39 / 53
熊男の勘違いを正す ※ざまぁ回
しおりを挟む
「王家は、リースト侯爵家を含むリースト一族の貴族家の当主に、一族の者以外が就くことを認めていない」
静まり返った練兵場で、黒髪黒目の王太子ユーグレンが冷静に指摘した。
現時点でリースト家の一族には、上から侯爵位をはじめとして、他に従属爵位として伯爵位ひとつ、子爵位ひとつ、男爵位ふたつを保持している。
すべての家の当主は、リースト家の一族の血を持つ者だけだ。外部からの伴侶や養子が後継者になった例はひとつもない。
「リースト家は特殊な魔力使いの血筋で、血族特有の魔法剣や魔法、魔術をいくつも受け継ぐことから、当主となる者は本家筋の最も魔法剣を多く扱える者と決まっている」
「なっ。で、ですが王太子殿下! 俺とオデットが結婚して子供が生まれれば、それが次のリースト侯爵でしょう!? ならばその子供の父親となる俺がリースト侯爵を名乗っても構わないはずだ!」
ようやく壁にぶつけられた衝撃から立ち直ったサムエルが、ユーグレン王太子に向けて食ってかかった。
「それなのだが。そもそも、前提が間違っている」
溜め息をつくユーグレン王太子。
本当に、まったくこのサムエルという男はわかっていなかったのか、と呆れている。
「ドマ伯爵家の五男サムエルよ。お前はもしや、大きな勘違いをしているのではないだろうか? 今のリースト侯爵は、そこのオデット嬢ではないのだぞ?」
「……は?」
仮にも一国の王太子への反応ではないが、この場は不問だ。
話を続けるのが先である。
「だからオデットとお前がこのまま結婚しても、まず生まれた子供は侯爵令嬢なり令息なりにならない。お前はいったい、何を根拠に自分がリースト侯爵になれると思い込んでいるのだ?」
「へあ!?」
思わず、といったふうにサムエルの口から漏れた声に会場のそこかしこから笑いがこぼれる。
そう、まさにそこからして、おかしいわけだ。
「現リースト侯爵は、ヨシュアといって、先代当主の嫡男で私の……大切な親友だ。そのヨシュアの父方の叔父が以前の伯爵位を継承して、オデットはその叔父御の養女となっている。オデット嬢の今の身分はリースト伯爵令嬢だ」
「そ、それはつまり……?」
「オデット嬢と婚約しているお前が結婚した後は、リースト伯爵令嬢の婿養子の立場になる。次の伯爵位はオデット嬢、オデット嬢が産んだ子供の順で継承されることになる。……理解できただろうか?」
ユーグレン王太子の問いかけに答えたのはサムエルではなく、オデットだ。
「いいえ。婚約は破棄させていただきます。私はドマ伯爵令息サムエル様が私より強いと思ったからこそ婚約していたのであって、それは大きな誤りであったことが今ここで証明されました。これはじゅうぶんな婚約破棄の理由となります」
ちなみに今日の時点で、婚約からは一週間と経っていない。
思っていたよりずっとサムエルが愚かだったから、短期決戦で済んでいた。
「そうですわね。“破壊のオデット”の婿がこれほど弱くてはお話になりませんもの。オーッホホホホ!」
グリンダが嘲笑混じりに追撃した。
豪奢な金の巻き毛の彼女が扇子を顔の近くに持ってきて高笑いすると、実に似合う。そして笑われた側は心が抉られる。
この時点で、ドマ伯爵令息サムエル、その父親ドマ伯爵はもう立場をすっかり失っている。
だが、まだだ。これで終わりではなかった。
静まり返った練兵場で、黒髪黒目の王太子ユーグレンが冷静に指摘した。
現時点でリースト家の一族には、上から侯爵位をはじめとして、他に従属爵位として伯爵位ひとつ、子爵位ひとつ、男爵位ふたつを保持している。
すべての家の当主は、リースト家の一族の血を持つ者だけだ。外部からの伴侶や養子が後継者になった例はひとつもない。
「リースト家は特殊な魔力使いの血筋で、血族特有の魔法剣や魔法、魔術をいくつも受け継ぐことから、当主となる者は本家筋の最も魔法剣を多く扱える者と決まっている」
「なっ。で、ですが王太子殿下! 俺とオデットが結婚して子供が生まれれば、それが次のリースト侯爵でしょう!? ならばその子供の父親となる俺がリースト侯爵を名乗っても構わないはずだ!」
ようやく壁にぶつけられた衝撃から立ち直ったサムエルが、ユーグレン王太子に向けて食ってかかった。
「それなのだが。そもそも、前提が間違っている」
溜め息をつくユーグレン王太子。
本当に、まったくこのサムエルという男はわかっていなかったのか、と呆れている。
「ドマ伯爵家の五男サムエルよ。お前はもしや、大きな勘違いをしているのではないだろうか? 今のリースト侯爵は、そこのオデット嬢ではないのだぞ?」
「……は?」
仮にも一国の王太子への反応ではないが、この場は不問だ。
話を続けるのが先である。
「だからオデットとお前がこのまま結婚しても、まず生まれた子供は侯爵令嬢なり令息なりにならない。お前はいったい、何を根拠に自分がリースト侯爵になれると思い込んでいるのだ?」
「へあ!?」
思わず、といったふうにサムエルの口から漏れた声に会場のそこかしこから笑いがこぼれる。
そう、まさにそこからして、おかしいわけだ。
「現リースト侯爵は、ヨシュアといって、先代当主の嫡男で私の……大切な親友だ。そのヨシュアの父方の叔父が以前の伯爵位を継承して、オデットはその叔父御の養女となっている。オデット嬢の今の身分はリースト伯爵令嬢だ」
「そ、それはつまり……?」
「オデット嬢と婚約しているお前が結婚した後は、リースト伯爵令嬢の婿養子の立場になる。次の伯爵位はオデット嬢、オデット嬢が産んだ子供の順で継承されることになる。……理解できただろうか?」
ユーグレン王太子の問いかけに答えたのはサムエルではなく、オデットだ。
「いいえ。婚約は破棄させていただきます。私はドマ伯爵令息サムエル様が私より強いと思ったからこそ婚約していたのであって、それは大きな誤りであったことが今ここで証明されました。これはじゅうぶんな婚約破棄の理由となります」
ちなみに今日の時点で、婚約からは一週間と経っていない。
思っていたよりずっとサムエルが愚かだったから、短期決戦で済んでいた。
「そうですわね。“破壊のオデット”の婿がこれほど弱くてはお話になりませんもの。オーッホホホホ!」
グリンダが嘲笑混じりに追撃した。
豪奢な金の巻き毛の彼女が扇子を顔の近くに持ってきて高笑いすると、実に似合う。そして笑われた側は心が抉られる。
この時点で、ドマ伯爵令息サムエル、その父親ドマ伯爵はもう立場をすっかり失っている。
だが、まだだ。これで終わりではなかった。
11
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
義母の秘密、ばらしてしまいます!
四季
恋愛
私の母は、私がまだ小さい頃に、病気によって亡くなってしまった。
それによって落ち込んでいた父の前に現れた一人の女性は、父を励まし、いつしか親しくなっていて。気づけば彼女は、私の義母になっていた。
けれど、彼女には、秘密があって……?
失礼な人のことはさすがに許せません
四季
恋愛
「パッとしないなぁ、ははは」
それが、初めて会った時に婚約者が発した言葉。
ただ、婚約者アルタイルの失礼な発言はそれだけでは終わらず、まだまだ続いていって……。
勇者惨敗は私(鍛冶師)の責任だからクビって本気!? ~サービス残業、休日出勤、日々のパワハラに耐え続けて限界! もう自分の鍛冶屋を始めます~
日之影ソラ
恋愛
宮廷鍛冶師として働く平民の女の子ソフィア。彼女は聖剣の製造と管理を一人で任され、通常の業務も人一倍与えられていた。毎日残業、休日も働いてなんとか仕事を終らせる日々……。
それでも頑張って、生きるために必死に働いていた彼女に、勇者エレインは衝撃の言葉を告げる。
「鍛冶師ソフィア! お前のせいで僕は負けたんだ! 責任をとってクビになれ!」
「……はい?」
サービス残業に休日出勤、上司に勇者の横暴な扱いにも耐え続けた結果、勇者が負けた責任をかぶせられて宮廷をクビになってしまう。
呆れを通り越して怒りを爆発させたソフィアは、言いたいことを言い放って宮廷を飛び出す。
その先で待っていたのは孤独の日々……ではなかった。
偶然の出会いをきっかけに新天地でお店を開き、幸せの一歩を踏み出す。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
家出少年ルシウスNEXT
真義あさひ
ファンタジー
簡単なあらすじ
新婚旅行中の大好きなお兄ちゃんの代わりに海辺の僻地ギルドに派遣された少年魔法剣士が凶悪なお魚さんモンスターを倒しつつ美味しいごはんにしてもぐもぐするお話。
◇◇◇
※全編通して飯テロにご注意ください。ほんとご注意ください
◇◇◇
【家出少年ルシウスNEXT】
お兄ちゃん大好きっ子なルシウス君は14歳。
おうちは魔法の大家でルシウス君も魔法剣士だった。
可愛い弟くんが兄を慕う姿に周りはほっこりしていたが、お兄ちゃん中心に世界を回しているルシウス君はちょっとアレな感じで心配しかない。
お兄ちゃんが結婚してようやくブラコン卒業かと周囲がホッとする中、兄夫婦の新婚旅行にくっついて行こうとしたルシウス君にパパがついに切れた。
「いい加減、兄離れせんかーい!!!」
「なんでそんな酷いこというの!? 父様なんてハゲてしまえばいい!」
「残念、うちはハゲ家系ではない!」
こんな面倒くさい弟が家にいては、ようやく結婚できたお兄ちゃんが新婚早々、離婚の危機である。
非モテで奥手なのに、頑張ってお見合いを繰り返してやっと見つけたお嫁さんを逃してはならない。
これは、ちょっとはお兄ちゃん以外にも目を向けなさいと強制的に旅に出されたルシウス君が冒険者となり、お兄ちゃんに会いたい・おうちかえりたいと泣きながらもシーフードモンスターたちを狩りまくって人助けや飯テロしながら最強伝説を作っていく物語。
ビフォー魔法剣士、ネクスト……?
◇◇◇
【続編 子爵少年ルシウスLEGEND】
後に聖剣の聖者、無欠のルシウスと呼ばれる男にも学生時代があった。
ひたすら、お魚さんモンスターと戦い続けた冒険者ギルドのココ村支部の日々から約二年後。
ルシウス君は子爵となり独立したがまだ十六歳。今年から学園の高等部に進学することになる。
可愛い甥っ子たんも生まれて毎日楽しく過ごせるかとウキウキしていたルシウス君だが、残念ながらほのぼのエンジョイスクールライフにはなりそうもなかった。
※ 「家出少年ルシウスNEXT」の続編。
※大人になったルシウス君様が見れるのは「王弟カズンの冒険前夜(後半から)」「聖女投稿、第二章以降」にて。
ちょっとアダルトな未来のお話は「ユキレラ」へ。
※更に幼い8歳児ルシウス君の登場する「夢見の女王」もよろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる