王女以降まったく結べていない。
 国内でもせいぜい伯爵家以下の家格の子息子女との縁を結ぶのが精一杯な時期が続く。

 するとどうなるか。
 王家の力が衰える。

「ふーん。ヴァシレウス大王はそうやって王女様の復讐を進めていったのねえ」
「そうだよ。退位して息子のテオドロス様に国王の座を譲ってもまだ続けてると思う。もちろんテオドロス様も、その娘のグレイシア様もね」

 こんな話、世間話で聞いちゃっていいのかな? と女魔法使いのハスミンもギルマスたちも料理人のオヤジさんも冒険者たちも、内心冷や汗ものだった。
 だがルシウスの様子を見ている限り、まだ子供のこの子が知ってる程度のことなら問題ないのだろう。



 それでも、タイアド王国がクラウディア王女との間に生まれた第一王子を王太子にしていればまだ挽回はできたはずだった。
 アケロニア王国のヴァシレウス大王にとって孫にあたる王子だ。

 ところが何とも愚かなことに、その正妃クラウディアとの間の第一王子は、後に臣籍降下させられている。
 後継者には王妃だったクラウディア王女とは別の寵愛する側室との間に生まれた第二王子が指名されている。

 この時点で、アケロニア王国のヴァシレウス大王はタイアド王国を見限った。
 実の孫の、臣籍降下させられた元第一王子の公爵の家族だけを支援し続けて、王家とは限りなく断絶に近い状態が現在まで続いている。

「普通はね、そういうことやらないよね。何のために同盟を結ぶためアケロニア王国の大事な王女様を娶ったんだよっていう」
「しかも、アケロニアのクラウディア王女が産んだのは第一王子でしょう? 正妃との間の第一子を王太子にせず臣籍降下させるとは……ちょっと考えられないことです」

 サブギルマスのシルヴィスも眉を顰めている。
 たとえ不仲な夫婦だったとしても、政治上やってはならない判断だ。

「今回は大丈夫なのか? アケロニア王国、タイアド王国に攻め入り案件じゃね?」

 ギルマスのカラドンも髭を弄りながら難しい顔になっている。
 そもそも、アケロニア王国からタイアドと緊張関係にあって騎士の派遣が難しいので、代わりに寄越されてきたのがこの聖剣持ちのお子様なのだ。

「ヴァシレウス様はもうお年だし、今さら戦争ってことはないと思うけど。ヤバいのはお孫様のグレイシア王女様だね。血の気が多いから、喜んで喧嘩を買うと思うよ」

 グレイシア王女様は子供の頃から、自分が生まれるずっと前に亡くなってしまった、悲劇の伯母クラウディア王女のことを教えられて育っている。
 女性だから剣はさすがに握らせてもらえなかったそうだが、彼女は代わりに護身術と徒手空拳の拳闘術を身につけていて、なかなか強い。
 彼女の夫は夫婦喧嘩のとき、妻がファイティングポーズを取ったら即降参すると決めているそうな。

 王族は皆、次にタイアド王国がやらかしたらもう容赦しないと決めている。
 そうルシウスは聞かされていた。

「そっか、お前んとこの王女様と、タイアドで婚約破棄された公爵令嬢は親戚同士か!」
「そういうこと。またいとこだね」



 新聞には、アケロニア王国とタイアド王国の緊張状態が特集されていたが、具体的にすぐ戦争どうの、という話までにはなっていなかった。

「戦争やるのかな……もし開戦したらヴァシレウス様、“大王”の称号を返上しなきゃだ。でも、そこまでの覚悟があるとしたら……」

 これ以上のことはルシウスにもわからなかった。
 大人たちはあれこれ意見交換していたが、ルシウスはその中にあまり入れない。

 まだ子供の学生だ。知識も経験も足りなすぎた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...