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王家の派閥問題

ヨシュアへの外圧

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 しかし、そう上手く進まないのが人生というやつだ。

 カズンやヨシュアが学園の高等部に入学する前のこと。

 同盟国の公爵令嬢だったカズンの母セシリアが、正式にアケロニア王国に帰化し王族として認められ、大公に列せられたとき。
 その息子カズンも、明確に王族と女大公令息の身分を確立した。

 すると、幼馴染みとしてカズンの一番近くにいたヨシュアは、一伯爵令息に過ぎない身で分を弁えろと周囲の貴族社会から強い圧力をかけられるようになった。

 学友にしろ側近候補となるにしろ、ヴァシレウス大王の末子カズンには、より高位の貴族の子息子女こそが相応しい。
 そう言って、身の程を弁えろと忠告に来る者が出始めた。

 ある程度までは貴族社会で顔のきく叔父が守ってくれていたのだが、学園に入るとさすがに叔父の目も届かなくなる。

 それまで学問は互いに家庭教師の元で学んでいたが、貴族の家の子供には学園の高等部だけは入学と卒業の義務がある。
 入学後、まさかの1年、2年とクラスを離された。

 学園は各学年AからEまで5クラスあり、AからC組までの三組は成績上位で、目的別に分けられる。

 B組は、卒業後は政治や法務など各分野の士官候補生中心のクラスで、ユーグレン王子が所属する。将来的に文官や武官として長い付き合いになる者たちだ。

 C組は、卒業後の進路が既に定まっている者たちのクラスで、A組とB組ほど授業内容が厳しくない。代わりに生徒ごとに柔軟なカリキュラムが組まれる。

 そしてA組は、文句なしの最優秀クラスで、王侯貴族や平民を問わず成績優秀者のクラスだった。

 各クラスは学年末テストの成績結果や卒業後の進路によって変わる。
 1年、2年とカズンはA組で、ヨシュアはC組だった。
 リースト伯爵家の後継者のヨシュアのクラスとして、間違っているわけではない。
 だが、事前の希望では学園側にA組希望を提出していたはずだった。もちろん成績には何ら問題ない。

 クラス分けが決定された後で学園側に確認しに行くと、ヨシュアの希望が届いていないことが判明する。
 やられた、と思った。
 ユーグレン王子派の工作だ。

(あのときほど、リースト伯爵家に暗殺術スキルがないことを悔やんだことはない……)

 輝く金剛石の魔法剣が主力のリースト伯爵家の男たちは、暗躍するには向かないのだ。

 その上、1年と2年時は入学当初の竜討伐の後遺症で、ヨシュア自身ほとんど学園内で行動が起こせなかった。
 何より魔力が不安定で、登校すらままならない日も多かった。

 それでも1年、2年とクラスが分かれていても、カズンと月に数度は互いの家に行き合って遊ぶ仲なのは変わらない。

 周囲からの圧力も相変わらずだったが。



 3年に上がるときには、さすがにヨシュアも慎重に動いた。

 リースト伯爵家から学園へ相応の寄付金を積み、カズンの父の先王ヴァシレウスに事情を話し、学園長に話を通してもらった。
 ここまでして、3年はようやく同じクラスになれて、やっと学園でもカズンの近くに侍ることができた。

 と思ったら、次は家中の問題に意識を取られて、新学期早々に登校ができなくなった。
 父は毒殺され、その父の後妻と連れ子によるお家乗っ取り事件まで発生する。
 まさかの自分の生命の危機まで訪れて、さすがにしみじみ思った。

(……幸運値1、つらい)

 ステータスの幸運値とは、何か自分が行動を起こすとき世界からどの程度サポートが得られるかの目安である。
 いわゆる“外運”的な要素を示す。
 幸運値が低いからといって運が悪いとは限らないはずだったが、不幸な出来事が連続して続くと気が滅入る。

 後妻の連れ子も初めは優秀だった。
 学園への入学時は、下級貴族家の出身ながら王宮勤めの文官を目指して、成績優秀クラスのひとつB組に所属していたぐらいだ。
 それが途中から素行不良で成績劣等者の集まるD組に落ち、リースト伯爵家でも横柄な態度を取るようになっていった。
 まさか、執事から鍵を盗んでヨシュアの部屋へ忍び込み、義理の兄に暴行を加えようなどと愚かな行動を起こすとは思わなかった。

 ヨシュアはずっとカズンの側にいたかったから、自分がリースト伯爵家を継いだ後、自分がいない間も家政や領地運営を補佐できる人材を集め始めていた。
 そんなヨシュアの意を汲んで、父親のカイルも、後妻たちの能力を考慮の上で再婚相手を検討していたはずだった。

 それが、当の本人たちが厚遇を勘違いして増長し、伯爵家簒奪の野心を持たせることになろうとは。
 後妻のほうは父伯爵と正式に婚姻関係を結んでいたから、簡単に排除することもできなかった。

 それでも杜撰な彼らの伯爵家簒奪の計画を事前に知ることができた。
 結果として、後妻もその連れ子も処刑されて既にこの世にいない。



 亡父から受け継いだ数々の術式は、ヨシュアの肉体によく馴染んだ。
 学園に入学した一年のとき、竜退治で消耗し不安定に悩まされた魔力と肉体のアンバランスもすっかり解消された。
 術式自体に、魔力行使のプログラムが適切に動くよう、肉体と精神の調整機能があるためだった。

 それから3年に進学し、学園最後の学年の生活は安定するかと思いきや。
 ヨシュアの生活には、ひとつ大きな変化があった。

 第一王子ユーグレンを、正式にカズンの仲立ちで紹介されたのだ。

 元々カズンから、ユーグレンとは親しくしていると聞いていた。
 それからは学園でもカズンがいるとき限定で、ヨシュアもユーグレンと様々なことで交流していくことになった。

 昼食を食堂でともにする機会も増えた。
 周囲からはヨシュアに対する攻撃的な視線が突き刺さる。
 ユーグレンの護衛の生徒だけは、どちらかといえばヨシュアに好意的なのだが、他の側近候補たちは王族二人からヨシュアを引き離す機会を常に窺っているようだった。

(オレをカズン様から剥がして、どうするつもりなのだか。要は気に入らぬというだけじゃないか。下らない)

 そして、ユーグレンを含め、カズンたちとホーライル侯爵領へ小旅行に行ったことで、彼らがついに具体的な行動を起こした。



 朝、登校すると机の中に見知らぬ手紙が入っていた。

 放課後、校内の小会議室へ来られたし、と。

 手紙には、ユーグレンの取り巻きである宰相令息の名前があった。

 そしてやってきたヨシュアに、冷たく放たれた言葉は。



「リースト伯爵。いいかげん、ユーグレン殿下を弄ぶのはやめていただきたい」


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