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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
12.鮭の人こわい~修行改め限界突破
しおりを挟むトオンの古書店に来てからというもの、ユーグレンはカズンやアイシャ相手に時間があれば訓練をしている。
本人は大剣使いで冒険者ランクはBだそうだ。面白いものでカズンが持っている普通の鉄の剣やアイシャの拳や杖術の攻撃、ついでにいえばトオンの短剣の扱いなどもあっという間に覚えてしまい、皆を驚かせた。
適性がないもの以外でも、例えばトオンが環を使って開発した独自の術式まで難なく覚えている。
ちなみにユーグレンはコーヒーを入れるのも抜群に上手い。
調理スキルも飯ウマ属性も持ってないはずなのに、美味なコーヒーを安定して入れるのだ。
ブラックはもちろん、カフェオレが絶品だった。ミルクと砂糖の加減が絶妙でこれにはアイシャも絶賛していた。
「わあ。全方向に優秀な王太子って本当だったんだねー」
「こいつのこういう要領の良いとこがムカつくんだ。なぜそんなに簡単にこなすのだ!?」
買い物に出ても、カズンたちが財布を出す前にさっと会計を済ませてしまう。
「おまえそういうのやめろ! どこの彼氏だ、僕だって金ぐらい持っている!」
「なぜだ。一緒にいるのだから私が出すのが当然だろう?」
「………………」
駄目だ。こいつわかってない。
二人はアケロニア王家の近い親戚だそうだ。カズンのほうが数ヶ月だけ年下だが、ユーグレンの大叔父にあたるという。
ユーグレンの曾祖父がカズンの実父になる。カズンの父はアケロニア王国の二代前の国王だが、退位後に若い後添えの夫人を迎えてカズンが産まれている。
同い年だから何かと競い合う二人を、アイシャとトオンは生温い視線で見守っている。
ちなみにカズンとヨシュアだと、普通に細かいお金の貸し借りは気にしていないようだ。
「「幼馴染みだから」」
「二人とも、ずるいぞ!?」
この三人組は何かと仲が良い。
そんなユーグレンに触発され、カズンが張り合いだした。
「修行だ、修行して僕は強くなりたいのです、ルシウス様!」
さっそくルシウス邸を突撃して教えを請うた。
話を聞いてアイシャやトオンだけでなく、ピアディまでも張り切って加わってきて、さてどうしようかとルシウスが思案している。
アイシャとトオンを見た。
「そういえば、お前たちの修行は止まっていたな。最近までいろいろあったからダンジョン潜りもしていなかったか」
「代わりに超弩級ダンジョンに潜ってましたもんね……はは」
話を聞いて横入りしてきたのは、ピアディを連れてきた鮭の人だ。
「叔父様はあまり教えるのが上手ではないから、お勧めしません。でもリースト家の嫡子が代々学ぶ伝統的な修行方法なら、最初の一ヶ月で飛躍的に伸びますよ」
「い、一ヶ月で? それならぜひお願いしたいわ!」
指導を横取りしようとする甥っ子に、ルシウスは渋い顔をして何度も念押ししてきた。
「確かに私は人にものを教えるのは苦手だが……。いや、お前たちがヨシュアで良いのなら私は何も言わんが。……本当に良いのか?」
ここでちゃんとルシウスの話――忠告を聞いておけばよかった、とアイシャたちが後悔したのはその数日後だった。
「まずは山でも登りましょうか」
鮭の人から連絡を受け、一同、登山の準備をして近場の山まで来たわけだが。
「山で修行かあ。いいね、それっぽい」
「ふふ。足腰も鍛えられるしね」
呑気におしゃべりするアイシャとトオンの後ろでは。
「ヨシュアの修行か……カズン、お前経験あるか?」
「ルシウス様の監督下で別々の訓練をやったことはある。楽しみだよな」
「……彼はユキレラの師匠らしいぞ。ルシウス様と出会った成人後、数年かけてみっちり魔法剣を使いこなすまで教え込んだらしい」
「ユキレラさんはああ見えてBランクの騎士相当の実力だという。なるほど、やはり楽しみだ」
「お前、そんなこと言って……」
ユーグレンひとりが戦々恐々としていた。
どういうわけか、カズンはもちろん、アイシャやトオンまでもが鮭の人ヨシュアへの信頼度メーターは上限が振り切れている。
山の七合目あたりで、頂上ではなく崖っぷちに集合した時点で嫌な予感がした。
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