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海の街へ飯テロ旅行

いざホーライル侯爵領へ

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 侍女から、待ち人は間もなく到着すると報告を受けてから数分後。
 現れたユーグレン王子に、さすがにライルもヨシュアも驚いていた。

「え、な、何で王子殿下が!?」

 既に自身のやらかした婚約破棄事件と転生者同士と判明して以降、王族にはカズンで慣れていたライルも、驚いてソファから飛び上がっていた。

「ああ、実は……カズンから話を聞いて、な」

 ちらり、とカズンを見てくるユーグレンに、仕方ないなと軽く頷いて見せる。

「そういうことだ。ユーグレン殿下も自由に遊びに行けるのは、学園を卒業するまでだからな。良い経験になるのではないかと、誘ってみたのだ」
「何だ、そっか……。あ、だから『一人追加予定』だったんだな! 焦ったぜ、それなら最初から言っておいてくれればいいのによ!」

 実際は、ユーグレンを連れて行けるか、国王テオドロスの許可を取れるかの確率が半々だったので、確実なことは言えなかったというのが正しい。

 この場の四人とも、アケロニア王国の王族と貴族たちなので、既に互いに面識はある。
 だが、ライルにとって親しく付き合っているカズンと、最近カズン絡みで雑談するようになったヨシュアはともかく、王子のユーグレンとはさほど馴染みがない。

「略式で失礼します。ユーグレン王子殿下にご挨拶申し上げます。ホーライル侯爵家のライルと申します。どうぞライルとお呼びください。よろしくお願い申し上げます」

 軽く胸に手を当てて、略式礼の形を取った。
 王族など身分が上の者への正式な挨拶では膝をつくが、この後すぐ出かけるのだ。また同年代の同じ学園生で、畏まった挨拶にこだわる必要もない。

「うむ、君のことはカズンから聞いている。堅苦しいことは抜きにして、私もユーグレンと呼んでくれ」
「はは……色々お恥ずかしい話でお耳汚しをしてしまったかと。では、ユーグレン殿下とお呼び致します」

 と、ここまでが貴族社会のセオリー通りのやりとりだ。
 ひとまず、ここまでやっておけば、あとは互いに羽目を外さぬ程度で良いのである。



 さて、王宮内の転移陣は、アケロニア王国内の主立った貴族領内の領事館を繋ぐように双方に設置されている。
 アケロニア王国はどの地方へも早馬で三日も駆ければ到着する程度の広さだが、魔法や魔術が発展した現代では、こうして所定の料金を支払って瞬間的に転移できる転移陣を使うことも多い。

 現地のホーライル侯爵領では、侯爵令息のライル、王弟カズン、リースト伯爵ヨシュアの他に一人の計四人が来訪すると事前に連絡を受けていた。
 その中に、まさかのユーグレン王子が混ざっていて、出迎えに来ていたホーライル侯爵家の家令、領事館の領事や職員たちは大騒ぎになった。

(しまった、やはりいきなりユーグレンを連れて来るとこうなるか)

 内心慌てたカズンだったが、顔には出さず、軽く手で制すると一同はすぐに口を閉じ、部屋は静まりかえった。
 しばし誰もが無言だった。沈黙の間を効果的に使うよう、更に数秒待ってからカズンが口を開く。

「混乱させて済まない。今回はユーグレン殿下も学生らしく、お忍びで遊びに来られただけなのだ。暖かく見守ってもらえるだろうか?」
「お、お忍びでしたか! それならもちろん、はい!」

 家令と領事が胸を撫で下ろしている。
 お忍びとは、即ち非公式ということだ。言葉は悪いが、非公式で王子が何か問題を起こしたり、巻き込まれたりしても現地で迎えた者たちが責任を負わされることもない。

「しかし、お忍びとはいえユーグレン殿下や皆様、護衛はどうなされたので?」

 ホーライル侯爵家の初老の家令が、きっちり確認してくる。
 特にユーグレンはいつも護衛を兼ねて連れている、補佐官候補の生徒を今回は同伴させていなかった。

「今回は二日間だけだし、出歩くところも決まっているのだ。護衛ならホーライル侯爵令息のライル君と、リースト伯爵で魔法剣士、竜殺しの称号持ちのヨシュア君がいる。過度な護衛は必要ないだろう」
「そ、それは確かに……!」

 一同に紹介されて、ライルとヨシュアは軽く微笑んで見せた。こういう場合は頭を下げるのでなく貴族らしく笑っていればいいのだ。

 こう見えてライルは騎士団副団長の父や身内の騎士たちから指導を受け、学生ながら剣士として確かな腕を持つことが知られている。

 ヨシュアは竜殺しの称号を授与されたとき、国内の新聞で大々的に紹介された過去がある。貴族や平民でも有力者クラスならよく知っているだろう。

 一通り今回の小旅行の理由を説明し直して、何とか事なきを得た。



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