王弟カズンの冒険前夜(全年齢向けファンタジー版)

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
100 / 172
夏休みは避暑地で温泉

夏休みは家族で避暑地へ

しおりを挟む
(イザベラ嬢を救い、彼女を虐げていたジオライドとの婚約も無事に解消された。これで日々心を占めていたトラブルも解決! 憂いはなくなった!)

 彼女の置かれたあまりの苦境を目の当たりにして胸は痛むわ、つられて魔力まで不安定になるわで散々だったカズンだ。

(しかしもう終わった。夏休みだ! 学生生活最後の夏休み!)

 解放感で心身も爽快だった。
 後は若者らしく弾けるだけである。

 だが、そんな爽快感も夏休みに入って数日たつとだいぶ落ち着いてきて、以前の状態に戻った。
 と思ったら。



「カズン。愛しい我が息子よ。だから言ったではないか、チョコレートの食べ過ぎは良くないぞと」
「違います、お父様! 確かに僕は毎日ショコラを食してましたが、執事がうるさくて一日3粒までしか口に入れておりません!」

 自室の寝台の上にうつ伏せになって、医師の処置を受けながら、父ヴァシレウスからお小言を頂戴してしまった。

 だが解せぬ。以前ユーグレンからせしめたガスター菓子店の中箱ショコラも、先日ヨシュアと買ってきた限定セットもすべて、笑顔の執事に奪われて自室に持ち込むことはかなわなかったではないか。
 一口サイズのショコラ3粒で身体に害が出るなどあり得ない。
 たとえそれが毎日のことだとしても。

「でもニキビが背中にできるって珍しいわねえ。あたくしも少女時代にできたことあるけど、ほっぺたとかだったわ」
「うう……」

 夏休みに入って、宿題をこなしつつのんびり過ごしていたある日。
 背中に鋭い痛みが走り、何事かと服を脱いで侍従に確認してもらうと、大小いくつかの吹き出物ができていた。
 痛みが出たのは、そのうちの一つが服に擦れて潰れてしまったものらしい。

「お年頃の方のニキビは、セシリア様の仰る通り顔に出ることが多いのです。ですが、背中となると……。強いストレスを感じる出来事があると、大人でも背中に出やすいとが言われています。」

 あ、とカズンも両親も当然思い当たることがある。
 イザベラと元婚約者ジオライドの件では関係者すべてにかなりの強い精神的負荷がかかった。

「ほらやっぱり、ショコラのせいじゃなかった!」

 あやうくショコラ禁止令が出るところだった。
 それはカズンにとって、死ねと言われるに等しい宣告だ。泣いてしまう。

「首元やお腰の辺りに少し汗疹も出ていますね。今年は暑いですから、可能なら避暑地でゆっくり過ごされるとよろしいでしょう」

 患部を清潔に保つことの指示と、解毒排毒のハーブティーを処方して、医師は帰っていった。

「確かに今年は暑い。避暑地行きは良い案だ」
「ですが旦那様、今の時期、王都を離れても良いものでしょうか?」

 秋から冬にかけては王都では社交パーティーも増えるから、その準備に追われる。
 自分たちに関していえば、まだロットハーナの件が片付いていない。

「ヴァシレウス様、それでしたら郊外の温泉地なら半日で行けますし、標高も高い場所ですから涼しく過ごせます。手配致しましょうか」
「あら、いいわね! 温泉ならお肌にも良いし、ニキビや汗疹にも効くのではなくて?」

 執事の提案に乗ることにした。

「なら、ヨシュアにも連絡入れないと」

 簡単な事情を手紙に書いて使用人を使いに出すと、夏休み期間中、一度は叔父に任せっぱなしのリースト伯爵領に戻らねばならないとの返事だった。
 だがすぐに王都への帰り道に合流するとのこと。

 家族旅行は往復時間を含めて一週間ほどの予定となった。



 一家の護衛などを手配し、さっそく翌日から避暑地へ向かうことにした。

 夏は暑さで体力が落ちやすい時期だから、社交好きの母セシリアもほとんど予定が入っていない。
 父親ヴァシレウスは念の為、王宮に向けて息子の国王テオドロスに避暑地へ行く許可を得るため確認したようだ。
 年齢を考えれば、温泉のある避暑地での休養はむしろ勧められたそうな。

 そういえば、と行きの馬車の中で父にこんなことを訊かれた。

「カズン。ユーグレンに避暑地へ行くことを連絡したのか?」
「え? してないですよ? 必要があればテオドロスお兄ちゃまが伝えるでしょうし」
「お前たち、派閥問題の解決のために三人でいることにしたんじゃなかったのか?」
「うーん……ユーグレン殿下は僕じゃなくてヨシュアが好きな人ですからね。現地でヨシュアと合流した後も帰るまで短い時間しか一緒にいないでしょうし。あえて連絡する必要はないかと」

 なお、この淡々としたカズンの対応が大間違いだったことは、後に判明する。


しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...