王弟カズンの冒険前夜(全年齢向けファンタジー版)

真義あさひ

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魔術師カズン、子供時代の終わり

甘えたいお年頃

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「カズン様、ではいつ頃リースト伯爵領へ行きましょうか?」

 魔術師フリーダヤ来訪の衝撃も冷めやらぬ翌日。
 何とか気を取り直してアルトレイ女大公家を訪れたヨシュアがそこで見たものとは。

「もうちょっとだけお父様とお母様分をチャージしてから」

 ソファに座る父ヴァシレウスと母セシリアの間に挟まって、思う存分に甘えているカズンの姿だった。
 約半月ほどの間、避暑地の別荘と王都とで離れ離れに過ごした結果、両親恋しさに落ち込む姿を見せていたカズンだ。
 先日、王都に戻ってきてから数日経っているのだが、まだまだ甘え足りないらしい。

 そんな息子と離れていた両親側もそれなりに寂しかったようで、ヴァシレウスは横からカズンの黒髪を飽きることなく撫でてやっているし、セシリアは先ほどからずっと頬っぺたに自分の頬をくっつけたり、口づけたりしては顔を合わせるたび笑い合っている。

「鮭の魚卵はもう興味がなくなりましたか? カズン様」

 別荘で見せたあのテンションの上がりようを見るに、これで気を引けるはずだった。
 案の定、ギラリとカズンの黒縁眼鏡の硝子面が光った。

「まだ8月だが、鮭の魚卵は獲れるのか? ヨシュア」
「リースト伯爵領ではサケ類は通年獲れるんです。今の時期だと紅鮭がちょうど食べ頃です。身は一番美味しい時期ですね」
「一番美味しい時期……」
「早く漁獲しないと、産卵を終えた紅鮭に卵が無くなりますし、身も痩せてあとは死んでいくだけなので」
「何と!」

 それはいけない。すごくいけない。

「あら、あたくしの可愛いショコラちゃんはお出かけね? じゃあ、あたくしもお仕事に行ーこうっと」

 カズンの左隣にいたセシリアが、軽やかな声をあげた。

「え。お母様、どこか行かれるのですか?」
「そうよ? 人物鑑定スキルで見てほしいっていう依頼がいくつかあってね。また一ヶ月くらい、国内を回ってこようと思うの」

 セシリアは人物鑑定スキルの最高峰、特級ランク持ちだ。
 貴族から呼ばれる場合は、妊娠した本人や、妻、家族や一族の子供の父親の確認をしてほしいと呼ばれることがある。
 あとは裕福な庶民や、叙勲などで叙爵された者の家系図を作成するために、本人の系譜を詳しく人物鑑定してほしいという依頼が、常にある。

「そっか……お母様、またいなくなっちゃうのか……」

 と、ぴったり当の母親にくっついたまま、寂しそうにカズンが呟く。

「うちの息子はとんだ甘ったれだ」

 口ではそう言いながら、右隣のヴァシレウスが楽しそうにカズンの黒髪を掻き回してやっている。

「よし、リースト伯爵領に行くのだな? ならば私も行こう。ヨシュア、構わないかね?」
「わあ、ヴァシレウス様もですか? 大歓迎です、リースト伯爵領のすべてをあげて歓待いたします!」
「はは、そんな大ごとにしてどうする。お忍びだ、お忍び!」

 近年のヴァシレウスは、カズンが生まれる前にたびたび患っていた病と体調不良を乗り越えたこともあり、非常に活動的でフットワークも軽い。
 他の予定もあるから何日もは無理だが、二日ぐらいなら都合がつくという。
 ならばと翌日からさっそく、リースト伯爵領へ小旅行することにした。

「あ。一応、ユーグレン様にもお声がけしましょう」
「また怒られたくないものな」

 先月、カズンたちが避暑地の別荘にいたことを知らされずにいたユーグレンが非常に怒ったことは、まだ記憶に新しかった。

「ライルたちはどうだろう。声かけてもいいか、ヨシュア」
「ええ。リースト伯爵領はランクAダンジョンがありますしね、彼らなら楽しめるんじゃないかな」

 それでさっそく手紙をしたためて王宮のユーグレン、ライルとグレンの家宛に家人に届けてもらうと、それぞれ良い返事が返ってきた。
 明日は直接、王都のリースト伯爵家のタウンハウスに朝、集合である。


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