25 / 172
海の街へ飯テロ旅行
いざホーライル侯爵領へ
しおりを挟む
侍女から、待ち人は間もなく到着すると報告を受けてから数分後。
現れたユーグレン王子に、さすがにライルもヨシュアも驚いていた。
「え、な、何で王子殿下が!?」
既に自身のやらかした婚約破棄事件と転生者同士と判明して以降、王族にはカズンで慣れていたライルも、驚いてソファから飛び上がっていた。
「ああ、実は……カズンから話を聞いて、な」
ちらり、とカズンを見てくるユーグレンに、仕方ないなと軽く頷いて見せる。
「そういうことだ。ユーグレン殿下も自由に遊びに行けるのは、学園を卒業するまでだからな。良い経験になるのではないかと、誘ってみたのだ」
「何だ、そっか……。あ、だから『一人追加予定』だったんだな! 焦ったぜ、それなら最初から言っておいてくれればいいのによ!」
実際は、ユーグレンを連れて行けるか、国王テオドロスの許可を取れるかの確率が半々だったので、確実なことは言えなかったというのが正しい。
この場の四人とも、アケロニア王国の王族と貴族たちなので、既に互いに面識はある。
だが、ライルにとって親しく付き合っているカズンと、最近カズン絡みで雑談するようになったヨシュアはともかく、王子のユーグレンとはさほど馴染みがない。
「略式で失礼します。ユーグレン王子殿下にご挨拶申し上げます。ホーライル侯爵家のライルと申します。どうぞライルとお呼びください。よろしくお願い申し上げます」
軽く胸に手を当てて、略式礼の形を取った。
王族など身分が上の者への正式な挨拶では膝をつくが、この後すぐ出かけるのだ。また同年代の同じ学園生で、畏まった挨拶にこだわる必要もない。
「うむ、君のことはカズンから聞いている。堅苦しいことは抜きにして、私もユーグレンと呼んでくれ」
「はは……色々お恥ずかしい話でお耳汚しをしてしまったかと。では、ユーグレン殿下とお呼び致します」
と、ここまでが貴族社会のセオリー通りのやりとりだ。
ひとまず、ここまでやっておけば、あとは互いに羽目を外さぬ程度で良いのである。
さて、王宮内の転移陣は、アケロニア王国内の主立った貴族領内の領事館を繋ぐように双方に設置されている。
アケロニア王国はどの地方へも早馬で三日も駆ければ到着する程度の広さだが、魔法や魔術が発展した現代では、こうして所定の料金を支払って瞬間的に転移できる転移陣を使うことも多い。
現地のホーライル侯爵領では、侯爵令息のライル、王弟カズン、リースト伯爵ヨシュアの他に一人の計四人が来訪すると事前に連絡を受けていた。
その中に、まさかのユーグレン王子が混ざっていて、出迎えに来ていたホーライル侯爵家の家令、領事館の領事や職員たちは大騒ぎになった。
(しまった、やはりいきなりユーグレンを連れて来るとこうなるか)
内心慌てたカズンだったが、顔には出さず、軽く手で制すると一同はすぐに口を閉じ、部屋は静まりかえった。
しばし誰もが無言だった。沈黙の間を効果的に使うよう、更に数秒待ってからカズンが口を開く。
「混乱させて済まない。今回はユーグレン殿下も学生らしく、お忍びで遊びに来られただけなのだ。暖かく見守ってもらえるだろうか?」
「お、お忍びでしたか! それならもちろん、はい!」
家令と領事が胸を撫で下ろしている。
お忍びとは、即ち非公式ということだ。言葉は悪いが、非公式で王子が何か問題を起こしたり、巻き込まれたりしても現地で迎えた者たちが責任を負わされることもない。
「しかし、お忍びとはいえユーグレン殿下や皆様、護衛はどうなされたので?」
ホーライル侯爵家の初老の家令が、きっちり確認してくる。
特にユーグレンはいつも護衛を兼ねて連れている、補佐官候補の生徒を今回は同伴させていなかった。
「今回は二日間だけだし、出歩くところも決まっているのだ。護衛ならホーライル侯爵令息のライル君と、リースト伯爵で魔法剣士、竜殺しの称号持ちのヨシュア君がいる。過度な護衛は必要ないだろう」
「そ、それは確かに……!」
一同に紹介されて、ライルとヨシュアは軽く微笑んで見せた。こういう場合は頭を下げるのでなく貴族らしく笑っていればいいのだ。
こう見えてライルは騎士団副団長の父や身内の騎士たちから指導を受け、学生ながら剣士として確かな腕を持つことが知られている。
ヨシュアは竜殺しの称号を授与されたとき、国内の新聞で大々的に紹介された過去がある。貴族や平民でも有力者クラスならよく知っているだろう。
一通り今回の小旅行の理由を説明し直して、何とか事なきを得た。
現れたユーグレン王子に、さすがにライルもヨシュアも驚いていた。
「え、な、何で王子殿下が!?」
既に自身のやらかした婚約破棄事件と転生者同士と判明して以降、王族にはカズンで慣れていたライルも、驚いてソファから飛び上がっていた。
「ああ、実は……カズンから話を聞いて、な」
ちらり、とカズンを見てくるユーグレンに、仕方ないなと軽く頷いて見せる。
「そういうことだ。ユーグレン殿下も自由に遊びに行けるのは、学園を卒業するまでだからな。良い経験になるのではないかと、誘ってみたのだ」
「何だ、そっか……。あ、だから『一人追加予定』だったんだな! 焦ったぜ、それなら最初から言っておいてくれればいいのによ!」
実際は、ユーグレンを連れて行けるか、国王テオドロスの許可を取れるかの確率が半々だったので、確実なことは言えなかったというのが正しい。
この場の四人とも、アケロニア王国の王族と貴族たちなので、既に互いに面識はある。
だが、ライルにとって親しく付き合っているカズンと、最近カズン絡みで雑談するようになったヨシュアはともかく、王子のユーグレンとはさほど馴染みがない。
「略式で失礼します。ユーグレン王子殿下にご挨拶申し上げます。ホーライル侯爵家のライルと申します。どうぞライルとお呼びください。よろしくお願い申し上げます」
軽く胸に手を当てて、略式礼の形を取った。
王族など身分が上の者への正式な挨拶では膝をつくが、この後すぐ出かけるのだ。また同年代の同じ学園生で、畏まった挨拶にこだわる必要もない。
「うむ、君のことはカズンから聞いている。堅苦しいことは抜きにして、私もユーグレンと呼んでくれ」
「はは……色々お恥ずかしい話でお耳汚しをしてしまったかと。では、ユーグレン殿下とお呼び致します」
と、ここまでが貴族社会のセオリー通りのやりとりだ。
ひとまず、ここまでやっておけば、あとは互いに羽目を外さぬ程度で良いのである。
さて、王宮内の転移陣は、アケロニア王国内の主立った貴族領内の領事館を繋ぐように双方に設置されている。
アケロニア王国はどの地方へも早馬で三日も駆ければ到着する程度の広さだが、魔法や魔術が発展した現代では、こうして所定の料金を支払って瞬間的に転移できる転移陣を使うことも多い。
現地のホーライル侯爵領では、侯爵令息のライル、王弟カズン、リースト伯爵ヨシュアの他に一人の計四人が来訪すると事前に連絡を受けていた。
その中に、まさかのユーグレン王子が混ざっていて、出迎えに来ていたホーライル侯爵家の家令、領事館の領事や職員たちは大騒ぎになった。
(しまった、やはりいきなりユーグレンを連れて来るとこうなるか)
内心慌てたカズンだったが、顔には出さず、軽く手で制すると一同はすぐに口を閉じ、部屋は静まりかえった。
しばし誰もが無言だった。沈黙の間を効果的に使うよう、更に数秒待ってからカズンが口を開く。
「混乱させて済まない。今回はユーグレン殿下も学生らしく、お忍びで遊びに来られただけなのだ。暖かく見守ってもらえるだろうか?」
「お、お忍びでしたか! それならもちろん、はい!」
家令と領事が胸を撫で下ろしている。
お忍びとは、即ち非公式ということだ。言葉は悪いが、非公式で王子が何か問題を起こしたり、巻き込まれたりしても現地で迎えた者たちが責任を負わされることもない。
「しかし、お忍びとはいえユーグレン殿下や皆様、護衛はどうなされたので?」
ホーライル侯爵家の初老の家令が、きっちり確認してくる。
特にユーグレンはいつも護衛を兼ねて連れている、補佐官候補の生徒を今回は同伴させていなかった。
「今回は二日間だけだし、出歩くところも決まっているのだ。護衛ならホーライル侯爵令息のライル君と、リースト伯爵で魔法剣士、竜殺しの称号持ちのヨシュア君がいる。過度な護衛は必要ないだろう」
「そ、それは確かに……!」
一同に紹介されて、ライルとヨシュアは軽く微笑んで見せた。こういう場合は頭を下げるのでなく貴族らしく笑っていればいいのだ。
こう見えてライルは騎士団副団長の父や身内の騎士たちから指導を受け、学生ながら剣士として確かな腕を持つことが知られている。
ヨシュアは竜殺しの称号を授与されたとき、国内の新聞で大々的に紹介された過去がある。貴族や平民でも有力者クラスならよく知っているだろう。
一通り今回の小旅行の理由を説明し直して、何とか事なきを得た。
7
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる