90 / 172
人前で婚約者を侮辱してはならない
ショコラちゃん4歳、可愛い盛りでした
しおりを挟む
「うちの可愛いショコラちゃんが4歳の頃といえばね……」
とケーキスタンドからチョコレート菓子を摘まみながら、セシリアの話が脱線していく。
「お、お母様、僕の話は結構ですから」
何やらイヤな予感がする。
しかし母は止まらなかった。
歩けるようになってからのカズンが、当時住んでいた離宮内を走る走るで大変だったと話し始めるときた。
「はいはいができるようになったときも凄かったのよお。すーぐお部屋から逃げ出そうとするんですもの。それで勢いが強すぎて壁にぶつかっちゃうのよね」
カズンが生まれる数年前から大病をして体力が落ちていたヴァシレウスでは、カズンの相手が難しかった。
何せカズンが生まれた時点でヴァシレウスは八十の大台に乗っていたので。
乳母も足の速い人ではなかったし、侍従や侍女、執事なども追いつけなかった。
現役の騎士団員なら可能だったが、子守りのためだけに余分な人員を借りるわけにもいかない。
歩けるようになった時点で乳母車からも自分で這い出してしまうため、人力で捕獲できる者がどうしても必要だったという。
そこで、母親のセシリアが、身体強化魔術の訓練を受けてカズンを捕まえることになったという。
彼女は魔力は持っていたが魔力使いの少ないタイアド王国出身だったため、魔法も魔術も使ったことがなかったが。
このとき、セシリアに身体強化を指導したのが、当時の魔法魔術騎士団の副団長だったリースト伯爵カイル、ヨシュアの亡父だった。
後にヨシュアがカズンの友人として引き合わされることになった縁がこれである。
「運動用に用意してもらったお靴、何足ダメにしたのだったかしら。底がすり減って穴も空いちゃったわ。そこまでやって、ようやくカズンに追いつけるようになったの」
それまで、どちらかといえばセシリアはスレンダーで厚みの薄い体型だった。
しかし体力を付けるため毎食がっつり肉やチーズ、野菜も適度に摂り続けたことで、胸は豊満になり、日夜疾走することで、ヒップと脚がしなやかな筋肉で引き締まったダイナマイツボディを手に入れた。
「カズンを追いかけるのは、本当に大変だったな……」
「ええ。大変でしたね、旦那様。でもとーっても! 楽しかったのよお」
セシリアの魔力ステータス値は7である。平均値が5だから数値として高めだ。
「自分に魔力があるってこと、アケロニア王国に来てから知ったのよね。というかカズンを産んだ後、正式にステータス鑑定してもらって判明したの」
「うむ。予想はしてたが、セシリアもアケロニア王族の血筋だからな。“人物鑑定”スキルは当然持ってるだろうと思っていた」
その一族に特有のスキルや能力というものがある。
例えば、ヨシュアのリースト伯爵家の男子なら、金剛石、即ちダイヤモンドでできた魔法剣を自在に操ることが知られている。
アケロニア王族の場合は、男女の区別なく、鑑定スキルのうち人物鑑定スキルをほぼ必ず発現させる。
カズンやユーグレン王子は人物スキルの初級を。
先王ヴァレウスは上級。現王テオドロス、王太女グレイシアは中級で、彼ら全員、まだ上の等級に進化する余地を残している。
セシリアは、発現する可能性が高いスキルとして、人物鑑定スキル・特級を持っていた。
鑑定スキル全般にいえることだが、特級ランクの持ち主は円環大陸全土で各国に一人いるかいないかといったところだ。
ちなみにアケロニア王国に、人物鑑定スキル・特級ランクの持ち主は二名いる。
一人がこのカズンの母親アルトレイ女大公セシリア。もう一人は、王立学園の高等部で学園長をしているライノール伯爵エルフィンである。
「あたくし、初めて謁見の間で旦那様を見た瞬間、『これは自分の男だ』って直観したのよ。あれって今から思えば、特級ランクの人物鑑定スキルがたまたま発動したんじゃないかなあって」
巷の噂では死期や“運命の相手”がわかるとも言われているが、これに関して人物鑑定スキル特級の持ち主は黙して語らない。
なお、個人間の相性だけなら、中級ランクでも鑑定可能である。
「そのうち、王太女のグレイシア様にカズンを捕まえるコツを教えてもらってねえ。『ワーイ!』って大きな声を出して両腕を上げた直後に飛び出していくから、タイミングを狙って抱っこしちゃえばいいんだぞって」
「う……ププッ、そうですね、確かにカズン様はそうでした。『ワーイ!』とか『ウワーハハハ!』って叫んだ後にものすごいスピードで駆け出してました」
当時を知るヨシュアが思い出したように笑っている。
駆け出したカズンに手を引かれて、文字通り一緒になって離宮を駆け回っていた頃がとても懐かしい。
子供の頃とはいえ、自分の失敗談を人前で話されてカズンは恥ずかしさに顔を背けてしまっている。
もうやめてと言っても、セシリアもヴァシレウスも、ヨシュアでさえ止まってくれなかった。
とケーキスタンドからチョコレート菓子を摘まみながら、セシリアの話が脱線していく。
「お、お母様、僕の話は結構ですから」
何やらイヤな予感がする。
しかし母は止まらなかった。
歩けるようになってからのカズンが、当時住んでいた離宮内を走る走るで大変だったと話し始めるときた。
「はいはいができるようになったときも凄かったのよお。すーぐお部屋から逃げ出そうとするんですもの。それで勢いが強すぎて壁にぶつかっちゃうのよね」
カズンが生まれる数年前から大病をして体力が落ちていたヴァシレウスでは、カズンの相手が難しかった。
何せカズンが生まれた時点でヴァシレウスは八十の大台に乗っていたので。
乳母も足の速い人ではなかったし、侍従や侍女、執事なども追いつけなかった。
現役の騎士団員なら可能だったが、子守りのためだけに余分な人員を借りるわけにもいかない。
歩けるようになった時点で乳母車からも自分で這い出してしまうため、人力で捕獲できる者がどうしても必要だったという。
そこで、母親のセシリアが、身体強化魔術の訓練を受けてカズンを捕まえることになったという。
彼女は魔力は持っていたが魔力使いの少ないタイアド王国出身だったため、魔法も魔術も使ったことがなかったが。
このとき、セシリアに身体強化を指導したのが、当時の魔法魔術騎士団の副団長だったリースト伯爵カイル、ヨシュアの亡父だった。
後にヨシュアがカズンの友人として引き合わされることになった縁がこれである。
「運動用に用意してもらったお靴、何足ダメにしたのだったかしら。底がすり減って穴も空いちゃったわ。そこまでやって、ようやくカズンに追いつけるようになったの」
それまで、どちらかといえばセシリアはスレンダーで厚みの薄い体型だった。
しかし体力を付けるため毎食がっつり肉やチーズ、野菜も適度に摂り続けたことで、胸は豊満になり、日夜疾走することで、ヒップと脚がしなやかな筋肉で引き締まったダイナマイツボディを手に入れた。
「カズンを追いかけるのは、本当に大変だったな……」
「ええ。大変でしたね、旦那様。でもとーっても! 楽しかったのよお」
セシリアの魔力ステータス値は7である。平均値が5だから数値として高めだ。
「自分に魔力があるってこと、アケロニア王国に来てから知ったのよね。というかカズンを産んだ後、正式にステータス鑑定してもらって判明したの」
「うむ。予想はしてたが、セシリアもアケロニア王族の血筋だからな。“人物鑑定”スキルは当然持ってるだろうと思っていた」
その一族に特有のスキルや能力というものがある。
例えば、ヨシュアのリースト伯爵家の男子なら、金剛石、即ちダイヤモンドでできた魔法剣を自在に操ることが知られている。
アケロニア王族の場合は、男女の区別なく、鑑定スキルのうち人物鑑定スキルをほぼ必ず発現させる。
カズンやユーグレン王子は人物スキルの初級を。
先王ヴァレウスは上級。現王テオドロス、王太女グレイシアは中級で、彼ら全員、まだ上の等級に進化する余地を残している。
セシリアは、発現する可能性が高いスキルとして、人物鑑定スキル・特級を持っていた。
鑑定スキル全般にいえることだが、特級ランクの持ち主は円環大陸全土で各国に一人いるかいないかといったところだ。
ちなみにアケロニア王国に、人物鑑定スキル・特級ランクの持ち主は二名いる。
一人がこのカズンの母親アルトレイ女大公セシリア。もう一人は、王立学園の高等部で学園長をしているライノール伯爵エルフィンである。
「あたくし、初めて謁見の間で旦那様を見た瞬間、『これは自分の男だ』って直観したのよ。あれって今から思えば、特級ランクの人物鑑定スキルがたまたま発動したんじゃないかなあって」
巷の噂では死期や“運命の相手”がわかるとも言われているが、これに関して人物鑑定スキル特級の持ち主は黙して語らない。
なお、個人間の相性だけなら、中級ランクでも鑑定可能である。
「そのうち、王太女のグレイシア様にカズンを捕まえるコツを教えてもらってねえ。『ワーイ!』って大きな声を出して両腕を上げた直後に飛び出していくから、タイミングを狙って抱っこしちゃえばいいんだぞって」
「う……ププッ、そうですね、確かにカズン様はそうでした。『ワーイ!』とか『ウワーハハハ!』って叫んだ後にものすごいスピードで駆け出してました」
当時を知るヨシュアが思い出したように笑っている。
駆け出したカズンに手を引かれて、文字通り一緒になって離宮を駆け回っていた頃がとても懐かしい。
子供の頃とはいえ、自分の失敗談を人前で話されてカズンは恥ずかしさに顔を背けてしまっている。
もうやめてと言っても、セシリアもヴァシレウスも、ヨシュアでさえ止まってくれなかった。
20
お気に入りに追加
459
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。


巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる