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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
アヴァロニスの目的
しおりを挟むさて、何かと曰く付きの神人アヴァロニスの話の続きだ。
聖女だった実の姉が魔に落ちた、アドローンの聖女の悲劇後。彼は未来予測スキルの〝預言〟を得た。
その後、彼が下した預言には、姉、アドローンの聖女の魔による大陸汚染もあったという。
だが、同時に魔の封印についても預言していた。
「円環大陸の北部から西部にかけて、かなり広い範囲を邪気で汚染していてね……三千年前にカレイド王国の建国王が封印するまで、ほとんど人が住めず魔物が跋扈していたんだ」
この範囲にはカズンたちのアケロニア王国もあるが、歴史は二千年ほどだからアドローンの聖女の魔が封印されてからだいぶ後の建国になる。
「主だった預言はいくつもあるが、君たちに関係があるのは約九百年前に滅んだ北部の大国コーシャ帝国だろう。最後の皇帝の娘がロータスだったから」
「!?」
これもまたアイシャたちには初耳だった。
ロータス、即ち環ファミリーの親世代の片割れであり、最強聖女とも呼ばれている。
「アヴァロニスの預言はこうだ。『皇帝の跡を継げば偉大な女帝として円環大陸全土を支配し、魔力使いの道を選べば聖女となる』」
「結果としてロータス様がいま聖女ということは……」
「そう、皇女ロータスは最高の選択をした。世界皇帝を選んでいたらアドローンの聖女の魔に憑依されて世界が滅んでいた。だけど聖女の道を選んだから、破滅は回避された」
「あの女が最強なのは、世界の滅びを回避したことへの、世界の理からの褒美かもしれん」
ジューアがしみじみ呟いた。
聖女ロータスはパートナーの魔術師フリーダヤとともによく知られた人物だが、この話は少なくとも一般流通する書籍の中にはなかったはずだ。
「千年前には、魔人族と勇者の一族の対決を預言している。勇者の一族とはカズンとユーグレン、君たち今のアケロニア王族のことだ」
「「えっ!?」」
アイシャとトオンは驚いて二人を見た。
カズンに勇者の称号が浮き出ていたことから、アケロニア王族が勇者の一族と言われても納得感がある。驚いたのは、
「カズンたちってルシウスさんやヨシュアさんたちの一族と、そんな昔からご縁があったの?」
「……あったんだ。付き合いだけなら本当に千年越し」
「リースト一族は多分、王家が一番仲の良い一族だ。婚姻で縁戚になってないのが不思議なくらい仲が良い」
ユーグレンが鮭の人を窺うように見ている。
「肝心なのはここからだ。姉の魔堕ちをきっかけに預言スキルを得たアヴァロニスは、いつかは姉だった魔が浄化され消滅することも預言していた。だが、約八百年前を境としてアヴァロニスの預言精度は大きく低下することになった」
「八百年前というと。……環創成の魔術師フリーダヤが環を開発した時期、ですか」
年代からピンときたカズンにカーナ姫は頷いた。
「そう。環が生み出されたと同時に、預言は絶対ではなくなってしまった。環を通じて世界の理に人々が直接繋がった結果、未来への時間軸が揺らぐようになったんだ」
「預言に属する直観、忠告などのスキルも同じくでな。愚弟が持つ〝絶対直観〟が、絶対と付くわりに絶対でもない理由だ」
なるほど、と一同は頷いた。
ルシウスだけでなく聖女のアイシャも直観や忠告スキルは持っていたが、普通の人と比べて的中精度は高いのだが、100%とまではいかなかった。
「環はとても便利な術式だ。ある種、悟りの境地にすら導いて人生の苦痛を癒すのみならず、己の才能を伸ばすことにも、他人と通じ合うことにも使えるし、慣れればアイテムボックス機能や、能力の高い者なら空間転移すら可能にする。けどね」
「あの野郎は自分の預言スキルを揺らがせる環を、各国の為政者たちが警戒するよう仕向けた。これが円環大陸に環が広まりきらない本当の理由だ」
なるほど、と皆は頷いた。
環使いになってから漠然と疑問に思っていたことが氷解する。
魔力使いの世界は環が開発されて以降、旧世代と新世代に分かれたと言われている。
そのわりに、環使いに強力な術者が少なく、政治や経済、学術などの各分野でも目立った者が少ない。
環使いの数は多く、魔力使い以外の一般人にも使いこなせる者はいたが、傑出した術者は少なくやはり目立たない。
それどころか、自分を超え、外部から魔力調達できる大きなメリットがあるとされながらも、為政者に警戒されてすらいる。
アケロニア王族のカズンやユーグレンが環使いになったのは例外中の例外だという。
これら新世代の魔力使い、環使いたちのある意味〝不遇〟の原因に神人アヴァロニスの思惑があったわけだ。
「実際には、そもそも開発者のフリーダヤ自体にあまり欲がない。悪用されやすい空間転移やアイテムボックス機能などにも制限をかけているし、そもそも世界にとって危険な人物は最初から環を使う条件を満たさないのだから」
確かにアイテムボックス機能は制限付きだった。
環使いの持つ魔力量に応じて、最低木箱一つ分の容量がある。
今のところ確認されている最高容量はルシウスの倉庫三棟分だ。大容量ではあるが無制限ではない。
次いで、アイシャと鮭の人の倉庫一棟分が並ぶ。最強聖女のロータスも同じ容量だそうだ。
「アヴァロニスは名実ともに円環大陸の管理人の役目を持っているわけだ。その彼が言うのだから説得力は抜群だ。世界のメンテナンスのために生き、動く。だからアヴァロニスは、自分の預言に揺らぎを与える新世代の統合魔法魔術式環を、――封印したがっている」
そういうことか、とアイシャたちは理解した。
カーナ姫とジューアが説明してくれたことは、ここに繋がるわけだ。
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