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番外編
お父様の隠し子騒動3
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「お嬢さん、大丈夫でしたの?」
「大丈夫じゃないです。純潔を奪われたばかりか、ヴァシレウス様との子供までできてしまって。あたし、どうしたらいいのか……」
「いえ、そちらのことではなくて。あなたのお股のことよ」
「は?」
もうとっくに、今回の子爵一家の来襲理由が虚偽の塊であることが判明している。
だが、今日のセシリアは暇だった。
大好きな旦那様も、可愛らしい愛息子も留守で、お茶もできなければ王都の老舗の高級菓子店の新作ショコラを一緒に楽しむこともできない。
せっかくだから、とことん遊ぼうと思ったのだ。
「あたくしの夫はね、お腰の物がとーっても立派でしょ? 初めてで、しかも中庭のあずまやの中なんてところで強引に致したなら、お嬢さんのお股はズタズタになってしまったのではなくて?」
「はああ!?」
「お可哀想に。ドレスも下着も血だらけになってしまったでしょ? その後、ラーフ公爵家から帰ってくるのも大変だったでしょう?」
「そ、それは」
「ラーフ公爵家の中庭から馬車留めまで向かうにも、一度建物内の広間を通らないといけないもの。ドレスの下半身を血だらけにして、広間の来客たちの前を歩かねばならなかったなんて……ああ、何て可哀想なお嬢さん」
「「「………………」」」
子爵は青ざめている。
彼にも、この頃になるとさすがに妻子の言動が虚言であるとわかっているようだ。
そして、その虚言の代償の大きさにも気づいている。
「あら? でも、なら夫に無体を働かれた後、お嬢さんはどうやってお家の馬車まで戻れたの? 夫に散らされた血だらけ傷だらけのお股じゃ歩けませんわね?」
「そ、それは……通りかかった親切な方に運んでいただいて」
「まあ。それならば、当家からもお礼申し上げねばなりませんわね。お名前をお聞きしてもよろしくて?」
「い、いえ、通りすがりの方だったので名前は知らなくて」
「なら、ラーフ公爵家に問い合わせねば。下半身を血だらけにして歩けなくなった気の毒なご令嬢を、馬車まで運んでくださった親切な紳士がどなたなのか、来客名簿と照らし合わせて探してもらいましょう」
大丈夫、とセシリアは甘い美貌で子爵令嬢に微笑みかけた。
「ラーフ公爵家の執事たちは優秀ですのよ。来客名簿のすべての名前とお顔と当日の衣装や小物に至るまで把握しているはずですわ。お嬢さんの恩人はすぐ見つかりますからね」
「そうですね。あそこは使用人たちも優秀ですから、パーティー中にあずまやで誰と誰が逢引していたかも、しっかり把握されているでしょうし」
秘書が追撃してくれた。
もう子爵は虫の息だし、さすがに子爵夫人もその娘も事態の不味さを悟って血の気が引いている。
話をまとめましょう、とセシリアは言った。
「お嬢さんはラーフ公爵家のパーティーの日、あずまやであたくしの夫に無体を働かれて純潔を失い、懐妊された」
「そ、そうです、その通りよ!」
「その責任を取らせようと、本日はこのアルトレイ女大公家へやって来た」
「その通り!」
「その責任とは、お嬢さんを夫の第二夫人とする形で取ってほしい、と」
「「その通り!」」
何がその通りだ、と家人たち全員が言いたげな顔になっている。
ふう、と憂い顔を作ってセシリアは溜め息をついた。
「とても残念ですわ。まず、お嬢さんは夫の第二夫人になることはできません」
「それなら愛妾でもかまいません!」
夫人が叫ぶ。だがそういうことではない。
「無理なんですの。この家の当主はあたくしですから、婿養子の立場で入った夫は第二夫人も愛妾も持てません」
「で、でも、ヴァシレウス様は王族だし先王でしょう? そんなの関係ないはずですわ!」
(チッ。“陛下”と称号を付けてお呼びしろ、このクズどもが)
セシリアの隣に立つ秘書のレイナート伯爵が小さく舌打ちして毒づいた。
気持ちはわかる、とセシリアも思ったが、あくまでもこの国で最も高貴な女性のひとりとして微笑みは絶やさなかった。
「大丈夫じゃないです。純潔を奪われたばかりか、ヴァシレウス様との子供までできてしまって。あたし、どうしたらいいのか……」
「いえ、そちらのことではなくて。あなたのお股のことよ」
「は?」
もうとっくに、今回の子爵一家の来襲理由が虚偽の塊であることが判明している。
だが、今日のセシリアは暇だった。
大好きな旦那様も、可愛らしい愛息子も留守で、お茶もできなければ王都の老舗の高級菓子店の新作ショコラを一緒に楽しむこともできない。
せっかくだから、とことん遊ぼうと思ったのだ。
「あたくしの夫はね、お腰の物がとーっても立派でしょ? 初めてで、しかも中庭のあずまやの中なんてところで強引に致したなら、お嬢さんのお股はズタズタになってしまったのではなくて?」
「はああ!?」
「お可哀想に。ドレスも下着も血だらけになってしまったでしょ? その後、ラーフ公爵家から帰ってくるのも大変だったでしょう?」
「そ、それは」
「ラーフ公爵家の中庭から馬車留めまで向かうにも、一度建物内の広間を通らないといけないもの。ドレスの下半身を血だらけにして、広間の来客たちの前を歩かねばならなかったなんて……ああ、何て可哀想なお嬢さん」
「「「………………」」」
子爵は青ざめている。
彼にも、この頃になるとさすがに妻子の言動が虚言であるとわかっているようだ。
そして、その虚言の代償の大きさにも気づいている。
「あら? でも、なら夫に無体を働かれた後、お嬢さんはどうやってお家の馬車まで戻れたの? 夫に散らされた血だらけ傷だらけのお股じゃ歩けませんわね?」
「そ、それは……通りかかった親切な方に運んでいただいて」
「まあ。それならば、当家からもお礼申し上げねばなりませんわね。お名前をお聞きしてもよろしくて?」
「い、いえ、通りすがりの方だったので名前は知らなくて」
「なら、ラーフ公爵家に問い合わせねば。下半身を血だらけにして歩けなくなった気の毒なご令嬢を、馬車まで運んでくださった親切な紳士がどなたなのか、来客名簿と照らし合わせて探してもらいましょう」
大丈夫、とセシリアは甘い美貌で子爵令嬢に微笑みかけた。
「ラーフ公爵家の執事たちは優秀ですのよ。来客名簿のすべての名前とお顔と当日の衣装や小物に至るまで把握しているはずですわ。お嬢さんの恩人はすぐ見つかりますからね」
「そうですね。あそこは使用人たちも優秀ですから、パーティー中にあずまやで誰と誰が逢引していたかも、しっかり把握されているでしょうし」
秘書が追撃してくれた。
もう子爵は虫の息だし、さすがに子爵夫人もその娘も事態の不味さを悟って血の気が引いている。
話をまとめましょう、とセシリアは言った。
「お嬢さんはラーフ公爵家のパーティーの日、あずまやであたくしの夫に無体を働かれて純潔を失い、懐妊された」
「そ、そうです、その通りよ!」
「その責任を取らせようと、本日はこのアルトレイ女大公家へやって来た」
「その通り!」
「その責任とは、お嬢さんを夫の第二夫人とする形で取ってほしい、と」
「「その通り!」」
何がその通りだ、と家人たち全員が言いたげな顔になっている。
ふう、と憂い顔を作ってセシリアは溜め息をついた。
「とても残念ですわ。まず、お嬢さんは夫の第二夫人になることはできません」
「それなら愛妾でもかまいません!」
夫人が叫ぶ。だがそういうことではない。
「無理なんですの。この家の当主はあたくしですから、婿養子の立場で入った夫は第二夫人も愛妾も持てません」
「で、でも、ヴァシレウス様は王族だし先王でしょう? そんなの関係ないはずですわ!」
(チッ。“陛下”と称号を付けてお呼びしろ、このクズどもが)
セシリアの隣に立つ秘書のレイナート伯爵が小さく舌打ちして毒づいた。
気持ちはわかる、とセシリアも思ったが、あくまでもこの国で最も高貴な女性のひとりとして微笑みは絶やさなかった。
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