王弟カズンの冒険前夜(全年齢向けファンタジー版)

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
96 / 172
人前で婚約者を侮辱してはならない

お母様にはいろいろバレてる気がする

しおりを挟む
 カズンが、父の先王ヴァシレウスも巻き込んでイザベラとジオライドの問題に関わる傍ら。

 その母セシリアは、息子や夫たちを見守りながらも協力は間接的なものに留めて、いつも通り女大公としての社交に精を出していた。

 結果として、昼間の茶会などで「うちの息子から聞いたのだけどね……」とさりげなさを装って、貴族社会へ幼稚なラーフ公爵令息ジオライドの問題行動を広めるのに一役買った。



 後日、夏休みに入ったばかりの頃、護衛のヨシュアと一緒にブルー商会を覗きに行ってみると。

 すぐ建物の上階から、後輩で友人のブルー男爵令息グレンが降りて来た。
 ピンクブロンドの髪の美少女顔美少年グレンは、水色の瞳を輝かせてこんな報告をしてくれた。

「カズン先輩のお母様の紹介で、うちの商会で取り扱ってる口内清浄剤、爆売れです。毎度どうも!」

 息子カズンから、ヨシュアやユーグレンとそれぞれ使っている口内清浄剤をプレゼントし合ったと聞いたセシリアは、しきりに「可愛らしいわ、ロマンチックだわ、今どきの子たちはそういう遊びをするのね!」と繰り返し話題に持ち出しては喜んでいた。
 そのセシリアが、息子たち三人でのやり取りを、どうやら茶会や夜会といった社交の場で暴露してしまったらしい。

「ウフフ。カズン様たち、今日のお口の中は何味だったんです? ミント? 薔薇? アニスー?」

 商会の受付にいた、グレンとよく似た妹カレンにもニヤニヤと笑われて、何とも恥ずかしい思いをしたカズンとヨシュアである。

 何でそういう揶揄い方をするかな!
 ちょっと身内と遊んでいただけなのに。



 当然、帰宅するなりカズンは母親に抗議した。

「お母様? 何をやって下さったので?」
「やだあ、あたくしの可愛いショコラちゃんったら怖い顔!」


『あたくしの可愛い息子がね、こぉんな可愛らしい遊びをしてたのよお』


 と言って、それはもう事細かに息子から聞いたエピソードを披露してくれたらしい。
 当然ながら貴族社会は狭い世界なので、この話題はあっという間に知れ渡ったことだろう。
 カズンたちが三人、とても仲が良くなったという事実とともに。

 ちなみに、国内で生産されている口内清浄剤なら、どこの商会の販売店にも卸されていて店頭で購入できる。
 セシリアは社交の場で、カズンの友人であるブルー男爵家の兄妹がいるブルー商会の話も併せて話していた。
 それを聞いた貴族夫人たちや令嬢たちがこぞって翌日以降、ブルー商会に問い合わせをした結果、爆売れに繋がったということだった。

 カズンが使っているスペアミント、ユーグレン王子愛用のアニス、そしてリースト伯爵ヨシュアの薔薇。
 すべて完売して、次回以降の大量注文の予約まで殺到したそうである。
 一つ一つは廉価なものだが、まとまった数が出るとなかなかの売上になる。

「んっふふふふ、あたくしの可愛いショコラちゃんお気に入りのミントが一番売れたんですって?」
「ええ、単品ではスペアミントが。でもオレたち三人が使ってるもののセットのほうが売れたみたいですね」

 と補足するヨシュア。
 むしろ話を聞いたブルー商会が積極的にセット販売を推奨したらしい。

 カズンの父母はステータスの魔力値が高いので口内清浄剤は使わず、口内の清潔は自分で清浄魔術を使うことで保っていた。
 それでも、カズンたちの話を聞いて興味が出たようで、一通り試してみたくなったということのようだ。



 そんな母親からの暴露が判明した翌日の朝。

 カズンが食後のまだ涼しい時間帯のうちにテラスに出て学園からの宿題に取り掛かっていたところ、セシリアに呼ばれてお使いを頼まれた。

「あのね、グレン君のおうちの商会に口内清浄剤のセットを注文してあるの。受け取りに行ってくれるかしら?」

 ここで、うちは大貴族なのだから商会からこちらへ来させれば良い、などと無粋なことは、カズンはもちろん言わなかった。

「喜んで、お母様。他に何か御入用のものはありますか?」
「今晩はブルー男爵家の生チーズ入りのサラダが食べたいわねえ」
「了解です、では冷却魔導瓶を持参して行って来ますね」

 セシリアの傍らに控えていた執事から、手提げ袋に入った冷却魔導瓶を受け取る。
 それとは別に、布の巾着に入った貨幣も渡される。中身を確認すると、大金貨2枚(約40万円)と小金貨3枚(約3万円)が入っている。

「お釣りはお小遣いでいいわよ。ヨシュアとのデートに使うといいわ」
「デートって。もう、お母様ったら」

 お使い名目で、小遣いを渡すほうがメインなのだろう。
 ヨシュアに連絡を入れると、護衛として当然付いていくと返答が返って来たので、午前中のうちにブルー商会まで向かうことにした。



 ヨシュアと合流したカズンが同じ馬車でブルー男爵家の商会を訪ねると、今日いたのは受付のカレンだけで、グレンは朝からライルと出かけているらしい。

 代わりに、そこに意外な人物の姿があった。
 トークス子爵令嬢イザベラ。
 まもなく伯爵令嬢となる彼女が、商会の受付を手伝っているブルー男爵令嬢カレンと親しげに談笑している。

「イザベラ先輩とはお友達なんです。ロマンス小説の愛好家仲間ですね」
「ねー」

 ちなみに、カレンとは違って特に腐ってはいないらしい。理解はあるらしいが。

「ブルー商会へ、防犯系の魔導具を探しに来たのが縁で親しくなったんです。ほら、例の彼の件もありましたから、身を守るために」

 と言うイザベラは、学園で見ていたような野暮ったさはなく、三つ編みも解かれて豊かに波打つ暗い茶髪はよく練られたビターチョコレートの如く艶やかだった。
 外出着の赤いワンピースがよく似合っている。

 そして、眉を整え丁寧な化粧を施した顔は、なかなか気の強そうな美人だった。
 学園でのときのような地味で大人しい印象が消え、強気な性格がよく表れている。
 ただし、ややぽっちゃり体型なのは変わらなかったが。

「イザベラ先輩、元婚約者が大嫌いだから、彼と会う学園では絶対お洒落しないって決めてたんですって。もう婚約解消されたからこれからはやりたい放題!」
「本当よね、ストレスでやけ食いして太っちゃったし、この夏に頑張って痩せるわ!」

 年頃の女子同士、盛り上がっている。

 対して、カズンとヨシュアはイザベラの変貌ぶりに驚いていた。
 というよりその顔立ちに。

「ぐ、グレイシア様そっくりじゃないか」
「ええ、これは夏休み明け、学園で大騒ぎになりそうですね」

 グレイシアは、ユーグレン王子の母親で次期国王となる王太女にあたる王族女性だ。カズンにとっては年上の姪にあたる。

 これでイザベラの髪色が暗い茶色でなく黒色だったら、実の娘と言われても通るくらいよく似ていた。


しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...