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ルシウス君、覚醒編
タイアド王国〜同盟国とは名ばかりの敵性国家です
しおりを挟むここ最近、ギルドに配達されてくるゼクセリア共和国のメジャー新聞では、タイアド王国が混乱しているとたびたび特集が組まれている。
タイアド王国はルシウスの故郷アケロニア王国と同じ円環大陸の北西部にある。
間に小国があるからお隣さんではないが、王族同士が縁戚にあるので、ふたつの国は同盟国となっている。
ギルマスのカラドンたちが目を通した後の新聞は食堂に置かれるので、冒険者たちも暇なとき眺めている者が多かった。
「よっしゃ、一稼ぎしてくるか!」
国が混乱しているときは、かえって高額報酬の依頼が増えるものだ。
王侯貴族など社会の上層部からの護衛依頼が増える時期でもある。
混乱に乗じてハイクラスの人々を害そうとする輩が増えるためだ。
「おじさんたち。行かないほうがいいよ」
食堂で配膳の手伝いをしていたルシウスが、横から口を挟んだ。
「行かないほうがいい。タイアドはあまり良い国じゃないしね」
そうルシウスがルシウスが忠告したのは、七人の冒険者パーティーに対してだった。
だがパーティーはあっさりスルーすると、こうしちゃいられないとばかりにココ村支部を出ていくのだった。
「……僕はちゃんと忠告したからね」
小さく呟くルシウスの小柄な背が、ちょっとだけしょんぼりと更に小さく見える。
テーブル席で午後の紅茶を楽しんでいた女魔法使いのハスミンは、魔女らしい黒い先折れ帽子のつばを弄りながら、そんな光景を見ていた。
「“忠告”かあ。うーん、ルシウス君ってやっぱり……」
可憐な美少女のような顔に憂いをのせて、水色の瞳を翳らせていた。
ランチタイムも終わり、給仕の仕事を手伝っていたルシウスも遅い昼食だ。
今日のランチはマグロのオイル漬けツナを使った焼き飯と海藻とタコのマリネ、それにいつものワカメスープである。
このツナもルシウスはココ村支部に来てから初めて食したのだが、噛み締めるとじゅわっと炊き込まれたスープとオイル、魚の旨味が溢れてきて美味い。
夕食だとこれを使ったグラタンをたまに料理人のオヤジさんが作ってくれるのがルシウスの楽しみだった。
あと軽食用にほぐし身をマヨネーズや玉ねぎのみじん切り、パセリなどのハーブと和えたものを挟んだツナサンドは絶品だ。
簡単にマヨネーズと和えただけのほぐし身を入れて握った例の黒い塊、“おにぎり”にしても美味い。ぺろりと五個はいけてしまう。
大盛りにしてもらった焼き飯定食をモリモリ食べ終わり、食後のお茶を貰って、冒険者たちが読んでいた新聞に目を通す。
「タイアド王国、ねえ」
見出しによると、故郷アケロニア王国と同じ、円環大陸の北西部にあるタイアド王国では今、大問題が発生しているそうな。
王太子が、婚約者だった公爵令嬢と婚約破棄して、まさかの男爵令嬢と結婚すると宣言したらしい。
「あれ? タイアド王国の王太子の婚約者ってたしか……」
確かグレイシア王女様のおじい様、先王ヴァシレウス大王の最初の王女様が何十年も前にタイアド王国に輿入れしていたはずだ。
今の王太子は、その王女様とは別の側室との孫。
王女様の孫の公爵令嬢は、その王太子の従兄弟で婚約者だったはず。
「お、詳しいこと知ってるのか? ルシウス」
「オヤジさん。知ってるけど、あんまり気分のいい話じゃないよ」
厨房の片付けを終えて、自分も遅い昼食の料理人のオヤジさんが横から新聞を覗き込んできた。
「タイアド王国のこと何か知ってんのか?」
「そりゃね。うちの国と因縁のある国だから」
事務処理に一息ついたのか、ギルマスたちもお茶を飲みに食堂へやってきた。
気づくと時刻は午後の二時だ。
魔物の襲来がないと暇を持て余すのが、ここ冒険者ギルドココ村支部。
ギルマスのカラドンや料理人のオヤジさん、他の冒険者たちに促されて、ルシウスは概要を話すことにした。
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