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番外編

お父様の隠し子騒動1

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※ムーンライトノベルズのBL版に掲載していた番外編のうち、こちらの全年齢向けに載せても大丈夫そうなものを転載していきます。
カズン君のママのお話。全5話。
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 アケロニア王国の準王族、アルトレイ女大公セシリアの夫ヴァシレウスはこの国の先王で、“大王”の称号を持っている。

 そのヴァシレウスが息子カズンと、友人のブルー男爵家の領地にあるダンジョン探索に出かけた日のこと。



 ヴァシレウスの子を身籠ったという子爵令嬢が両親と一緒にやってきたと報告を受けて、セシリアは黄金の長い睫毛が彩る鮮やかなエメラルドの瞳をパチパチと瞬きさせた。

 この手の輩は、ヴァシレウスと婚姻を結んでから不定期にやってくる。
 大抵は先触れも何もなく、いきなりやって来る無作法が特徴だ。

「あらあ。久し振りねえ、そういうの」

 どうされますか、と執事に確認されたため、セシリアは面会すると答えた。

「旦那様も、あたくしの可愛いショコラちゃんも留守なんだもの。暇つぶしにはなりそうね」



 一行を応接室に通させ言い分を聞いてみると、どこぞの夜会でヴァシレウスに見染められ、控室に連れ込まれて純潔を奪われたとのこと。

 応接室の壁際に控えさせた家令、執事長、侍女長、副侍女長、そして衛兵数名がかすかに表情を動かした。

 だが彼らはセシリアたち一家が王宮の離宮住まいだった頃からの、ヴァシレウス大王の信奉者たちであり、セシリアを含むこの家の守護者たち、その精鋭だ。

 優秀に優秀を重ねた彼らが客人の前で醜態を晒すことはない。



「それで、あなたがたは何をお求めなのかしら?」

 まず先に相手の思惑を語らせたほうがいい。
 相手の出方を把握してからのほうが、適切な対応が取れるからだ。

「娘はヴァシレウス大王陛下に純潔を捧げましたのよ! 責任を取っていただきませんと!」

 母親の子爵夫人が唾を飛ばす勢いで怒鳴っている。

「責任って、どのような?」
「正妻などと大それたことは望みません。側室として……」
「夫は既に退位しておりますから、側室というのは違いますね。第二夫人とか愛妾とかでしょうね」
「それなら娘は第二夫人として、責任を取ってこの家に迎えていただきます!」

 おや、とセシリアはやや垂れ目ぎみのエメラルドの瞳を瞠った。

「この家に?」
「もちろんです」

 どうやら、このご婦人はヴァシレウス大王やその伴侶セシリアの、やや複雑な事情を理解していないらしい。

「この家の正式名称、ご存知かしら?」

 セシリアの問いかけに、隣の子爵本人は気づいたようだ。
 見る見るその人の良さそうな顔が青ざめていく。

(うん、なるほど。今回ここに来たのは夫人とお嬢さん主導なのね。子爵はそれに巻き込まれただけかあ)

「アルトレイ大公家でしょう?」
「いいえ、違いますの。アルトレイ“女”大公家と申しますの」
「はあ?」

 衛兵のひとりが剣の柄に手をかけた。
 だが、隣の別の衛兵に静止されている。
 自分たちの主人であるセシリアへの無礼な言動に、家人たちは怒りを覚えている。
 だが、セシリア本人が平気な様子なので堪えているのだ。

「ええ、ですから、アルトレイ女大公家ですの。あたくしが女大公として、この家の当主なのですわ」
「は? ヴァシレウス大王が当主でしょ、何言ってるのよ!」
「ばか、お前よせ!」

 子爵が、立ち上がってセシリアに詰め寄ろうとする夫人を咄嗟に制止する。

 家人たちが殺気だってくる。
 偉大なるヴァシレウス大王を称号(陛下)どころか敬称(様)まで抜きで呼んだ子爵夫人は、一昔前ならこの場で首を刎ねられても文句は言えない。



「あたくしたち夫婦は、ちょっと特殊でしてね。あたくしがこのアルトレイ女大公家の当主としてテオドロス国王陛下から女大公に列せられ、夫は婿養子の形で婚姻を結ぶことになりましたの」
「はあ? ヴァシレウス大王が婿養子? なに馬鹿なことを言って!」
「馬鹿はお前だ! お前はもう口を開くな!」

 ばしん、と子爵が夫人を張り飛ばした。
 平手で顔を叩かれた夫人はソファに崩れ落ちたが、すぐに立ち直って夫の子爵に食ってかかる。

「何するのよ!」
「それはこっちの台詞だ! 何なのだこの茶番は! 私はお前たちがヴァシレウス大王陛下の寵愛を受けたからお礼を申し上げに行くというので付き添いで来たのだ。だが蓋を開けてみれば何だこれは、そもそもの前提が何もかも間違っている!」

(あらあら。子爵はわりとまともなのね?)

 けれどこの手の責任は連座なのだ。
 夫人と娘が原因なら、夫であり父親の子爵には管理責任が問われる。








※カズン君が保護者(よりによってヴァシレウス大王)を連れてダンジョンに潜ったとき、おうちではこんなことが。

他の番外編へのリンク、↓に貼っておきましたー
多少BL要素ありますのでご注意ください。
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