家出少年ルシウスNEXT

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
39 / 216
【家出少年ルシウスNEXT】ルシウス君、冒険者になる

side 父と先王様と王女様

しおりを挟む
「メガエリス、これはまだ生きているのか?」
「もちろん生きてますとも。でないと食用の鮮度が保てませぬ」

 この国では海は、王都から離れた一部の領地にしかないので、牡蠣を見たことのない者が多い。
 あっても、せいぜい瓶詰めのオイル漬けぐらいのものだ。

「貝の殻の蝶つがい部分を破壊すれば、魔物化する前の牡蠣に戻ると息子の手紙に書かれてありました」
「なに、本当に食すつもりなのか?」

 腕組みして魔法樹脂の中のポイズンオイスターを眺めていた先王ヴァシレウスが驚いている。

「食いますとも。息子は『最高に美味しかった』と書いてますし、上の兄夫婦にも今宵の夕餉に食す予定ですぞ。将来生まれてくる孫のためにも精をつけてもらわねば」

 周囲の魔道騎士の皆さんも興味深げに話を聞いている。
 魔法薬のポーションが身近な彼らにとっても、牡蠣のような強壮作用のある食品は興味がある。



 王女様は側近に何やら武具を倉庫から持ってくるよう指示している。
 そして自分の両拳に鉄板入りの皮の手甲を嵌めていた。

「よし! いつでも良いぞ、メガエリス!」
「いやいや、よしじゃないでしょう、よしじゃ」

 呆れたメガエリスがまず一体目の魔法樹脂を解く。
 やはり、ずべっと短い脚で身体を支えきれず練兵場の地面に倒れたポイズンオイスター。

「ここが蝶つがいですな。この部分を切れば、ほれこのように」

 ナタの形に作ったダイヤモンドの魔法剣で、するっと殻の接合部を切り離した。
 魔力で創る魔法剣は、その鋭さ、バターをすくうナイフの如く。するりんと抵抗なく切れまくるのが特徴である。
 瞬間、パッと光って、ポイズンオイスターは数十個の普通サイズの牡蠣になって地面に落ちる。

「えええ。私がやりたかったのにー」
「殻に毒があるから“ポイズン”オイスターなのです。さすがに王族の方は近寄らぬほうが良い」

 グレイシア王女様は血の気の多い武闘派だ。
 他の王族は身の安全のためステータスを防御に多めに割り振っているのに、彼女はやたらと戦闘力が高い。
 ただし、次期女王ということもあって、実践経験の少なさがネックであり、本人の不満だった。



「見たところ、弱い魔物のようだ。どれ、二体目は私が処理しよう」

 大柄な先王ヴァシレウスが軍服の上着を脱いで、後ろの侍従に放り投げた。
 齢79歳とは思えぬほど鍛えられた厚い筋肉の肉体が現れる。

 中に着ていたシャツを腕まくりして、ムンッと下腹部に力を込め魔力を手の中に集めていくと、魔術で盾の付いた大剣を作り出した。

 本来なら剣の付いた盾は、バックラーという名の防具だ。
 利き腕とは逆の腕に装着する、防御と攻撃を補うための、先に短剣が付属する小型で丸型のものを指す。

 ヴァシレウスの場合、剣の柄を握って盾の表面や側面を使って、ハンマーやメイスのように敵をぶん殴って使える形態に発展させたものを使っている。

 それもうバックラーって言わなくね? と皆思っているが、本人が嬉々として振り回して狩りで獣や魔物を倒すものだから、大人しくお口を閉じている。

「メガエリス、魔法樹脂を解け」
「ヴァシレウス様。あなた様もおやめになったほうがよろしいのでは?」
「まあまあ」

 こうなると先王様も引いてくれない。
 仕方なく、魔法樹脂を解除する。
 地面に落ちたポイズンオイスターは、やはり短い脚で自重を支えきれず突っ伏した。

「蝶つがいは尻のところだな。せーの!」

 バキィッ

 と鉱物質の殻が割れる音がして、ポイズンオイスターは元の普通サイズの牡蠣数十個に戻った。

「おじい様、ずるいです。わたくしだって魔物退治してみたかった」
「さすがに、お前の徒手空拳では無理だ。せめて何か武器を使いなさい」
「はあい……」

 グレイシア王女様は残念そうにしょんぼりしたが、この調子だとまだまだルシウスから海の魔物が送られてきそうである。
 毒のない魔物なら、対戦させてもよいかもしれない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...