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オデット、王女殿下を語る
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それから、学園内ではオデットとグリンダ、ふたりがともにいる姿がよく目撃されるようになった。
彼女たちの距離がどうにも近すぎると、周りの生徒たちはふたりを見るたびドキドキしている。
「ねえ、グリンダ、あなた。つまらない男のものになんかなっては嫌よ? 私のものになりなさい」
「わたくしは物ではなくてよ、オデット。でも……ふふ、あなたの側にいると飽きなくて良さそうね」
そんなことを言い合いながら、美少女たちが学園内の食堂をカフェ代わりにして、王都で人気の菓子店のチョコレートを食べさせ合っているのだから、目の毒だった。
ちなみに本人たちはわかっていて、わざとらしく仲良くしている。
麗しく美しい少女たちが少し怪しい雰囲気で絡んでいると、男が寄ってこなくて楽なのだ。
あえて向かってくる猛者は、どこからともなくやってきた彼女たちのファンクラブ会員が回収してポイ捨てしてきてくれる。
「百合の間に挟まろうとする男はくたばれ」
を合言葉にして。
「百合ってなあに?」
「さあ……何かの比喩かしら?」
本人たちはファンクラブにはノータッチである。
ファンクラブの者が彼女たちにファンクラブ設立と運営の許可を取りに来ないから、ずっと非公認のままだ。
許可なら問題なく与えるし、何ならインタビューにだって喜んで応えるわとオデットは思っている。
どうも、先日校庭でグリンダと戦ったことで畏怖されているようで、怖くて近づけないということらしい。
グリンダと仲が良くなったとはいえ、オデットの苛烈な性格が直ったわけではない。
何かと誤解されがちで、暴走しがちなオデットを心配して、グリンダは生徒会長の権限でオデットを生徒会役員にして、生徒会の保護下に入れた。
今の学園は、昔のような貴族専用ではなく、平民の生徒も半数以上を占める。
それでも生徒会役員や風紀委員会は、全校生徒を統括する性質上、高位貴族や有力者の子息子女が揃っている。
オデットの新たな友人としておけば、いざというときや、グリンダが卒業した後も彼女を助けてくれるだろうと。
その生徒会室で、お茶を楽しみながらオデットは他の役員たちに頼まれて、かつて愛した王女殿下のことを語ってみせた。
「私のことを『可愛い子だ』って髪を撫でて口づけてくれたの。そう、この生徒会室のこの場所よ」
「はわあ……後の王姉殿下との美しきエピソードですねえ」
ピンクブロンドのショートヘアの可愛らしい少女が、夢見るような表情でオデットの話に聞き入っている。
彼女はオデットが中庭で噴水の水をかけられたとき、慌てて生徒会長のグリンダに報告に行った同じ1年生の女子生徒だ。生徒会の会計だという。
その当時の王姉は結局、独身を貫いて四十代に入る前に病気で亡くなったことが知られている。
生涯、行方不明のままのオデットを探し続けた。
その行動のために、オデットは今日でも存在と、名前や経歴が国内で知れ渡っている。
「実際のあの方は、がさつで大雑把な方だったけどね。おぐしの巻き毛が素敵だと思ったら寝坊して直し忘れた寝癖だったし、唇が艶々してドキドキしていたら、朝食べたパンのバターが付いていて拭い忘れただけ。しまいには我が一族の魔法樹脂で作るネイルを勧めたら『そんなもの爪に付けたら、鼻もほじれぬではないか』よ? ああ、それでもお慕いしていたわ。我が憧れ、我が青春の黒き髪と瞳のお姉さま」
オデットの愛したずぼらな王女殿下は、当時既に『破壊のオデット』と呼ばれて恐れられていた彼女の頭にゲンコツをくれてやれるほど、強かったのだ。
そのくせ、当時学園内にできたばかりのオデットのファンクラブ会長にしれっと就任していて、日々オデットが暴れる姿を蕩けそうな顔をして見守ってくれていた。
そういうところが、堪らないほど、オデットの好みだった。
「私はね、男とか女とかじゃなくて、強い者が好きなの。自分より強い人間に惚れるたちなの。だから私が欲しければ、私より強くなりなさい。ね、シンプルでしょう?」
オデットの恋愛観である。
別に彼女は『女性が好き』なのではなく、強いものが好きなのだ。
「男も女も顔じゃないのよ? 強さこそがすべてなの。わかったなら出直してらっしゃい、殿方の皆様」
顔で選ぶなら、百年前のオデットの婚約者など熊のような顔つきと身体つきの男だった。
けれど彼は体術に特化した魔術の一族で強かった。だから婚約を受け入れていた。
そういう感じだったわけだ。
その後、自分に告白しに来たり、家に婚約の打診をしてくる男が出るたび、オデットはダイヤモンドの輝きを放つ棘付きメイスを肩に背負って自ら相手のところへ赴き、覇者の如き笑みを浮かべて挑戦者を下していくのだった。
そしてオデットは、学園を卒業するまでの残り二年間を、女帝としてすべての生徒たちの上に君臨して過ごすことになる。
傍らの生徒会長グリンダに上手く転がされながら。
一学年上のグリンダが卒業した後も、何だかんだで学園の生徒たちの注目の的だった。
彼女たちの距離がどうにも近すぎると、周りの生徒たちはふたりを見るたびドキドキしている。
「ねえ、グリンダ、あなた。つまらない男のものになんかなっては嫌よ? 私のものになりなさい」
「わたくしは物ではなくてよ、オデット。でも……ふふ、あなたの側にいると飽きなくて良さそうね」
そんなことを言い合いながら、美少女たちが学園内の食堂をカフェ代わりにして、王都で人気の菓子店のチョコレートを食べさせ合っているのだから、目の毒だった。
ちなみに本人たちはわかっていて、わざとらしく仲良くしている。
麗しく美しい少女たちが少し怪しい雰囲気で絡んでいると、男が寄ってこなくて楽なのだ。
あえて向かってくる猛者は、どこからともなくやってきた彼女たちのファンクラブ会員が回収してポイ捨てしてきてくれる。
「百合の間に挟まろうとする男はくたばれ」
を合言葉にして。
「百合ってなあに?」
「さあ……何かの比喩かしら?」
本人たちはファンクラブにはノータッチである。
ファンクラブの者が彼女たちにファンクラブ設立と運営の許可を取りに来ないから、ずっと非公認のままだ。
許可なら問題なく与えるし、何ならインタビューにだって喜んで応えるわとオデットは思っている。
どうも、先日校庭でグリンダと戦ったことで畏怖されているようで、怖くて近づけないということらしい。
グリンダと仲が良くなったとはいえ、オデットの苛烈な性格が直ったわけではない。
何かと誤解されがちで、暴走しがちなオデットを心配して、グリンダは生徒会長の権限でオデットを生徒会役員にして、生徒会の保護下に入れた。
今の学園は、昔のような貴族専用ではなく、平民の生徒も半数以上を占める。
それでも生徒会役員や風紀委員会は、全校生徒を統括する性質上、高位貴族や有力者の子息子女が揃っている。
オデットの新たな友人としておけば、いざというときや、グリンダが卒業した後も彼女を助けてくれるだろうと。
その生徒会室で、お茶を楽しみながらオデットは他の役員たちに頼まれて、かつて愛した王女殿下のことを語ってみせた。
「私のことを『可愛い子だ』って髪を撫でて口づけてくれたの。そう、この生徒会室のこの場所よ」
「はわあ……後の王姉殿下との美しきエピソードですねえ」
ピンクブロンドのショートヘアの可愛らしい少女が、夢見るような表情でオデットの話に聞き入っている。
彼女はオデットが中庭で噴水の水をかけられたとき、慌てて生徒会長のグリンダに報告に行った同じ1年生の女子生徒だ。生徒会の会計だという。
その当時の王姉は結局、独身を貫いて四十代に入る前に病気で亡くなったことが知られている。
生涯、行方不明のままのオデットを探し続けた。
その行動のために、オデットは今日でも存在と、名前や経歴が国内で知れ渡っている。
「実際のあの方は、がさつで大雑把な方だったけどね。おぐしの巻き毛が素敵だと思ったら寝坊して直し忘れた寝癖だったし、唇が艶々してドキドキしていたら、朝食べたパンのバターが付いていて拭い忘れただけ。しまいには我が一族の魔法樹脂で作るネイルを勧めたら『そんなもの爪に付けたら、鼻もほじれぬではないか』よ? ああ、それでもお慕いしていたわ。我が憧れ、我が青春の黒き髪と瞳のお姉さま」
オデットの愛したずぼらな王女殿下は、当時既に『破壊のオデット』と呼ばれて恐れられていた彼女の頭にゲンコツをくれてやれるほど、強かったのだ。
そのくせ、当時学園内にできたばかりのオデットのファンクラブ会長にしれっと就任していて、日々オデットが暴れる姿を蕩けそうな顔をして見守ってくれていた。
そういうところが、堪らないほど、オデットの好みだった。
「私はね、男とか女とかじゃなくて、強い者が好きなの。自分より強い人間に惚れるたちなの。だから私が欲しければ、私より強くなりなさい。ね、シンプルでしょう?」
オデットの恋愛観である。
別に彼女は『女性が好き』なのではなく、強いものが好きなのだ。
「男も女も顔じゃないのよ? 強さこそがすべてなの。わかったなら出直してらっしゃい、殿方の皆様」
顔で選ぶなら、百年前のオデットの婚約者など熊のような顔つきと身体つきの男だった。
けれど彼は体術に特化した魔術の一族で強かった。だから婚約を受け入れていた。
そういう感じだったわけだ。
その後、自分に告白しに来たり、家に婚約の打診をしてくる男が出るたび、オデットはダイヤモンドの輝きを放つ棘付きメイスを肩に背負って自ら相手のところへ赴き、覇者の如き笑みを浮かべて挑戦者を下していくのだった。
そしてオデットは、学園を卒業するまでの残り二年間を、女帝としてすべての生徒たちの上に君臨して過ごすことになる。
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