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憧れの冒険者活動へGO!
ブルー男爵領の生チーズが美味しすぎた
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ドマ伯爵令息ナイサーの事件の後。
恫喝被害に遭っていたピンクブロンドの髪と水色の瞳を持つ美少年、ブルー男爵令息グレンは、学園でカズンたち世話になった上級生たちと昼食を取る機会が多くなった。
ちょうど今回は、同じクラスのカズンとヨシュア、それに他クラスの友人ライルが合流し、更にちゃっかりヨシュア目当てのユーグレン王子まで加わってのランチタイムである。
「うわーカズン先輩だけでなく王子様まで一緒とか、豪華なメンバーですね!」
王族に高位貴族、称号持ち有名人と、現在の学園での有名人勢揃いだった。
自然と食堂内の視線が集まるが、こういうのは皆慣れっこだ。
グレン本人は1年生だが、ナイサーのような柄の悪い生徒に絡まれていたせいで、クラスメイトや同学年の生徒たちとは、少し距離ができて遠巻きにされてしまっている。
変な噂が消えるまでは、学園の有名人でもあるカズンらと一緒にいさせてほしいとのことだ。噂で噂を薄める戦術らしい。
とはいえグレンは食堂に来てもスープや飲み物を頼むだけで、昼食は持参したランチバスケットのサンドイッチを食べている。
「食堂のランチも美味しいけど、バターとチーズはうちのが一番ですから」
グレンのブルー男爵家は商会を王都で経営する他、王都郊外にささやかな領地を国から賜っている。
そこでは主に乳牛の飼育を行っており、名産品はチーズとバターだ。
小柄で華奢な体格の割にグレンは健啖家だ。その身体のどこに入るのかという量を食べる。
バスケットの中身はスライスした大量のバゲットとバターの瓶、チーズ類、トマトなど生野菜いくつかとナイフと紙ナプキン、塩とオリーブオイルの小瓶だ。
シンプル過ぎる昼食だったが、あまりにも旨そうに食べるものだから、カズンたちは誰もが目を奪われた。
「おや、気になります? 少し食べてみますか?」
と分けてくれることになり、それぞれ少量ずついただくことにした。
グレンはカウンターから皿を貰って来て、上に1センチほどにスライスしたバゲットを人数分並べた。
そこに薄く輪切りにしたトマトを一枚ずつ。
更に上に、これまたスライスした白い生チーズを載せ、小瓶から緑鮮やかなオリーブオイルをひと回し。
最後に塩をパラリと降って完成だ。
「家ならハーブものせるとこですが、まあどうぞ。召し上がれ」
まずは物品鑑定スキルを持つヨシュアが料理を鑑定した。
毒物表記はない。カズンもユーグレン王子も、毒味は不要ということだ。
頷いて見せたヨシュアを確認してから、一斉にバゲットに手を伸ばす。
一口囓った瞬間、世界が変わった。
何てことのない、朝に焼いただろうバゲット、赤く熟れたトマト、真っ白な生チーズ、オリーブオイルに少しの塩。
すべてが渾然となって口の中で奏でるハーモニーの素晴らしさよ。
「うっま! 何だこれ、無茶苦茶うまッ」
大きな一口で食べきったライルが叫ぶ。
彼よりは品の良いカズン、ヨシュア、ユーグレンの三人はまだ半分残していたが、やはり同じように美味に悶えていた。
口に入れてすぐ感じるのは、新鮮なトマトの甘みと酸味。そして僅かに感じるオリーブオイルの苦み。
咀嚼していくと、白い生チーズことモッツァレラチーズのミルキーさと、引き締めるような塩が合わさってえもいわれぬ味わいとなって舌を悦ばせた。
是非、屋敷や王宮まで配達して欲しいと頼む一同に、自領の名産品を気に入って貰えて誇らしげだったグレンは、だがすぐに残念そうな顔になった。
「喜んで! ……と言いたいところなのですが……。実はこの生チーズ、日持ちがしなくて、領地から王都まで運ぶのが困難なんです。今日は、うちの妹の発明品を利用しての輸送テストを兼ねて持ってきただけで」
グレンの異母妹カレンはまだ十代半ばの転生者の発明家で魔導具師だ。
ブルー男爵家の商会で受付の手伝いをしながら、生活に密着した魔導具開発に日々勤しんでいる。
グレンは生チーズが入っていた口の広いガラス瓶をバスケットの中から持ち上げて、一同に見せた。
白く濁った、チーズ作りのときにできる上澄み液の乳清ホエイが入った瓶は一見普通のガラス瓶だったが、蓋部分にぐるりと金属コイルが巻き付いている。
「触ってみてください。冷たいでしょう?」
グレンが言うまま、瓶に触れてみる。確かに冷たい。
「これは氷魔術の応用だね。凍らない程度に冷やしてるのか。魔力源は……すごく小さいけど、ちゃんと魔石を組み込んでる。すごいね」
魔法剣士として魔力使いに一家言あるヨシュアが、すぐに構造を看破した。
「ええ。ただ、魔石と金属コイルの接合部を見てください。ごく微量だけどミスリル銀を使ってて」
「えっ、ミスリル!?」
ヨシュアだけではない、これにはカズンもライルもユーグレンも全員驚いた。
ミスリル銀は、この世界において銀の上位物質とされているレア金属だ。
カズンの前世である日本の価値でいうと、円環大陸共通の大金貨が20万円前後。その大金貨1枚でも1グラム買えないぐらい高価である。
「チーズ入れるだけの瓶にミスリル使うとか馬鹿だろ!」
「ですよねー。ボクもそう思います。でもそのミスリル銀のお陰で、こうして皆さん、美味しく生チーズ食べれたでしょ?」
論破されてライルが詰まる。この後輩はとにかく口が良く回るのだ。
あとライルからすると、以前のハニートラップ事件のとき(当時は相手が女生徒アナ・ペイルだと騙されていたとはいえ)少なからず可愛いと思っていた相手だけに、今でもちょっと弱い。いや、かなり弱い。
「なるほど、つまり生チーズ輸送のガラス瓶に使うミスリル銀が高価すぎて、王都での販売まで漕ぎ着けられないというわけか」
「そういうことです、ユーグレン殿下。現地のブルー男爵領でなら子供の握り拳一個分がせいぜい銅貨3枚(約300円)なのに、王都まで持ってくるとガラス瓶込みで大金貨1枚(約20万円)出しても足りないですから。全然採算取れないってやつです」
ガラス瓶のガラス部分は魔術で強化することが可能だ。
ということは、ガラス瓶のほうは問題なく再利用できるということである。
「ガラス瓶のほうを大きくして、一度に輸送できる量を増やせば、瓶の材料費の回収も早いのではないか?」
素朴な疑問を口にしたカズンに、グレンは「甘い!」と斬って捨てた。
鋭い突っ込みに、「あ、ああ……」とカズンはずり落ちそうになる黒縁眼鏡を押さえた。
「ガラス瓶のサイズを大きくすると、その分だけ蓋に使っているコイル部分も増えるの! 増えたコイルの長さ分だけ、魔石との接続部分に使うミスリル銀も増えるんだ!」
そんなわけで、ミスリル銀をもっと大量に入手しない限り、生チーズを王都で販売することはできないそうだ。
ちなみに、同じような冷却瓶なら魔法と魔術のあるこの国なら他で実用化されていてもおかしくなさそうなものだが、実はまだない。
アケロニア王国の食料事情は、基本的に生産地で採れたものを生産地でそのまま消費する、いわゆる地産地消。生鮮食品は特にその傾向がある。
王都以外で生産されたり獲ったりした食料品で王都まで流通しているものは、ある程度の期間、保存の利くものばかりだった。
「今のボクと妹の小遣いじゃ、ミスリル銀はなかなか購入できないし。この瓶に使ったミスリル銀は、父さんの礼装用のカフスをちょっとだけ削らせて貰ったやつなんだ。……妹が、こっそり」
魔導具師の妹カレンがまた発明に使いたくて削りまくり、カフスが消失する前に調達したいのだそうだ。
一同、次にブルー男爵に会ったときは、礼装の袖のカフスに注目してしまいそうだった。
恫喝被害に遭っていたピンクブロンドの髪と水色の瞳を持つ美少年、ブルー男爵令息グレンは、学園でカズンたち世話になった上級生たちと昼食を取る機会が多くなった。
ちょうど今回は、同じクラスのカズンとヨシュア、それに他クラスの友人ライルが合流し、更にちゃっかりヨシュア目当てのユーグレン王子まで加わってのランチタイムである。
「うわーカズン先輩だけでなく王子様まで一緒とか、豪華なメンバーですね!」
王族に高位貴族、称号持ち有名人と、現在の学園での有名人勢揃いだった。
自然と食堂内の視線が集まるが、こういうのは皆慣れっこだ。
グレン本人は1年生だが、ナイサーのような柄の悪い生徒に絡まれていたせいで、クラスメイトや同学年の生徒たちとは、少し距離ができて遠巻きにされてしまっている。
変な噂が消えるまでは、学園の有名人でもあるカズンらと一緒にいさせてほしいとのことだ。噂で噂を薄める戦術らしい。
とはいえグレンは食堂に来てもスープや飲み物を頼むだけで、昼食は持参したランチバスケットのサンドイッチを食べている。
「食堂のランチも美味しいけど、バターとチーズはうちのが一番ですから」
グレンのブルー男爵家は商会を王都で経営する他、王都郊外にささやかな領地を国から賜っている。
そこでは主に乳牛の飼育を行っており、名産品はチーズとバターだ。
小柄で華奢な体格の割にグレンは健啖家だ。その身体のどこに入るのかという量を食べる。
バスケットの中身はスライスした大量のバゲットとバターの瓶、チーズ類、トマトなど生野菜いくつかとナイフと紙ナプキン、塩とオリーブオイルの小瓶だ。
シンプル過ぎる昼食だったが、あまりにも旨そうに食べるものだから、カズンたちは誰もが目を奪われた。
「おや、気になります? 少し食べてみますか?」
と分けてくれることになり、それぞれ少量ずついただくことにした。
グレンはカウンターから皿を貰って来て、上に1センチほどにスライスしたバゲットを人数分並べた。
そこに薄く輪切りにしたトマトを一枚ずつ。
更に上に、これまたスライスした白い生チーズを載せ、小瓶から緑鮮やかなオリーブオイルをひと回し。
最後に塩をパラリと降って完成だ。
「家ならハーブものせるとこですが、まあどうぞ。召し上がれ」
まずは物品鑑定スキルを持つヨシュアが料理を鑑定した。
毒物表記はない。カズンもユーグレン王子も、毒味は不要ということだ。
頷いて見せたヨシュアを確認してから、一斉にバゲットに手を伸ばす。
一口囓った瞬間、世界が変わった。
何てことのない、朝に焼いただろうバゲット、赤く熟れたトマト、真っ白な生チーズ、オリーブオイルに少しの塩。
すべてが渾然となって口の中で奏でるハーモニーの素晴らしさよ。
「うっま! 何だこれ、無茶苦茶うまッ」
大きな一口で食べきったライルが叫ぶ。
彼よりは品の良いカズン、ヨシュア、ユーグレンの三人はまだ半分残していたが、やはり同じように美味に悶えていた。
口に入れてすぐ感じるのは、新鮮なトマトの甘みと酸味。そして僅かに感じるオリーブオイルの苦み。
咀嚼していくと、白い生チーズことモッツァレラチーズのミルキーさと、引き締めるような塩が合わさってえもいわれぬ味わいとなって舌を悦ばせた。
是非、屋敷や王宮まで配達して欲しいと頼む一同に、自領の名産品を気に入って貰えて誇らしげだったグレンは、だがすぐに残念そうな顔になった。
「喜んで! ……と言いたいところなのですが……。実はこの生チーズ、日持ちがしなくて、領地から王都まで運ぶのが困難なんです。今日は、うちの妹の発明品を利用しての輸送テストを兼ねて持ってきただけで」
グレンの異母妹カレンはまだ十代半ばの転生者の発明家で魔導具師だ。
ブルー男爵家の商会で受付の手伝いをしながら、生活に密着した魔導具開発に日々勤しんでいる。
グレンは生チーズが入っていた口の広いガラス瓶をバスケットの中から持ち上げて、一同に見せた。
白く濁った、チーズ作りのときにできる上澄み液の乳清ホエイが入った瓶は一見普通のガラス瓶だったが、蓋部分にぐるりと金属コイルが巻き付いている。
「触ってみてください。冷たいでしょう?」
グレンが言うまま、瓶に触れてみる。確かに冷たい。
「これは氷魔術の応用だね。凍らない程度に冷やしてるのか。魔力源は……すごく小さいけど、ちゃんと魔石を組み込んでる。すごいね」
魔法剣士として魔力使いに一家言あるヨシュアが、すぐに構造を看破した。
「ええ。ただ、魔石と金属コイルの接合部を見てください。ごく微量だけどミスリル銀を使ってて」
「えっ、ミスリル!?」
ヨシュアだけではない、これにはカズンもライルもユーグレンも全員驚いた。
ミスリル銀は、この世界において銀の上位物質とされているレア金属だ。
カズンの前世である日本の価値でいうと、円環大陸共通の大金貨が20万円前後。その大金貨1枚でも1グラム買えないぐらい高価である。
「チーズ入れるだけの瓶にミスリル使うとか馬鹿だろ!」
「ですよねー。ボクもそう思います。でもそのミスリル銀のお陰で、こうして皆さん、美味しく生チーズ食べれたでしょ?」
論破されてライルが詰まる。この後輩はとにかく口が良く回るのだ。
あとライルからすると、以前のハニートラップ事件のとき(当時は相手が女生徒アナ・ペイルだと騙されていたとはいえ)少なからず可愛いと思っていた相手だけに、今でもちょっと弱い。いや、かなり弱い。
「なるほど、つまり生チーズ輸送のガラス瓶に使うミスリル銀が高価すぎて、王都での販売まで漕ぎ着けられないというわけか」
「そういうことです、ユーグレン殿下。現地のブルー男爵領でなら子供の握り拳一個分がせいぜい銅貨3枚(約300円)なのに、王都まで持ってくるとガラス瓶込みで大金貨1枚(約20万円)出しても足りないですから。全然採算取れないってやつです」
ガラス瓶のガラス部分は魔術で強化することが可能だ。
ということは、ガラス瓶のほうは問題なく再利用できるということである。
「ガラス瓶のほうを大きくして、一度に輸送できる量を増やせば、瓶の材料費の回収も早いのではないか?」
素朴な疑問を口にしたカズンに、グレンは「甘い!」と斬って捨てた。
鋭い突っ込みに、「あ、ああ……」とカズンはずり落ちそうになる黒縁眼鏡を押さえた。
「ガラス瓶のサイズを大きくすると、その分だけ蓋に使っているコイル部分も増えるの! 増えたコイルの長さ分だけ、魔石との接続部分に使うミスリル銀も増えるんだ!」
そんなわけで、ミスリル銀をもっと大量に入手しない限り、生チーズを王都で販売することはできないそうだ。
ちなみに、同じような冷却瓶なら魔法と魔術のあるこの国なら他で実用化されていてもおかしくなさそうなものだが、実はまだない。
アケロニア王国の食料事情は、基本的に生産地で採れたものを生産地でそのまま消費する、いわゆる地産地消。生鮮食品は特にその傾向がある。
王都以外で生産されたり獲ったりした食料品で王都まで流通しているものは、ある程度の期間、保存の利くものばかりだった。
「今のボクと妹の小遣いじゃ、ミスリル銀はなかなか購入できないし。この瓶に使ったミスリル銀は、父さんの礼装用のカフスをちょっとだけ削らせて貰ったやつなんだ。……妹が、こっそり」
魔導具師の妹カレンがまた発明に使いたくて削りまくり、カフスが消失する前に調達したいのだそうだ。
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