王弟カズンの冒険前夜(全年齢向けファンタジー版)

真義あさひ

文字の大きさ
上 下
62 / 172
ブルー男爵令息グレンの真実

男爵令息に侯爵令息のボディーガード

しおりを挟む
 エルフィン学園長は伯爵だが、領地運営は家臣に任せており、学期中は学園の職員寮に住んでいる。

「ま、楽にして頂戴」

 リビングに通され、ソファに座ってしばらく待っていると、キッチンからエルフィンと彼付きの執事が軽食を持ってきた。
 料理だけリビングのテーブルに置かせて執事には席を外させる。

「簡単なもので悪いけど、お腹空いてるでしょ。食べながら話を聞いてくれる?」

 エルフィンが用意してくれたのは、玉子サラダのサンドイッチとミルクで伸ばした缶詰の濃縮スープだった。スープは手に取って食べやすいようマグカップに入れられ、スプーンが添えられている。
 もう日も暮れて、時刻は夜だ。言われてみれば街中を疾走してきて、グレンもライルもかなり空腹だった。自覚するとますます腹が減ってくる。

「お。これうちの領地の缶詰じゃん」

 アサリの剥き身と細かく刻んだ玉ねぎ、ジャガイモなどがホワイトソースベースで煮込まれた、クラムチャウダー系のミルクスープだ。

 アサリなどの二枚貝は、漁港のあるホーライル侯爵領の名産品のひとつだった。
 濃いめの味付けで濃縮された缶詰で、材料が新鮮なうちに加工されていてミルクや好みのスープベースで伸ばして加熱すればすぐ食べられることから、アケロニア王国では貴賤を問わず一般に普及している。

「ホーライル侯爵領産の貝入りのやつ好きなのよう。お気に入りの缶開けたの、食べてね」

 しばし、エルフィンも一緒になってサンドイッチとミルクスープを黙々と食す。
 缶詰スープは品質の安定したおいしさだし、サンドイッチに挟まれた玉子サラダがまたものすごく美味い。

「このサンドイッチ美味しいでしょ。カズン君がコツを教えてくれたの、茹で卵とマヨネーズに、ちょっとだけ辛子入れると味が引き締まるんですって。塩胡椒やハーブ入れるならともかく、その発想はなかったわー」



 それで、どんな説教が来るかと身構えていたグレンとライルだったが。

「まあ、何でこんな時間に学園にいたのかは聞かないわ。ちょうど二人に話したいことがあったから、来てもらったの」

 食事がひと段落ついた頃を見計らって、キッチンから執事が食後のお茶を入れに来た。
 また執事が下がった後で、エルフィンがそう切り出してきた。

「多分もう大丈夫だとは思うんだけどね。ドマ伯爵令息ナイサーの関係者が、まだ学園内にいるかもしれないの。彼が騎士団に拘束されたことで、逆恨みする奴らが出ないとも限らないのよね」
「あの野郎、ほんと後引きやがるな」
「まったくだわ。学園側もその都度対処してきたつもりだけど、困ったものよ」

 白くしなやかな指先が、ティーカップの持ち手を掴む。

「でね。ライル君なら自分のことは自分で守れるでしょ。グレン君はどう?」
「……ボクも最低限の身体強化は使えます。でもボクより魔力の強い大柄な相手に来られると、ちょっと」
「そうよね。それで、提案なんだけど」

 しばらくの間、ライルにはグレンの護衛をするようエルフィンは提案してきた。

「もちろん学年が違うし、校内にいる間、できる範囲だけでいいの。でも高位貴族のライル君が近くにいれば、色々と牽制になるから。ね? お願い」

 お願い、と言いながら実質命令なのは明らかだった。
 グレンとライルは互いに顔を見合わせ、しかしグレンの方からすぐに顔を逸らされた。

「護衛なんて、」
「わかった。このライル・ホーライル、責任を持ってブルー男爵令息グレンの護衛を務める」

 護衛なんて不要だ、と言いかけたグレンの台詞に被せて、ライルが勝手に請け負ってしまった。



 それから学園長の部屋を辞して、グレンはライルに自宅まで送られることになった。
 王都の大通りを徒歩で。

「ヨシュア先輩のこと、部屋に置いてきちゃったんです。怒ってるかなあ」
「ん? あいつなら平気だろ。ヨシュアもお前のこと心配してたんだ。カズンもな」
「……はい」

 ブルー男爵の商会まで戻ると受付には妹のカレンがいて、既にヨシュアは帰宅した後だという。
 妹の様子がどこかぎこちない。

(あ、これひょっとして、ライル先輩だけじゃなくてカレンにも聞かれてたやつ……?)

 隠しておきたかったが、カレンに知られたということは仲の良い両親にも筒抜けだろう。
 余計な心配をかけたくなかったが、どうにも上手くいかないものだとグレンは嘆息するのだった。


しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

処理中です...