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【家出少年ルシウスNEXT】ルシウス君、冒険者になる
side 少年の心を失わない男たち in アケロニア王国
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「ごめんくださーい! 我が愛しの息子ルシウスからの討伐品、献上しに参りましたーあ!」
さすがにこう続くと、門番も慣れる。
馬車の荷台に詰んだ麻布に包まれた巨大な荷物をちらりと見て、門番たちは目配せし合った。
「今回は何をお持ちになられたのですか。リースト伯爵閣下」
「ルアーロブスターである」
「……中を検めてもよろしいですか?」
「うむ、存分にするがよい!」
それで恐る恐る麻布を端からめくってみると、そこには二つの大きなハサミを持った真っ青なロブスターが。
しかもまた何か脚生えてるし。たくさん。
「これは危険度的にはどうなのですか?」
「そりゃ危険だろ。魔物なんだし」
でもうちの息子、これ十何体も倒したんだぜイェーイ! とばかりに、リースト伯爵メガエリスは白い軍服の胸を張った。
青銀の髪とお揃いの色をした髭のジジイだが、妙にその仕草が子供っぽく可愛いらしい。
少年の心をお持ちのままお年を召されたお方と、好意的なのだか悪意があるのだかわからない囁きとともに社交界の貴婦人たちに秋波を送られるメガエリスだ。
しかし本人の愛は亡き妻と息子二人の上に注がれているので他に向ける余地などない。
その日、王宮では例のタイアド王国の暴挙への対応で、国王らを含めた上層部の会議で紛糾していた。
午前中から会議に入り、昼食に休憩一時間だけ何とか確保してまた午後に会議の続き。
もう夕方になると全員へろへろに疲弊していたが、結局戦争するのしないのと結論が出ないまま散会となってしまった。
「さすがに疲れたな……」
「父上、それでしたらお夕飯の前に入浴されてはどうですか。その後指圧でも受けると良いのでは」
「そうだな……」
と首をゴキゴキ回す国王テオドロスと、その娘の王女グレイシアが並んで回廊を歩き、その後ろに息子と孫娘を見守るように巨体の先王ヴァシレウスが続いていた。
全員、黒い軍服姿で、髪も瞳も真っ黒だからそこの空間だけ王宮内で目立つこと目立つこと。
「おお! 王族の皆様、こちらでしたか!」
と、中庭を通りかかろうとしたとき、こちらは青銀の髪と髭、湖面の水色の瞳、家の軍服は白と、全体的に薄味明るめカラーのメガエリスが満面の笑顔で手を振ってきた。
「め、メガエリス。それはいったい……?」
メガエリスの背後にあった魔法樹脂の中身を指差して、グレイシア王女様がドン引きしている。
何だそのムカデみたいに人間の短い脚たくさん生えたやつ。
「ザリガニか! 父上、ザリガニですよ、懐かしいですねザリガニ! なんか青いけど! 変な脚あるけど!」
「いや、これはブルールアーロブスターといって……」
真っ青なロブスターの魔物を目にした途端、疲労でしょぼしょぼしていた国王テオドロスがシャキッと生き返った。
つい先ほどまで首をゴリゴリ回して、眉間の辺りを指で解していた人物と同じとは思えないほど、目に生気が溢れている。
「ザリガニ……おお、あれか! 確か別荘地の池で釣ったな、ザリガニ!」
「はい! 村長宅から餌を分けてもらって、木の棒に吊るして釣ったあれです!」
「いや、これはザリガニじゃなくてロブスター……」
メガエリスの突っ込みも耳に入らないぐらい、国王様と先王様親子が昔の思い出で盛り上がっている。
むしろ童心に返っている。
ザリガニ釣り楽しかったよねと、周囲の男性諸氏も自分たちの子供時代を思い返してほっこりしていると。
「これはまたルシウスが送ってきたやつか?」
「はい、グレイシア様。めちゃウマだそうで、献上に参りました。うちの息子夫婦にちょっとだけ持ち帰りますがの」
ちなみにこのルアーロブスター、ココ村支部の料理人のオヤジさんのオススメレシピも付属していて、ついでに別の魔法樹脂の塊には食用ウニが数十個詰まっていた。
「蒸し焼き、チーズ焼き、チリソースがけ、あとウニソースがけが絶品とかで」
「またタコのときみたいに大味じゃないのか?」
「それが、こいつは身も味噌も、通常サイズのロブスターより味が濃いそうで。下手な海老やカニより美味いらしいですぞ」
「……いいなあ。今宵の夕餉に出してもらおう」
だがその前に、きゅっと〆ねばならない。
「メガエリス! こいつもまだ生きておるのだろう? 討伐方法は何だ?」
「おや、テオドロス様がおやりになるので? お珍しい」
えーと、とメガエリスは息子ルシウスからの手紙を懐から出して確認した。
「ルアーロブスターはその名の通り、誘惑や魅了スキルを持った海の魔物だそうです。二つの大きなハサミに捕まるとその時点で誘惑スキルにかけられてしまい、そのまま逃げられないと頭から丸齧りだそうで」
「ふむふむ」
「弱点は両目の間だそうで。そこを剣や槍で突き刺せば魔石になるとのこと。食用にしたい場合は、両方のハサミを根本から切り落とせば良いようです」
「了解した! よーし! 行くぞ! メガエリス、魔法樹脂を解いてくれ!」
「えっ!? ……あ、はい、どうぞ」
国王テオドロスに言われるままに魔法樹脂を解く。
テオドロスは傍らの騎士から受け取った大剣を引き抜くと、ギーギーギーと軋むような鳴き声をあげるルアーロブスターに向けて剣先を定めた。
しばし睨み合うテオドロスとルアーロブスター。
先に動き出して迫り来るルアーロブスターに国王テオドロスが下から大剣を振り上げる。
「せやっ!」
ざくっ、ざくっ
上手くハサミの根元の関節の柔らかいところに剣を入れて、あっさりと弱点を2本斬り落とした。
ルアーロブスターはひっくり返ってしばらく脚をばたばた蠢かせていたが、すぐに動かなくなった。
「お見事、テオドロス様!」
パチパチとメガエリスや見物していた王宮勤めの皆さんたちから拍手が湧き起こった。
王族は先王ヴァシレウスはバックラーもどきで敵を粉砕、王女グレイシアは徒手空拳でぶん殴るのが好き。
そしてこの国王テオドロスは大剣派。
派手な先王と王女に挟まれて目立たないが、身体強化術なしで大剣をぶん回せる程度には身体を鍛えている。
さあ今宵はロブスターで飲もう。
ちなみにたくさん生えていた短い人間の脚は、切り落としたらその場でふつうの甲殻類の脚に変わった。
デビルズサーモンやポイズンオイスターとよく似た現象だ。
この『人間の脚が生える』現象の原因を、解析を任されたメガエリスの長男カイルは早々に掴んだようで、いま解析結果をまとめている最中のようだった。
上手くいけば、次男ルシウスの早めの帰還に繋がるかもしれない。
さすがにこう続くと、門番も慣れる。
馬車の荷台に詰んだ麻布に包まれた巨大な荷物をちらりと見て、門番たちは目配せし合った。
「今回は何をお持ちになられたのですか。リースト伯爵閣下」
「ルアーロブスターである」
「……中を検めてもよろしいですか?」
「うむ、存分にするがよい!」
それで恐る恐る麻布を端からめくってみると、そこには二つの大きなハサミを持った真っ青なロブスターが。
しかもまた何か脚生えてるし。たくさん。
「これは危険度的にはどうなのですか?」
「そりゃ危険だろ。魔物なんだし」
でもうちの息子、これ十何体も倒したんだぜイェーイ! とばかりに、リースト伯爵メガエリスは白い軍服の胸を張った。
青銀の髪とお揃いの色をした髭のジジイだが、妙にその仕草が子供っぽく可愛いらしい。
少年の心をお持ちのままお年を召されたお方と、好意的なのだか悪意があるのだかわからない囁きとともに社交界の貴婦人たちに秋波を送られるメガエリスだ。
しかし本人の愛は亡き妻と息子二人の上に注がれているので他に向ける余地などない。
その日、王宮では例のタイアド王国の暴挙への対応で、国王らを含めた上層部の会議で紛糾していた。
午前中から会議に入り、昼食に休憩一時間だけ何とか確保してまた午後に会議の続き。
もう夕方になると全員へろへろに疲弊していたが、結局戦争するのしないのと結論が出ないまま散会となってしまった。
「さすがに疲れたな……」
「父上、それでしたらお夕飯の前に入浴されてはどうですか。その後指圧でも受けると良いのでは」
「そうだな……」
と首をゴキゴキ回す国王テオドロスと、その娘の王女グレイシアが並んで回廊を歩き、その後ろに息子と孫娘を見守るように巨体の先王ヴァシレウスが続いていた。
全員、黒い軍服姿で、髪も瞳も真っ黒だからそこの空間だけ王宮内で目立つこと目立つこと。
「おお! 王族の皆様、こちらでしたか!」
と、中庭を通りかかろうとしたとき、こちらは青銀の髪と髭、湖面の水色の瞳、家の軍服は白と、全体的に薄味明るめカラーのメガエリスが満面の笑顔で手を振ってきた。
「め、メガエリス。それはいったい……?」
メガエリスの背後にあった魔法樹脂の中身を指差して、グレイシア王女様がドン引きしている。
何だそのムカデみたいに人間の短い脚たくさん生えたやつ。
「ザリガニか! 父上、ザリガニですよ、懐かしいですねザリガニ! なんか青いけど! 変な脚あるけど!」
「いや、これはブルールアーロブスターといって……」
真っ青なロブスターの魔物を目にした途端、疲労でしょぼしょぼしていた国王テオドロスがシャキッと生き返った。
つい先ほどまで首をゴリゴリ回して、眉間の辺りを指で解していた人物と同じとは思えないほど、目に生気が溢れている。
「ザリガニ……おお、あれか! 確か別荘地の池で釣ったな、ザリガニ!」
「はい! 村長宅から餌を分けてもらって、木の棒に吊るして釣ったあれです!」
「いや、これはザリガニじゃなくてロブスター……」
メガエリスの突っ込みも耳に入らないぐらい、国王様と先王様親子が昔の思い出で盛り上がっている。
むしろ童心に返っている。
ザリガニ釣り楽しかったよねと、周囲の男性諸氏も自分たちの子供時代を思い返してほっこりしていると。
「これはまたルシウスが送ってきたやつか?」
「はい、グレイシア様。めちゃウマだそうで、献上に参りました。うちの息子夫婦にちょっとだけ持ち帰りますがの」
ちなみにこのルアーロブスター、ココ村支部の料理人のオヤジさんのオススメレシピも付属していて、ついでに別の魔法樹脂の塊には食用ウニが数十個詰まっていた。
「蒸し焼き、チーズ焼き、チリソースがけ、あとウニソースがけが絶品とかで」
「またタコのときみたいに大味じゃないのか?」
「それが、こいつは身も味噌も、通常サイズのロブスターより味が濃いそうで。下手な海老やカニより美味いらしいですぞ」
「……いいなあ。今宵の夕餉に出してもらおう」
だがその前に、きゅっと〆ねばならない。
「メガエリス! こいつもまだ生きておるのだろう? 討伐方法は何だ?」
「おや、テオドロス様がおやりになるので? お珍しい」
えーと、とメガエリスは息子ルシウスからの手紙を懐から出して確認した。
「ルアーロブスターはその名の通り、誘惑や魅了スキルを持った海の魔物だそうです。二つの大きなハサミに捕まるとその時点で誘惑スキルにかけられてしまい、そのまま逃げられないと頭から丸齧りだそうで」
「ふむふむ」
「弱点は両目の間だそうで。そこを剣や槍で突き刺せば魔石になるとのこと。食用にしたい場合は、両方のハサミを根本から切り落とせば良いようです」
「了解した! よーし! 行くぞ! メガエリス、魔法樹脂を解いてくれ!」
「えっ!? ……あ、はい、どうぞ」
国王テオドロスに言われるままに魔法樹脂を解く。
テオドロスは傍らの騎士から受け取った大剣を引き抜くと、ギーギーギーと軋むような鳴き声をあげるルアーロブスターに向けて剣先を定めた。
しばし睨み合うテオドロスとルアーロブスター。
先に動き出して迫り来るルアーロブスターに国王テオドロスが下から大剣を振り上げる。
「せやっ!」
ざくっ、ざくっ
上手くハサミの根元の関節の柔らかいところに剣を入れて、あっさりと弱点を2本斬り落とした。
ルアーロブスターはひっくり返ってしばらく脚をばたばた蠢かせていたが、すぐに動かなくなった。
「お見事、テオドロス様!」
パチパチとメガエリスや見物していた王宮勤めの皆さんたちから拍手が湧き起こった。
王族は先王ヴァシレウスはバックラーもどきで敵を粉砕、王女グレイシアは徒手空拳でぶん殴るのが好き。
そしてこの国王テオドロスは大剣派。
派手な先王と王女に挟まれて目立たないが、身体強化術なしで大剣をぶん回せる程度には身体を鍛えている。
さあ今宵はロブスターで飲もう。
ちなみにたくさん生えていた短い人間の脚は、切り落としたらその場でふつうの甲殻類の脚に変わった。
デビルズサーモンやポイズンオイスターとよく似た現象だ。
この『人間の脚が生える』現象の原因を、解析を任されたメガエリスの長男カイルは早々に掴んだようで、いま解析結果をまとめている最中のようだった。
上手くいけば、次男ルシウスの早めの帰還に繋がるかもしれない。
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