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海の街へ飯テロ旅行
ヨシュア・ファンクラブの公認
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さて、最後のトリはやはりユーグレン王子だろう。
カズンが振る話題は決まっていた。
「そういえば、ユーグレン殿下からヨシュアに報告があるそうだ。ですよね、殿下?」
いい加減、学園で非公認のままのファンクラブを、ヨシュア本人に認知してもらい公認をもぎ取るべきだ。
しかし話を振られたユーグレンは、ソファに座りながら青ざめて冷や汗を流している。
「い、いや……そのな、それは……その……」
いつも年に見合わぬ泰然とした様子を見せているのがユーグレン王子だ。
そんな彼としては珍しいほど、狼狽えている。
だが、睨んでくるカズンに逃げられないと覚悟を決めて、ヨシュアに向き直った。
「リースト伯爵。私たちが1年生のとき、君は竜を倒しただろう?」
「ええ、ユーグレン殿下。貴重な機会に恵まれました。あ、ヨシュアで結構ですよ、今さらですし」
「ありがとう、ヨシュア。……あのとき、君の勇姿に感銘を受けた者たちが中心となって、君のファンクラブを設立したんだ」
頑張れユーグレン、めちゃくちゃ頑張れ! と内心でカズンは応援しまくった。
これがヨシュアのいないアルトレイ女大公邸でなら、ユーグレンはとっくに「ヨシュアが尊い、尊すぎて言葉が出ない!」と天を仰いで、いるかどうかもわからない神に祈りを捧げているところだ。
かなりユーグレンは頑張っている。これでも。
カズンにはわかる。今握り締めているその拳の中が汗まみれであることを。
ついでにいえば、声が震えないよう必死で腹に力を込めていることまで、筒抜けだ。
「すぐ、君に許可を貰いに行くべきところ、その……君はあの後、倒れてしばらく学園を休んでしまっただろう?」
「はい。お恥ずかしながら、魔力が枯渇しかけてしまって」
「うん、それは君のせいじゃない。君のお陰で私たち生徒は皆助かったのだから。……それで、だな。ファンクラブの会長は、私が代表して就任させてもらっているんだ」
「殿下がですか?」
「……うん。機を逃してしまって、君の許可を貰い損ねたまま今年になってしまった。この旅行を機に、ファンクラブを公認してもらえるかな?」
ヨシュアは笑顔で承諾し、この件については休み明け、生徒会室で書類にサインしてもらうことで話がついた。
「はあ、ようやく話がつけられましたね。もう最高学年ですよ、このままファンクラブ会長であることを隠したままいくのかと、気を揉んでたのなんの」
「ヨシュアのファンクラブがあるってのは知ってたけど、許可なしの非公認だったのか。何でそのまま放置してたんだ? 殿下」
愚痴を漏らしたカズンと、追撃するようなライルに、ユーグレンは言葉を詰まらせた。
だが、ここは誤魔化さずすべて話すべきだと判断したようだ。
「私も忙しくて、というのは言い訳なのだが。後、伝え聞いたところによると、君は竜討伐に関して王家に不満があると耳にしたものだから、話しかけ辛かったんだ」
これはカズンも初耳だった。
「どうなんだ? ヨシュア」
「んん……不満というか……」
形の良い眉をしかめている。見るからに機嫌が悪そうだ。
普段は麗しの美貌に常に微笑を湛えているヨシュアが不機嫌な顔になると、結構怖い。
既にユーグレンなど内心でビビりまくっているのが、付き合いの長いカズンにはわかった。
「あのとき、竜にとどめを刺したのはオレじゃないですか。それで竜殺しの称号と、竜の心臓にあった魔石は報奨として頂戴しましたが……一番欲しかったものは貰えなかったのです」
「「「えっ!?」」」
「まさか、報奨金のことか? 大金貨50枚は決して少ない額ではなかったはず……」
この世界で、貨幣は円環大陸上のすべての国家で共通貨幣を用いる。
大金貨は、日本円でいうなら1枚20万円以上に相当する。単純に計算しても大金貨50枚なら1000万相当だ。
「もう、違いますカズン様! オレが欲しかったのは竜の牙と爪です! リースト伯爵家は魔法と魔術の家ですよ、素材になる材料を頂戴できるほうが嬉しかったんです!」
「ああ、そういう……」
「それに、オレが目を覚ました頃には竜退治の宴会も何日も前にとっくに終わった後でしたし。竜肉のロースト、少しぐらい残しておいてくれても良かったのに……!」
アケロニア王国の貴族家には、各家それぞれに名物料理がある。
リースト伯爵家はサーモンパイの赤ワインソース添え、ホーライル侯爵家は今日の夕飯で饗された魚介のサフランスープ炊き込みご飯(パエリア)。
そして王家が、ローストビーフならぬローストドラゴンだ。
半生で外はこんがり、中は血が滴らぬ程度の絶妙な火加減で焼き上げ、薄くスライスして建国当初から続く秘伝のガーリックソースで食す。
竜はトカゲに似た外見から、爬虫類系の淡泊な味と思われがちだが、実際は極上の牛肉をはるかに上回る美味な赤肉として知られている。
竜が討伐できたときしか食せない珍味でもある。
「自宅の自室で目を覚ましたら、あの後妻の連れ子が『竜旨かったぜ、ごちそーさん!』などと言いに来て。どれだけオレが悔しい思いをしたことか……!」
「お、おう」
「……それは確かに悔しいだろうな」
ユーグレンの脳裏に、午前中に自らが引導を渡してきたヨシュアの元義弟もどきアベルの顔が浮かぶ。
報告書を読んだときも感じたことだが、日常からヨシュアに対する態度は相当悪かったようだ。
竜の牙と爪は、学園が受けた被害の補填のため売却されて、既に使われている。
ただ、竜討伐の記念として一部が学園側に納められている。
学園長に話を通せば、竜を討伐した本人が望むなら譲渡してもらえるだろう、とユーグレンが見解を示したことで、ひとまずこの件は週明けに持ち越しとなった。
カズンが振る話題は決まっていた。
「そういえば、ユーグレン殿下からヨシュアに報告があるそうだ。ですよね、殿下?」
いい加減、学園で非公認のままのファンクラブを、ヨシュア本人に認知してもらい公認をもぎ取るべきだ。
しかし話を振られたユーグレンは、ソファに座りながら青ざめて冷や汗を流している。
「い、いや……そのな、それは……その……」
いつも年に見合わぬ泰然とした様子を見せているのがユーグレン王子だ。
そんな彼としては珍しいほど、狼狽えている。
だが、睨んでくるカズンに逃げられないと覚悟を決めて、ヨシュアに向き直った。
「リースト伯爵。私たちが1年生のとき、君は竜を倒しただろう?」
「ええ、ユーグレン殿下。貴重な機会に恵まれました。あ、ヨシュアで結構ですよ、今さらですし」
「ありがとう、ヨシュア。……あのとき、君の勇姿に感銘を受けた者たちが中心となって、君のファンクラブを設立したんだ」
頑張れユーグレン、めちゃくちゃ頑張れ! と内心でカズンは応援しまくった。
これがヨシュアのいないアルトレイ女大公邸でなら、ユーグレンはとっくに「ヨシュアが尊い、尊すぎて言葉が出ない!」と天を仰いで、いるかどうかもわからない神に祈りを捧げているところだ。
かなりユーグレンは頑張っている。これでも。
カズンにはわかる。今握り締めているその拳の中が汗まみれであることを。
ついでにいえば、声が震えないよう必死で腹に力を込めていることまで、筒抜けだ。
「すぐ、君に許可を貰いに行くべきところ、その……君はあの後、倒れてしばらく学園を休んでしまっただろう?」
「はい。お恥ずかしながら、魔力が枯渇しかけてしまって」
「うん、それは君のせいじゃない。君のお陰で私たち生徒は皆助かったのだから。……それで、だな。ファンクラブの会長は、私が代表して就任させてもらっているんだ」
「殿下がですか?」
「……うん。機を逃してしまって、君の許可を貰い損ねたまま今年になってしまった。この旅行を機に、ファンクラブを公認してもらえるかな?」
ヨシュアは笑顔で承諾し、この件については休み明け、生徒会室で書類にサインしてもらうことで話がついた。
「はあ、ようやく話がつけられましたね。もう最高学年ですよ、このままファンクラブ会長であることを隠したままいくのかと、気を揉んでたのなんの」
「ヨシュアのファンクラブがあるってのは知ってたけど、許可なしの非公認だったのか。何でそのまま放置してたんだ? 殿下」
愚痴を漏らしたカズンと、追撃するようなライルに、ユーグレンは言葉を詰まらせた。
だが、ここは誤魔化さずすべて話すべきだと判断したようだ。
「私も忙しくて、というのは言い訳なのだが。後、伝え聞いたところによると、君は竜討伐に関して王家に不満があると耳にしたものだから、話しかけ辛かったんだ」
これはカズンも初耳だった。
「どうなんだ? ヨシュア」
「んん……不満というか……」
形の良い眉をしかめている。見るからに機嫌が悪そうだ。
普段は麗しの美貌に常に微笑を湛えているヨシュアが不機嫌な顔になると、結構怖い。
既にユーグレンなど内心でビビりまくっているのが、付き合いの長いカズンにはわかった。
「あのとき、竜にとどめを刺したのはオレじゃないですか。それで竜殺しの称号と、竜の心臓にあった魔石は報奨として頂戴しましたが……一番欲しかったものは貰えなかったのです」
「「「えっ!?」」」
「まさか、報奨金のことか? 大金貨50枚は決して少ない額ではなかったはず……」
この世界で、貨幣は円環大陸上のすべての国家で共通貨幣を用いる。
大金貨は、日本円でいうなら1枚20万円以上に相当する。単純に計算しても大金貨50枚なら1000万相当だ。
「もう、違いますカズン様! オレが欲しかったのは竜の牙と爪です! リースト伯爵家は魔法と魔術の家ですよ、素材になる材料を頂戴できるほうが嬉しかったんです!」
「ああ、そういう……」
「それに、オレが目を覚ました頃には竜退治の宴会も何日も前にとっくに終わった後でしたし。竜肉のロースト、少しぐらい残しておいてくれても良かったのに……!」
アケロニア王国の貴族家には、各家それぞれに名物料理がある。
リースト伯爵家はサーモンパイの赤ワインソース添え、ホーライル侯爵家は今日の夕飯で饗された魚介のサフランスープ炊き込みご飯(パエリア)。
そして王家が、ローストビーフならぬローストドラゴンだ。
半生で外はこんがり、中は血が滴らぬ程度の絶妙な火加減で焼き上げ、薄くスライスして建国当初から続く秘伝のガーリックソースで食す。
竜はトカゲに似た外見から、爬虫類系の淡泊な味と思われがちだが、実際は極上の牛肉をはるかに上回る美味な赤肉として知られている。
竜が討伐できたときしか食せない珍味でもある。
「自宅の自室で目を覚ましたら、あの後妻の連れ子が『竜旨かったぜ、ごちそーさん!』などと言いに来て。どれだけオレが悔しい思いをしたことか……!」
「お、おう」
「……それは確かに悔しいだろうな」
ユーグレンの脳裏に、午前中に自らが引導を渡してきたヨシュアの元義弟もどきアベルの顔が浮かぶ。
報告書を読んだときも感じたことだが、日常からヨシュアに対する態度は相当悪かったようだ。
竜の牙と爪は、学園が受けた被害の補填のため売却されて、既に使われている。
ただ、竜討伐の記念として一部が学園側に納められている。
学園長に話を通せば、竜を討伐した本人が望むなら譲渡してもらえるだろう、とユーグレンが見解を示したことで、ひとまずこの件は週明けに持ち越しとなった。
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