上 下
294 / 296
第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

永遠の国と医聖

しおりを挟む

「ちょうど、今この国には魔術師フリーダヤと聖女ロータス系列のリンク使いが集まっている。いい機会だから、永遠の国について教えておこうか」

 フリーダヤはリンク創成の魔術師とも呼ばれる、リンクを開発した男だ。パートナーの聖女ロータスとともに八百年以上生きていると言われるが、アイシャとトオンはまだ会ったことがなかった。
 師匠のルシウスは彼らの直弟子で、カズンも祖国を出奔してから何かと世話になったと聞いている。

 今日のメンバーだと秘書ユキレラだけがリンク使いではないが、彼の場合はルシウスの秘書という性質上、同席を許されていた。

「永遠の国って、この円環大陸の中央にあるという?」
「そう。周りを水に囲まれた孤島でね。外界と隔絶しているから、空を飛ぶか空間転移でしか入れないところだ。進化した種族ハイヒューマンか、〝時を壊す〟を果たした者とその家族や近しい関係者までが入国できる」
「あとは聖女や聖者といった聖なる魔力持ちだ。今のお前たちは全員、入国基準を満たしているから、気が向けば訪れてみるといい」

 ということは、リンク使いとして聖者ルシウスや魔術師フリーダヤ系列の〝関係者〟枠での入国許可が降りるわけだ。

 なるほど、とアイシャは隣のトオンと頷き合った。この辺は一応、聖女のアイシャは基礎教育として簡単に学んできており、恋人で世話役のトオンとも情報を共有してあった。

「今では種族として少数化してしまった進化した種族ハイヒューマンと〝時を壊す〟を果たした者たち中心の小国でね。人口は……一万人いるかいないか。一般の人間から能力や技術が大きく逸脱した者たちの保護と管理を行なっている」
「お前たちも知っての通り、人間社会に必要な各種ギルドの統括本部はすべてこの国の中にあり、例外なく進化した種族ハイヒューマンが代表を担っている。人間社会に最低限必要なインフラは、カーナを中心とした永遠の国が整えたものだ」

 この事実から、永遠の国は円環大陸の支配者たちの国とも呼ばれている。

「ジューアお姉様は魔導具師ギルド本部の長でいらっしゃるのですよね?」
「そうだ。住民の進化した種族ハイヒューマンのうち、能力に見合った役職にそれぞれ就いている感じだな」

 他には冒険者ギルドであったり、生活に必要なスキルに応じたギルドがある。
 今日はルシウス邸で留守番中の料理人ゲンジなどは調理師ギルド所属で、これも永遠の国に本部がある。

 比較的近年に設立されたものでは〝労働者ギルド〟がある。
 近年といっても数百年は前だが、このギルドができたことで世界中の労働環境は劇的に改善されたと言われている。
 加入は任意だが、国や王侯貴族に仕える者であっても加入可能で、かつ労働者の必要最低限の権利が守られる。
 円環大陸にあった奴隷制度が表向き根絶される流れを生んだギルドでもあった。



「問題は、教会本部の長でね」
「医聖アヴァロニス様ですね。神人の」
「うん、彼はジューアと同年代の進化した種族ハイヒューマンだ。医を司る聖者で、昔はジューアと仲が良かったが、今は……。ああ、この話はやめておこうか」

 隣に座っていたジューアに 湖面の水色ティールカラーの鋭い目で見られて、慌ててカーナ姫が口をつぐんだ。

 姉様の元彼……とうっかり呟いたルシウスも睨まれて自分の口を手で塞いでいた。つまりはそういうことだ。

 そこからカーナ姫が語ったことは内容がとても重かった。アイシャたちには初耳のことが多く、ルシウスにとっては再確認の事柄だった。

「昔、アドローンの聖女と呼ばれた女がいた。一万年ほど前のことだ。名前はアデルミラ。当時の邪悪な支配者に騙されて〝魔〟に落ちた聖女だ。――アヴァロニスの実の姉だった」

 誰もが息を飲んだ。

「アヴァロニスが聖者に覚醒するきっかけでもあった。強姦されて孕んだ胎児ごと生き埋めの城の人柱にされて、息絶える直前に魔に変じた」
「この大陸の歴史上、最悪にして最凶の〝魔〟に変じてな……。三千年前に北部の大国カレイド王国を建国した弓聖のハイエルフが封印したが、余韻が常に円環大陸を漂っていた」
「えっ、それ大丈夫なんですか!? もしかして今もまだ残ってるんじゃ」

 慌てるトオンをカーナ姫は「大丈夫」と微笑みで制した。

「数十年前に今のカレイド王国の女王と、君たちリンクファミリーが協力して既に滅してある。若き頃の聖者ビクトリノの破邪の力を中核としてね」
「ビクトリノ様が」

 そういえば彼は地下ダンジョンの問題が解決した後、所用で一度永遠の国に帰国して、まだカーナ神国に戻ってきていない。
 今は暫定的にアイシャと同じ神殿所属神官となっているが、元は永遠の国の教会本部所属の聖者だ。

「もう一人、フリーダヤの弟子だった魔女メルセデスは残念ながら戦いの中で死んでしまった。生きていたらフリーダヤの後継者だったのだが」



 それからアイシャたちは医聖アヴァロニスについて、人々に知られていること、知られていないことの両方をざっと教えられた。

 神人アヴァロニス。
 永遠の国所属の医聖にして、教会本部の長。
 進化した種族ハイヒューマン精霊族の出身で、同じ人格の意識を保ちながら血族に生まれ変わり続けている。
 現在は東南部の王族の傍系家門の当主、大魔道士マーリンという別の顔を持つ。

「いろいろあるが、重要なのは姉が魔に堕ちたことをきっかけとして、アヴァロニスに〝預言〟スキルが発現したことだ」
「預言って」
「未来の出来事を100%の確率で見通す、――直観スキルの最高峰。レア中のレアスキルだ。今、持っているのはアヴァロニスだけだね」

 どうやらここからが、カーナ姫がアイシャたちを呼んだ話の本題らしい。


しおりを挟む
感想 1,045

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

ご自分の病気が治ったら私は用無しですか…邪魔者となった私は、姿を消す事にします。

coco
恋愛
病気の婚約者の看病を、必死にしていた私。 ところが…病気が治った途端、彼は私を捨てた。 そして彼は、美しい愛人と結ばれるつもりだったが…?

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。